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公爵令嬢からの手紙

新たにブックマーク登録してくださった方ありがとうございます!最大級の感謝を込めてお礼を!

 大きな音を立てないように、物の位置をなるべく変えないように気を付けながら、結衣のトレジャーハントは着々と進められていた。

 クローゼットの中、本棚、王子の机、ベッドの中。

 部屋にある家具という家具を端から順に探していく。


「うーん、やっぱりなかなか証拠なんて見つからないなぁ。せめてこの世界に録音機能があるものでもあれば、王子を揺さぶって言質が取れるのに……」


(でもここで諦めるわけにはいかないんだ。証拠を持って行くと、私はクラインと約束した。証拠さえ持って行けば、クラインだってきっと信じてくれるはず!)


「うん、諦めるな私!!」


(誓ったから。この世界にループして草原で目覚めたそのときに、もう二度と、フローラを死なせはしないと。そう、自分に誓った。だから私が諦めることだけは────決して許されない)


 探す手を止め、部屋をぐるっと見回す。

 次に探す場所を決め、手を伸ばしたそのとき……




「お帰りなさいませ、シュバイン王子」


 扉の外で、護衛が王子の帰りを告げる声がした。


(え、何でもう帰ってきたの?!だってまだ出て行ってから、そんなに時間はたってないよね?!)


「こんな早く帰ってくるなんて、完全に想定外なんだけど!!」


 考えるより先に身体が動いて、結衣はクローゼットの中に身体を滑り込ませる。


 ガチャッ


 クローゼットの扉を閉める音と、部屋の扉が開かれる音はほぼ同時。

 あまりにも突然の帰宅に、彼女の心臓はバクバクだ。


(どうしようどうしようどうしよう!まだ証拠見つけられてないのに、もしクローゼットの中にいることがバレたら……長居すればするほど、見つかる確率は高まるよね、私は一体どうするべき?!)


 心臓の拍動が、胸に手をあてなくてもバクバクと聞こえてくる。

 手にはじんわりと汗をかき、今はただこのクローゼットの扉が開かれないことを祈ることしか、結衣の頭には無い。


 そんな結衣の緊張を余所に、部屋に戻ったシュバインと王子の護衛の一人であるエギルは、何やら話をし始めた。

 エギルの手には、一枚の封筒が握られている。


「宜しかったのですか、フローラ姫をお起こしにならなくて」


「ああ、寝ている彼女を起こしてまで会いたいわけではないからな」


(あ、そっか。フローラ寝てるんだった、だからこんなに早く帰って来ちゃったのね……)


「シュバイン様。先程申し上げました通り、リーズベルト国フレデリス公爵令嬢、ミシェル・フレデリス様からのお手紙でございます」


「ああ、おおよそ中身の検討はつくが、一応読み上げてくれ」


 リーズベルト国の公爵令嬢と聞き、結衣は静かに聞き耳を立てる。


「は、かしこまりました。では……」


 エギルの緊張した声が、ミシェル・フレデリスからの手紙を読んでいく。

 そしてその手紙が読み進められるのと同時に、結衣の表情は次第に凍りついていった。

 その予想もつかない内容に……それを後に知ることになるかもしれない、彼や彼女の気持ちを考えると。


 “ふざけるな”、そう結衣は思わず叫びかけていた。

 自分の今の状況も忘れて、クローゼットから飛び出してしまいたい衝動に駆られるほどに。


 目から自然と零れた涙に自分でも気付かないほど、静かに、静かに涙が零れる。

 この涙は一体何から来るものなのか。

 悲しみか?怒りか?────否、どちらも通り越して最早呆れや悔しさからだ。


「……こんな────こんな理由のために、フローラは殺されなくちゃいけないの?」


 呟いた声はかすれて誰にも届かない。

 それほどエギルの読み上げた手紙の内容は、結衣の感情を高ぶらせたのだった。











 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「背景、シュバイン・リーズベルト様。とりあえずはご結婚おめでとうございます、と申し上げます。隣国との友好関係のために故郷を離れられたシュバイン様のお気持ち、わたくしごときには計りしれません」


 エギルはそこで一旦間をおく。


「……先が長そうだなエギル。読み上げるのが億劫になったら、いつでも切り上げて構わない」


「いえ!シュバイン様へのお手紙を読み上げる、この名誉ある仕事を自分は完遂したく!」


「切り上げても構わないんだからな、エギル」


「……はっ!お心遣い感謝致します。やはりシュバイン様はお優しい!」


(いやいやいや、今のは確実にシュバインが手紙の内容聞くの面倒くさくなっただけでしょ!!)


 事実結衣の突っ込みが正しいのだが、エギルはその真意に気付くことなく先を読み進める。


 ────ですがわたくしのシュバイン様への愛は、一日たりとも忘れたことはございません。

 シュバイン様の、この国を完全にリーズベルト国のものにするという目的のためならばこのミシェル・フレデリス、あなた様がバツイチとなろうが気にしません!

 フローラ姫が死んでもあなた様が王になるためには、結婚式はしなくてはなりませんから。それに……


 だって最後にはわたくしを選んで下さると、国を出るときに約束してくださいましたから。


 そちらのフローラ姫の死に対する喪に服す期間は、あなた様の仰る通り設けます。

 その間、あまりお話すること叶わないのが残念ですが、喪が明けた暁にはあなた様の妻になる喜びを糧に、頑張りますのでシュバイン様もお変わりなく。


 ─────あなたの未来の妻、ミシェル・フレデリス







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