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薄暗い井戸の底で

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心からの感謝を!!

 薄暗い井戸の底に届く光が、結衣とクラインの二人をほのかに照らす。

 井戸の底にあるはずの水は最早とうの昔に枯れ果てて、今は所々草の生えている年季の入った底部分だけが顔を覗かせていた。


 互いに目をそらすことなく見つめ合うだけの沈黙がしばらく続く。

 片方はこの最悪の状況を打破する方法を探しながら、相手の出方をうかがって。

 もう片方は目の前の相手を逃すものかという強い意志を込めて。


 最初に沈黙を破ったのはクラインだった。


「……お前、ほんとに一体何者なんだよ。この場所を知っている意味を、分かっているのか?」


 今の目の前にいる彼は、先程別れたときのクラインとはまるで別人。

 鋭く、相手の全てを見透かすかのような目つきと、静かながらも確実に相手の恐怖心を増大させる話し声が、彼が姫の専属騎士であるという事実を結衣に思い出させた。


「私はただの、一般people……」


「そんなの信じるわけねぇだろ」


(で、ですよねー……これ以上はぐらかすと、腰にある剣でバッサリされそうな雰囲気だな。どうしよう、何か上手い言い逃れは……)


 結衣は脳味噌をフル回転させ、策を練る。

 だが目の前の彼を納得させるほどの良い案は浮かんでこない。


 その時ふと、クラインに本当のことを話すという案が、脳裏をかすめた。




(信じるかなぁ。夢で見たことが現実に起きて、しかも私はすでにそれを体験し、再び起こる前の時点にループしたなんて……私が逆の立場なら、"あなた厨二病なの?"と、笑って終わるよ)


「下手な嘘をつくと、俺の手が勝手に動いてお前を斬るかもな。発言には気をつけろよ」


 結衣の沈黙にクラインは痺れを切らし、脅しをかけた。だが結衣はそれに怯えることなく彼の目を見る。


「クライン、大事な話があるの。聞けば嘘だと思うかもしれない、言い逃れのための駄作案だと思うかもしれない。でも、最後までちゃんと聞いてほしい」


 それをまず約束しろ、と逆に交渉まがいのことを言ってきた結衣に、クラインは心の中で不敵に笑う。


(おもしろい、その度胸だけは汲んでやる)


「いいぜ?約束しよう。お前の話がどんなでも、俺は終わるまで、この剣は抜かない」


(よし、なら私は今から賭けに出る。これから話す非現実的な内容で、クラインを納得させられるかどうかという……ひどく不利で、勝つ望みの薄い賭けに)



「……明日の結婚式でフローラが狙われるという話したの、覚えてる?そのことを知ってる理由、まだ言ってなかったよね」


 クラインが頷くのを見て、結衣は続けた。


「私は彼女が狙われる場所も時間も、誰によるものかも全て知ってる。だって私は一度……それを経験してるから」



 一度経験してるから。


 その言葉の意味を理解するのに、クラインはしばらく時間を要した。


 今の彼女の話の前半は、自分も刺客の仲間の一人であると告げているようなものだ。

 だが、後半の言葉が理解できない。


(経験?フローラが殺されるのを経験したとでもいうのかこいつは!ありえない……フローラは今、生きているんだぞ!!不謹慎にも程があるだろ!)


「クラインやフローラに会うのも、本当は初めてじゃないよ。草原で思わずクラインの名前を呼んじゃったときは、正直焦ったなぁ」


「……そんな話、本気で信じろとでも言うつもりか?」


 低く彼女に問うその声音は、かすかに怒気をはらんでいた。

 結衣の話している内容に呆れたクラインは、約束がなければ迷わず剣を抜いていただろうと、心底思う。


「うん、まあ……信じろと言う方が無理があるよね。だから私も、“切り札”を切ることにするよ」


 そう、結衣はまだ諦めてはいなかった。

 クラインをここで納得させなければ、このままクラインに捕まるか殺されるかして、どの道フローラを助けることができなくなる。

 それだけは絶対に嫌だった。

 もう二度と、フローラが死ぬところを見たくはないのだ。これが彼女を助ける、最後のチャンスかもしれないのだから。


 ゆえに結衣は、“切り札”を用意していた。

 この賭けに勝つための、最初で最後の“切り札”を。




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