戦闘準備
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最初は明るかった抜け道も、城内に入った辺りで明かりはほとんど無くなりかけていた。
前回とは違いフローラがいないため、抜け道にはとにかく明かりが少ない。
幸い道幅は広くはなく、完全に手探り状態ではあるものの、結衣は目的地へと歩を進めている。
「ここで魔法とかが使えたら、めちゃくちゃ楽なのに……」
(まあ無いものねだりをしても仕方ないのは分かってるんだけどね。というかそもそも、この世界って魔法は存在するのかな。今度クラインかフローラにでも聞いてみよう)
クラインとフローラのことを考えて結衣は、はたと気付く。
(あ、でも今二人にとって私はただの赤の他人なのか。いやでも、無事に王子の正体暴いたらちゃんと知り合う予定だし……うん、そのつもりだもん)
今結衣が歩いている場所は流石に抜け道なだけあって、所々に分かれ道やくねくねしているところが存在し、自分が正しい道を選択しているのかあまり自信がなかった。
若干不安になりつつも結衣は手を前に突き出し、行く手に障害物がないのを確認しようとする。
天井はすでに低くなっており、今は屈みながら歩いている状態だ。
コツン
「……あれ?前に壁がある。まさか行き止まり?え、嘘やっぱり道順間違えてたの?!」
オロオロとしながら結衣は、周りの壁を手探りで探る。
(もし間違えていてかなり引き返すことになったらちょっとマズいかも。下手したらクラインとフローラと鉢合わせになる!それだけは絶対に困る!頼む神様、道順合ってるって言ってください!!)
手を合わせて神様に祈りつつも、よく考えればこの世界の神を彼女は知らない。
(異世界人がこの世界の神に祈っても、果たして効果はあるのかな……うん、まぁ細かいことは気にしない気にしない!)
プラス思考で明るく努める結衣だったが、結局の所彼女の心配は杞憂に終わることとなる。
カチッ
壁を探っている途中で、何かのスイッチを押したようだ。
低い天井の方から何かが外れる音がした。
「あ、もしかして……」
そろそろと天井を触ると、予想通り一部が外れる感触がある。
どうやら無事、フローラの部屋に着いたようだった。
あまり音をたてないように気をつけながら、結衣は抜け道からフローラの部屋に出る。
幸いなことに部屋には誰の姿もなく、結衣の侵入が誰かにバレることはなかった。
「よし、第一関門突破かな?次の関門はこの部屋をどうやって怪しまれずに出るのかだけど……まあ、あの方法しかないよね……うん」
部屋の扉の前には衛兵が二人。
とてもじゃないが、“正体バレたら裸足で逃走!”が出来るような人数ではない。
それが通用するのは、自身の体力と持久力的に考えて1対1のときだけだ。
我ながら何て頼りない体力だろうとは思うが、別に部活はスポーツ系ではないのだから仕方がない。
家庭の手伝いがあったため忙しい部活は出来ず、その上何と言ってもお金が無いので、結衣は大好きな本を読み放題の、図書部に入っていたのだった。
(だから体力や持久力なんて、必要無かったんだもん……言い訳はそれくらいにしておいて、さてと例の物を取ってこなくちゃ)
大きなクローゼットの扉をゆっくりと開き、見ただけでも恥ずかしくなる例の“あれ”を取り出した。
「だから何でこんなにスカートの丈、短いの?!何なの、これ作った人誰よ、一体!あ、もしかして王様の趣味とか?!」
今からこれを着なくてはいけない現実から逃避して、器用に声量を落としながらも結衣は文句を言いまくる。
そう。結衣が考えた方法とは、フローラの部屋にあるメイド服に着替えてメイドになりすまし、堂々と扉から出るというもの。
一度目の経験で、この部屋にあるものと城内の知識があったからこそ思い浮かんだ名案だ。
もし過去二回とも城内に入ることすら叶わなかったなら、今頃結衣はまだ抜け道辺りで右往左往していたことだろう。
過去二回のフローラの死を、決して無駄にはしないと結衣は心に決めている。
死の悲しみを乗り越えて、それぞれのループで精一杯もがいて……もがいて……もがきまくった。
だからこそ今があるのだと、結衣は証明したいのだ。たとえ証明する相手が、自分自身しかいなくとも───。
「待ってなさい王子!今、私があなたの護衛達の企みを必ず暴いてやるんだから。もちろん、あなたが白か黒かということも含めて……ね」
フローラに教えてもらったメイド服の着替え方を思い出しながら、結衣は敵陣に乗り込む準備を整える。
メイド服という名の、戦闘服に身を包んで───。