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尾行

新たにブックマーク登録してくださった方々、本当にありがとうございます♪

最大級の感謝を!!

 フローラは不思議だった。

 なぜ自分の前にいる名前も知らないこの少女は、自分の名前を呼びながら泣いているのか、と。


 彼女とは初対面のはず。

 いや、仮にどこかで会っていたのだとしても、こんなにも泣き出す理由があるのなら忘れはしないだろう。

 その上帽子の下からそっと彼女を覗いて見れば、その表情には心からの安堵が浮かべられていた。


(私の顔を見てこんなにも安堵し、こんなにも嬉しげに涙を流す彼女は一体……?)


 不思議と彼女に対する警戒心は浮かんで来ない。

 この国唯一の姫として、初対面の相手には必ず抱く警戒心。

 それが浮かんで来ないのは、信頼できると判断したのか、はたまた警戒心を抱かせないほどのやり手なのか……。

 その判断をするためには、彼女に対する情報が足らなさすぎるのであった。


 だから結衣と別れたあと、クラインが彼女の尾行を提案したときフローラは迷わず賛成した。


 それに普段は目立つ側の彼女にとって、密偵みたいな体験をする機会なんてそうそうない。

 場違いだとは分かっていても、フローラの心は知らず知らずのうちに弾むのであった。


 細い路地裏から始まった尾行は、一見何の変化もないようにみえる。


 しかしーーー


「……ねぇクライン。私、この道見覚えがあるのだけれど。というよりも、この先にあるものを知ってると言うべきかしら」


「……お前もか。奇遇だな、俺も多分お前と同じことを思ってる」


 結衣は今、城下町のメインの通りから脇道に入った。

 あまり人気ひとけのないところを歩いている。


「この先にあるのって……」


「あぁ、例の場所だな」


 顔を見合わせて、お互い同時に口を開く。


「「古い井戸からの抜け道」」


 二人の予想が一致して、フローラは慌てだした。


「え、何で彼女がこの抜け道知ってるの?!他の抜け道ならともかく、ここは王家の限られた者しか知らないはずよ!」


「いやまて、落ち着けフローラ。たまたま井戸を降りたら見つけた場合も考えられるだろ。降りれば鉄格子があるんだから大丈夫だ、抜け道とは分からない」


 まるでクラインは自分に言い聞かせるかのように、フローラをなだめる。


「そ、そうね。もう少し様子を見ましょうか」


 一方その頃、結衣は背後での二人の葛藤には気付くことなく、井戸を覗き込んでいた。


(うーん、フローラとクラインの気配が井戸の中からしないなぁ。もしかして私、二人を追い抜いちゃった?それとももう奥まで進んだのかな。……よし、入っちゃえ!)


 どうせ城には入らなければいけないのだ。

 あとはフローラ達に見つからなければいいだけだと結衣は頷く。


(まあ、最大の難関は抜け道を出るときだけれどね……)


 覚悟を決めて、結衣は梯子を降り始める。

 それを近くの木の影から見ていたフローラとクラインは、その行動に再び慌て始めた。


「お、降り始めちゃったわよクライン!どうするの、追うの?」


 フローラに肩を揺さぶられながらも、クラインは冷静に考える。


「……いや、今下に降りれば俺達の存在に気付かれる。そうすれば、ここに何かあると教えているようなものだろう?下に降りても鉄格子を目にして諦め、じきに上に戻ってくるさ」


(あの鉄格子を開くには、八桁の暗証番号が必要だ。それを知らないユイには、この先に進む手段はねぇからな)


 何も知らないクライン達は、井戸の側で結衣が出てくるのを待つ。


 しばらくの間、辺りは静寂に包まれた。

 時折吹く風の音だけが、静かに細い路地を抜けていく。


 長い一分が経過したころ、井戸の中から何かの音がし始めた。


 キキィーッと、錆び付いた鉄が床に擦れるような音が、井戸の底から響いて来る。


「ね、ねぇクライン?この音、私聞き覚えがあるのだけれど……」


 その音を聞いた瞬間、クラインの顔にも初めて動揺が浮かんだ。


「いやまさか……でもそんなはずはーーー開くわけがない、あの鉄格子が開くわけが!!」


 さすがのクラインも鉄格子が開く音を聞いて、いても立ってもいられなくなったのだろう。

 木の影から飛び出して、井戸の底へと梯子を全速力で降り始める。


 そして井戸の底にたどり着き、クラインの目に飛び込んで来た光景。



 それはーーー



 開かれた鉄格子をまさに今、通り抜けようとしている結衣の姿だった。


「───っ!待てユイ、止まれ!」


「……あ、クライン」


 クラインの姿を見た途端、結衣は心から自分の不運を嘆いた。

 なにせまだ井戸を降りて、鉄格子を開いたばかり。

 城内に侵入することすら叶わず、クラインに見つかってしまったのだから。


 結衣の想像した中で最悪の状況が今───動き始める。







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