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王子の部屋侵入作戦

 クラインは結衣の発言の内容に耳を疑っていた。

 それもそのはず、よりにもよって彼女が出した実行者の名は……


「シュバイン王子の護衛達がフローラを殺すって?お前、自分が何を言っているのか分かってるのか?」


「え?あ、はい。一応分かってるつもりですよ。王子の護衛を犯人呼ばわりすれば、それはそのまま王子への不敬罪に繋がってもおかしくはないということですよね?」


 その言葉の意味とは裏腹に、あまりにもケロリと言い放つ彼女の姿に、クラインはただ呆れるしかない。


「……そうだ、特に今回の護衛達は王子自らが選んだ精鋭揃い。そいつらが犯人であるのなら、王子も疑うことになるんだぞ。そこまで分かっていながら、なぜそんな馬鹿なことを言えるんだ!」


「ですよねぇ。普通信じませんよね、こんな話。しかも相手はフローラ姫の婚約者だし。正直王子がこの件に加担しているかどうかは分からないんですよ」


 うーん、と考え込んでいる結衣を目の前に、クラインはこの件をどうするべきか悩む。


「……お前の話が事実なら一大事だな。仮にもこの国の次期国王になられるお方だ。その方が悪人ならば、いずれ国も滅びる」


「じゃあ、信じてくれますか?!」


「まさか。お前、そんなこと言っているが証拠はあるのか?証拠も無しに、王子より今日会ったばかりのやつの方を信じろと?」


 “虫のいい話だな”、と軽く笑うクライン。

 結衣もクラインのもっともな主張に、首をうなだれるしかない。


「……なら、証拠持ってきます」


「は?」


「必ず証拠を見つけて、クライン様の元に届けます!だからーーーお願い、そのときは私を信じて!!」


 バタンッと盛大な音を立てて、クラインの部屋の扉から結衣が走り去る。

 走り去る前の彼女の表情に動揺して、クラインは彼女を止めることができなかった。


「……何だってんだ一体。証拠を見つけるって、あいつどうするつもりなんだ?」


(信じろと、泣きそうな顔であいつは俺にせがんだ。初めて会ったはずなのに、その顔を、その願いを、信じてやりたくなる自分がいる)


「ワタリ・ユイ、か」


 聞いたことのない独特な響きの名前は、深くクラインの心に刻まれたのだった。















 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「さて、勢いで部屋を飛び出して王子の部屋の近くまで来ちゃったわけですが……」


 クラインに“証拠を見つける”なんて啖呵切って来ちゃったものの、正直どうすれば証拠何て見つけられるのか検討もつかない。


「あるとすれば、やっぱり王子の部屋の中しかないか。問題はどうやって忍び込むか……」


 柱の影に隠れて周囲を見回す。

 あるものといえば高そうな装飾品ばかりで、使えそうなものは見当たらない。


 ふと、花瓶の置かれているテーブルの上を見る。


「あ、これなら……」


 手に取ったのは、野球ボールサイズの置き石。

 おそらくその下にある何かの紙が、風に飛ばされるのを防ぐためのものだろう。

 それを目にした瞬間、結衣の頭にある名案が浮かんだ。


「王子の護衛は扉の前に二人。王子は……部屋だよね」


 シュバインが部屋の中にいる間は、結衣は動くことはできない。タイミングは王子が部屋を出ているその間だけだ。


 しばらく結衣は、柱の影に隠れて待った。


 ガチャリ


「お出かけですか」


「あぁ、ちょっと我が愛しの妻の顔を拝んでくるよ」


「了解しました。ーーーおいエギル、シュバイン様について行け。今は他の護衛達もやることがあって出払っている。ここの守りは俺一人で十分だ」


 扉の前にいる片方の護衛が、もう片方の護衛ーーーエギルに話す。


「分かった、じゃあ頼んだぞ。シュバイン様、よろしいですか?」


「ああ、もちろん構わない」



 シュバインとエギルはフローラの部屋へと向かい、二人の姿が見えなくなる。


「よし、じゃあさっさと始めますか」


 結衣はいそいそと野球ボールサイズの置き石を手にとって、遠くの窓の方を向く。


「せーの!」



 ガッシャーン



「な、何だ?!何の音だ?おいエギル……って、いないんだったな!」


 扉を守っていた護衛が、音のした方に慌てて駆けていく。

 その隙に、結衣は王子の部屋にスッと忍び込んだ。


「侵入成功っと!あ、一応隠れておこう」


 大きなクローゼットの中に身を隠し、しばらく耳をすませる。

 すると案の定ガチャリと音がして、扉が開いた。



「まさかとは思うが……誰もいないな、あの窓ガラスを割ったのは、侵入のための陽動かと思ったが考え過ぎだったか」


 ガチャリと再び音がして、扉が閉まる。


 キィー


 こっそりとクローゼットの扉の隙間から顔を覗かせ、護衛が部屋にいないのを確認ーーー


 ガチャッ


「……やっぱり考え過ぎだったか」


 部屋の扉から再び顔を出したのは、王子の護衛。

 まさかの再登場に、結衣の心臓はビクリと跳ね上がった。


(あ、あ、あ、あっぶな───っ!!再確認とかしますか?普通!!……さすがは王子自らが選んだ精鋭達。あ、侮れない)


 今度こそ護衛が部屋の外に出たのを確認し、結衣もクローゼットから抜け出した。


「ではでは、トレジャーハント開始と行きますか!!レッツお宝探し!」


 こうして、証拠というお宝を見つけるためのトレジャーハントが、今、開幕した。

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