三度目の挑戦
「さすがにこの景色も見飽きたな……」
目をあけると広がっているのは、青い青い綺麗な空。
でも合計三度目ともなれば、そりゃ新鮮味も失せるというものだろう。
結衣はヒョイッと立ち上がって、辺りの草原を見渡した。爽やかな風が、彼女の髪を軽く撫でていく。
「うん……よし、絶対今回でループから抜ける。もう、決めたんだから!」
悲しみも後悔も、全部あの暗闇に置いてきた。
過去二回の世界での反省も、しっかりと心に刻み込んだ。
とにかく今の目標は、“とりあえず王子の部屋に忍び込んじゃえ!”大作戦の決行。
(前回は抜け道の入り口で、クラインとフローラに見つかっちゃったからね……今度は慎重に忍び込まないと!!)
そして結衣は今回のループにおいて、大胆な思いつきをしていた。
それは……
クラインとフローラとの出会いのイベントを全部無視して、さっさと井戸の入り口まで一直線!
と、いうもの。
なぜなら過去二回の経験から、井戸の入り口に着くのが遅ければ遅いほど、抜け道を誰にも気付かれずに使うことが不可能になっていくことを知ったからだ。
もしフローラ達が城へ戻ってしまえば、抜け道から出るときに、どうしたって部屋にいるフローラかクラインにばれてしまう。
でもフローラがクラインと一緒に抜け道に来る前ならば、誰にも気付かれることなくフローラの部屋に出ることが出来るのだ。
(何て名案、気付いた私に賞賛の拍手を送りたいくらい!……まあそれによって生じるリスクもあるにはあるんだけどね)
例えばそう、クラインにフローラが狙われていることを忠告出来ないことなどはかなりのリスクだ。
それのせいで、王子の護衛を選ぶ人が王子のままになる可能性は高いだろう。
そして、王子は必ずエンドを選ぶ。それは分かっている。
その上エンドは確実にフローラの命を狙う側の人間で、しかも護衛一番の手練れ。
そんな彼を選ぶ可能性を残すのは、一種の賭けだった。
選ぶ過程で王子が彼の正体を知っていたら黒、知らなければ白だと分かる。
そこまで考えると結衣は、イノシシに出会う前にここを去る事にする。
前回までは状況把握にかなりの時間を必要として、ここに長く留まっていたはずだ。
周りを警戒しながら、結衣は草原を慎重に進み、何とか見慣れた城下町にたどり着いたのだった。
イノシシのご登場にかなりの警戒心を向けていたからか、人々で賑わう町中を目にして、結衣は知らず知らずのうちにホッとため息をつく。
「安いよー、今日はリンゴが特売品だよ!お、そこの綺麗な奥さん、どうだい見てくれこのリンゴ。そんじょそこらのリンゴとは違うぜ?奥さんみたいに綺麗に輝く上物だ!」
「ねーねーお母さん、このブレスレット買ってぇ!あたしこれ欲しいよー」
「ふぅ、早く買い出しして帰らないと、お嬢様に怒鳴られる……ったく、あんなわがままお嬢様だとは思わなかったぜ」
耳をすませば、様々な内容の言葉が飛び交っているのが聞こえる。果物屋の店主の叫び声、小さい子供のねだり声、どこかの貴族に雇われているらしき召し使いの愚痴など、色々な人々の声が聞こえてくる。
改めて町中を見渡しながらも、結衣の足は自然と井戸の抜け道へと急いでいた。
もちろん町中を見つつ、辺りを警戒するのも忘れない。
目の前の細道に入れば、井戸は目の前だ。
「よし、周りにクラインなし!フローラなし!人もなし!」
たどり着いた結衣は、入念に周囲を確かめた。
井戸を覗き込み、梯子を降りようと井戸の縁に手をかける。
カツカツカツ
(ん?何の音だろう。井戸の底から聞こえてくるような……)
「げ、まさか」
その音の正体を目で見るより先に、結衣は近くの木の影に隠れる。
カンカンカン
井戸の梯子を登る音が聞こえる。
縁の部分から頭が見えた。
「ふぅ、ようやく出られたわ。早くクラインを探しに行かないと。ふふっ!変装は完璧ね、クラインでも私だと気付かないんじゃないかしら」
(……あっぶなー!フローラ出てきたよ、井戸の中から!マジか、今城下町に着いたとこだったのか姫様!ふぅ、もう少しで鉢合わせる所だった。セーフセーフ)
フローラが細道を抜けたのを確認し、結衣はようやく井戸の底に降り立ったのだった。
「えっと、ルート3だから……17320508だね」
キキィー
鉄格子が開かれて、フローラの部屋へと続く抜け道が通れるようになる。
「よし、じゃあ行きますか。敵の本拠地目指してレッツゴー!」
敵の本拠地ならぬ、王子の部屋を目指して結衣は、足早に抜け道を進み始めるのだった。