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ミッションオールクリア…?

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 “未来の妻”。

 その言葉は結衣の胸に深く深く突き刺さる。

 その言葉に対するシュバインの否定の声は聞こえない…。


 ああそうか、と結衣は狭いクローゼットの中で脱力し、長い長いため息をついた。


 今、この瞬間に、はっきりとしたのだ。


 シュバインが黒だということが。

 彼が紛れもなく、この件の首謀者であるという事実が。



「この手紙はいかが致しましょう」


「ん?ああそうだな、今下手にそれを部屋の外に持ち出して処分するのはマズい。どこでへまをするかも分からないからな。貸せ、それはこの机の中に隠しておこう」


 ある意味一番この部屋が安全だ、とシュバインは笑う。

 まさかその一番安全な部屋の中に身を潜め、会話の全てを聞いている者がいるとは夢にも思わずに……


「このあとは確か教会に顔を出すんだったか」


「はい、その通りです。行かれるのでしたら、私がこのままお供致しますが」


「そうだな、では頼む。そういえば母上や兄上はもういらしているのだろう?」


「はい、国王様は国を離れるわけには参りませんが、他の王家の方々は皆様到着されております」


「じゃあ挨拶してから教会に出向くとしよう」



 ガチャッと音がして、扉が閉まる。

 二人は出て行ったのだろう。

 シュバイン王子の部屋から、人の気配が完全に消えた。


 キィー


 クローゼットの扉をゆっくり開き、結衣は王子の机に忍び寄る。


「確か、ここにしまったんだよね」


 引き出しを開けると中はペンが一本あるのみ。

 手紙らしきものの姿はない。


 でも結衣は落胆したり、諦めたりはしなかった。

 なぜなら彼女には、ファンタジー小説の知識が味方についているからだ。


「大抵こういうときは……」


 ガタッ


 引き出しの底の部分の板が外れる音がして、さらにその下から板が見えた。


「ほらね、二重底になってた───はい、お宝ゲーット!!」


 板と板の間に隠れるようにして置かれているのは白い手紙ーーーミシェル・フレデリスからの手紙が一通隠されていた。


 無事にお宝───もとい証拠を手に入れた結衣は、小さくガッツポーズを取る。


「よし、これであとはここから抜け出せばミッションオールクリアだね!」


 ベランダのような所の窓を開け放ち、部屋で見つけた花瓶を手にする。そして自分は部屋の扉の脇に身を潜め、逃げ出す準備を整えた。


「で、花瓶をベランダ近くに投げれば……」



 ガッシャーン


 派手な音を立てて花瓶が割れる。


 ガチャッ


「何事だ?!」


 その音を聞きつけて、部屋に入ってきたのは先程の護衛───二度も部屋の中を確かめてきた注意深さを持つ、護衛だ。


「───ちっ、窓から逃げたか!やはり先程の窓は陽動、あの時点で部屋に?……ん、もしあのあとシュバイン様とエギルが例の件の話でもしていたら……!!」


 事の重大さに気付き、タタタッと慌てて窓に走り寄る護衛。

 片やその音に紛れ、重要な証拠を抱えて部屋を抜け出す結衣。


 二人の緊張感は、互いに違う意味で極限まで高まっていたのだった。









 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 シュバインの部屋を脱出してすぐ結衣が向かった先は、もちろんクラインの部屋だ。

 大事な証拠を一刻も早く手渡したくて、自然に歩調は速くなる。


「これならー─ーこれならきっとクラインも、私を信じてくれるはず!待っててねフローラ、私が必ず救ってみせるよ」


 部屋の扉を急いで叩き、クラインを呼ぶ。


「クライン、私!結衣です。約束通り証拠持ってきました!」


 だが呼びかけても返事はない。


「ーーー入りますよ?」


 ガチャリと扉を開けて、ゆっくりと部屋に入る。

 しかし部屋のどこを見渡しても、クラインの姿は見当たらなかった。


 ようするに今、クラインは不在だったのだ。


「……マジか、拍子抜けしたな。居ないものは仕方ないから、とりあえずこの証拠部屋の中に隠しておこう」


 大切な証拠を長く持ち続けていられるほど、結衣は警戒心が強くはない。

 その上、いざという時に証拠を守れる力は彼女にはないのだ。


「うーん、クラインにしか分からなくて、誰にも見つからない場所かぁ」


 先程、別れる前のクラインとの会話を思い出す。



「あ!これならいいかも───よし、ここにしよう」


 たった今思いついた、とっておきの場所に慎重に手紙を隠す。

 そして、忘れないうちにその場所のヒントを紙にメモした。


「ふぅ、あとはクラインが帰ってくるのを待つだけだね。ようやく一息つける……」


 部屋に置かれている椅子に座り、結衣はしばらく緊張をほぐした。

 この城内に入ってから今まで、終始緊張状態にあった結衣にとって、この一時が彼女の心に安らぎをもたらしていく。



「早く帰って来ーい、クライン」


 結衣がぽつりと呟いたのとほぼ同時。

 突然トントンと扉を叩く、音がした。



「あ、クライン?お帰りなさい、ちょっとお邪魔してーーーえ?」




 今扉の前に立つ人物は、完全に結衣の想定外。

 そして今、最も会いたくないその人が、結衣の目の前に立っていた。


 ーーー白髪に赤い目を持つ、結衣が今最も会いたくないNo.1のあの人が。


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