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書き置き

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 ガチャッ


 結婚式の警備に関する用事を済ませて来たクラインは、一度資料を取りに部屋に戻った。


「ようやく一段落、か……まぁ、このあと会議もあるけどな。休みてぇけど、この激務とも明日でおさらば。そう思えば名残惜し……くはねぇなぁ」


 フローラの専属騎士としての任務だけでなく、クラインは家柄に関する任務もこなしている。

 彼の家────アルベルト家は、代々名の通った剣豪を世に生み出している名家だ。

 クラインはその家の次男であり、長男程では無いものの、彼の剣技を頼る者は後を絶たない。


「ん?何だこの紙」


 クラインは、扉近くの床に落ちている紙を拾う。


「“紅茶のおかわりの際は、茶葉から変えてくださいね。ワタリ・ユイ”────あいつ、あの後戻って来てたのか」


 部屋を見渡すが、彼女の姿は見当たらない。

 しかしその代わりクラインは、妙な違和感を覚えた。


「……物の位置が微妙に動いてねぇか?この部屋」


 それは見渡さなければ気付かない程の些細なズレ。

 常に周囲を警戒しているクラインだからこそ、気付けた違和感。


 机の中を確かめ、外観だけでなく、中身の位置までも若干変わっていることが分かった。


「ユイの仕業……とは考えにくいな。俺が部屋を留守にしていた時間はそう長くはなかった。そんな短時間で女一人が、部屋中の家具まで動かせるとは考えにくい」


 それよりも他の訪問者がいたと検討付けるべきだ。

 大事な資料などは隠してあるため、まず見られた可能性は低いだろうとクラインは思考を巡らせる。

 いや、そもそも何を探す目的で侵入したのかが分からない。


「……そういえばユイは、なぜこの部屋に戻った?証拠を持ってくると啖呵を切って出て行ったというのに」


 そこまで考えて、はたと気づく。

 彼女がただ戻って来たのではなく、証拠を持って戻ったのだとしたら?

 そしてそれをこの部屋に隠したところでバレて、追っ手がこの部屋を捜索したと仮定すれば……


「これだけの家具が動いてるのにも納得がいくな。そうなると、必然的に追っ手はユイが証拠を奪った相手に……」


 ふとクラインは、部屋を出て行く前のユイの言葉を思い出す。


 怪しいのは、シュバイン・リーズベルトの護衛達。


「……いやいや、ありえねぇだろ!そうだ、大体こんな短時間で証拠なんて見つかるはずがない。もっと他のやつらがこの部屋に入ったんだろ、きっと……きっと、そうだ!!」


 そう自分に言い聞かせるように叫んだクラインは、何となく先程の結衣の書き置きが気になり、喉の渇きを覚えた。

 そして、紅茶を淹れるために茶葉の入った缶を取る。


「おかわりもなにも、結局あいつ紅茶淹れて行かなかったじゃねぇか」


 茶葉を淹れ、缶を戻しかけてふと疑問がわく。


「あいつ、この部屋のどこに証拠を隠したんだ?そもそも証拠が何かも、まだ分からねぇし。持ち去られた可能性だってある……ん?まさかっ!!」


 クラインは、このメッセージに隠し場所が書かれている可能性に気が付いた。


「だが一見すると、普通の書き置きだよな。違和感があるとすれば、おかわりと書いてあることくらい……あぁ、なるほどそうか!」


 手に持ったままだった缶の蓋を取り、茶葉の中に手を入れる。


 するとカサッと何かが手にあたる感触がしたのを感じ、クラインはそれを掴んで茶葉の中から取り出した。


「……封筒?」


 どうやらすでに開封されているらしく、クラインは封筒を開いて中を読む。

 だがそのあまりの内容に、クラインは一瞬何が書かれているのか理解することが出来なかった。




「……おい、何だよこれ。こんな────こんな手紙嘘に決まってんだろ?!なぁ、頼む……誰か嘘だと言ってくれ!こんな……こんなもん、信じねぇぞ!!俺は!!」


 だがこれが嘘だというのなら、この部屋の現状は一体何だというのか。

 戻って来たはずの結衣が、姿を見せないのはどうしてか……


 否定しようとするたびに、潜在意識が冷静に矛盾を押し付ける。

 いっそのこと、この手紙を破いて、破いて、破きまくって、燃やして消し去ってしまいたいほどに、クラインにはこの手紙の存在が許せない。


「こんな手紙、フローラが読んじまったら……ッ!」


 それだけは絶対に嫌だった。

 彼女が悲しむ顔を、クラインは一番見たくはないのだから。

 でもだからと言って、この内容を看過できるはずもない。


「確かめねぇと……直接、シュバインに」


 もちろん単身で乗り込むような馬鹿な真似はしない。

 悔しいが、王子の護衛達も優秀だ。

 もし敵だったなら、状況と人数次第では、とても全員を一人で相手にできるほど弱い相手ではない。


「チッ……頼むしかねぇか、あいつに。────借りを作るようで嫌だけど、緊急だ。仕方ねぇ!」



 クラインは悔しげにそう呟くと、手紙を片手に部屋を飛び出したのだった。



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