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騎士とメイド

「ほー、メイドのくせに貴族の俺を城内で呼び捨てとは珍しいな。俺じゃなければ、不敬罪でどうなっていたか分からないぜ?」


(あーっ、もう!どうしてこの人はいつも思わぬ所から現れるかなぁ?!また名前呼んじゃったじゃん!!)


「あ……大変申し訳ございません。クライン……えっと────」


 クラインの家名を言おうとして結衣は、はたと気づいた。


(あれ、今更気付いたけれど、そういえば私クラインの家名知らないや。初めて会うときはいつも城の外だったから、クラインも敢えて名乗らなかったし)


「まさか、俺の家名を知らないのか?マジかよ、これでも一応フローラの専属騎士だし貴族の位も上の方なんだけどな。城外ならまだしも、城内で知らないやつがいるとは……」


「す、すみません。私田舎者ですし、つい最近メイドになったばかりなので」


 結衣は自分が異世界人であるというボロが出ない程度の言い訳をしつつ謝る。


「別にいいさ。改めて、俺はクライン・アルベルト。フローラ姫の専属騎士をしている者だ。まぁ、城内にいたら互いにどこかでまた会うかもな。お前は?」


(じゃあ私も改めて────って言ってもクラインにとっては初めてか)


「渡 結衣と申します。ちなみに、変な名前とか言わないで頂けると嬉しいですね!」


 この世界に来て初めて、結衣は名字を誰かに明かした。別段特別な事でもないはずなのに、それをとても嬉しいことのように感じたのだった。


「……はは、まさかそんなこと騎士が言うはずないじゃないか!ハハハハハッ」


「ですよねー、ウフフフフフ!……ところでクライン・アルベルト様、少しお耳に入れたい話があるのですが。……フローラ姫のことで」


(これはフローラの危険を伝える、またとないチャンスだ。王子の部屋に忍び込む前に、クラインにきちんと伝えておこう)


「……フローラのこと、だと?お前は一体何を言うつもりなんだ?」


「ここでは人目がございます。できれば場所を変えていただけると嬉しいのですが……」


 急に真剣な表情になった結衣に、クラインも態度を改める。


「……何か重要なことらしいな。分かった、俺の部屋で聞かせてもらう。それまでは怪しまれないように、歩きながら何か他愛ない会話すんぞ。それから、俺のことは、クラインで構わない」


「ありがとうございます。ではクライン様に、質問を。何故フローラ姫の部屋とは反対側から歩いて来られたのですか?聞けばフローラ姫様はお部屋でお休みのご様子。てっきりお側にいらっしゃるのかと……」


 結衣はてっきり、クラインも抜け道から帰ってきたのだとばかり思っていた。しかし実際に彼が歩いてきた方向は、フローラの部屋とは反対方向。

 何故一緒に帰ってこなかったのか、疑問に思ったのだ。


(あーもう、クラインとフローラが城下町に出ていたことは知るはずのない事実だから、それを言わずに質問するの難しいな!)


「いやそれは……お、俺だって四六時中、姫の側にいるわけじゃねぇからな。たまたま側を離れただけのことだ」


 しかしそのあと独り言のように小さな声で、


「フローラの部屋からいないはずの俺が出てきたら、めちゃくちゃ怪しまれるじゃねぇか!」


 と呟くのが聞こえる。


 なるほど、確かに言われてみればそうだと結衣は思う。


 今回彼女が疑われずに部屋を出られたのは、たまたま衛兵が交代したばかりだったため。

 普通に正面から出入りできるクラインが、わざわざ抜け道の存在を匂わせるような行為をする必要はないだろう。


「ほら、部屋に着いたぜ────言っておくが、お前がここに入るのは、俺が紅茶を飲みたいと言ったからだ。その紅茶を淹れるために、お前はこの部屋に入る。それだけのことだ」


「はい、その通りです」


 部屋の扉が閉められ、クラインの部屋には部屋のあるじと結衣の二人きりになる。


「じゃあユイ、だったか?その話とやらを聞かせてくれ」


「分かりました。私の話は、明日の結婚式でフローラ姫が命を狙われるというものです」


 クラインは話の内容をある程度予想していたのか、さほど驚く様子はない。


「それは想定内だ。だが、なぜお前はそれを知っている?お前はただのメイドだろう。それとも……」


「いえいえ、私はほんとにただのメイドですよ!でもメイドだからこそ、たまたま耳にする話もあるというわけで。ほら、そのうえ女の情報網はハンパないですし!」


「……そうか。だが、誰に狙われるのかまでは分かってないだろう?フローラの身辺は注意するが、相手が分からないのではやりにくいな」


「あー、首謀者は分かりませんが、実行者なら分かりますよ。まぁ個人の特定、とまではいかないですけど」


 クラインは始め、結衣の話を話半分で聞いていた。

 狙われていることは分かっているし、過去にはこの手の方法で自分に近づき、誘惑してくる女までいたからだ。

 内容が内容だけに無碍むげにもできず、そういう女達は話を聞くだけ聞いてさっさと帰している。


(だがこいつはどうやら本気のようだな。しかも実行者まで知っているとは、本当にこいつは何者なんだ?目を見る限り、悪いやつには見えないが)


「信じられないかもしれませんが、実行者は王子の護衛達なんです」


「……は?」


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