再会
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サワサワと草原を駆け抜ける風に、微かに血の匂いが混じる。
先程のクラインの一太刀で絶命した、イノシシから漂っているものだろう。
そんな匂いが漂う中、結衣とクラインとの間にも、不穏な空気が漂っていた。
(どうしよう、何て取り繕えば良いんだろう。
あーっ!もうバカバカ、何で名前叫んじゃったかなぁ、私!!)
「く、クライン結構有名だから。それにほら、イケメン、イケメンだしね?!私じゃなくても顔と名前くらい知ってるよ!」
そんな曖昧な返答に、クラインはかなり疑惑の目を向けてくる。
だが“イケメン”という言葉に気を良くした様子。
意外と単純なクラインであった。
「……まぁいい。お前、名前は?」
「結衣だよ、変な名前とか言ったらとりあえず怒るからね」
(人の名前聞いて、開口一番変な名前と言われたことを、忘れてないからね?!)
当の本人はといえば案の定言うつもりだったのか、小さな舌打ちが聞こえてくる。
こうしてしばらく話をしながら草原を進み、一度目のときと同じく結衣は、クラインに城下町までの案内を頼んだ。
一度目のときとは違いこちらの知識も多少はあるため、どこから来たのかという質問にも、“東の国から”と答えるようなへまはしない。
クラインはクラインで、見慣れない服装の素性の知れない彼女に対し、会話にある程度の探りを入れている。
まるでお互いに狸の化かし合い───もとい腹の探り合いのような会話をしているうちに、いつの間にか城下町へと辿り着いた。
(ループ前と同じなら、もう少ししたらここで私達はフローラに出会う。でも私はその前に、クラインに大切な話をしなくちゃいけない。そう、フローラが死ぬ、あの悲しき運命の話を……)
そして結衣は草原を歩き会話しながら、ずっと一つのことを考えていた。
それは、フローラを殺した刺客についてだ。
エンドとハイルが刺客であるのは決定として、問題は他の衛兵達。
ループ直前、王子の部屋の前で偶然聞いた話の内容を吟味すると、浮かんでくるのは最悪の事実が一つだけ。
王子の衛兵全員が、刺客であるという事実が……
ハイルがフローラを殺した時点で、結衣の中に違和感はあった。
冷静に考えれば護衛を選んだのはクラインで、それを発表したのが結婚式当日。
なのにどういう訳かその選んだ護衛は刺客で、バッドエンドは避けられなかったのだ。
当日にハイルが何者かにそそのかされてやった可能性もあったが、先程の衛兵達の会話で却下。
だとすればもう、この事実を受け止めざるを得ない。
残る問題はあと一つ。
王子がこれを知っているのかいないのか、だ。
(白か黒かと言われれば、限りなく黒に近いのだけど、確証もなく決め込んでしまうのは良くない。仮にもフローラの未来の旦那様だしね。うん決めた、その確証を探しに行こう。そして、今度こそフローラを助けなきゃ)
決意を新たにした結衣は、改めてクラインに明日の結婚式でフローラが狙われる事実を伝える。
もちろん、“未来を知っている”件に関しては知らせずに……
そして……
「あらクラインじゃない、こんな所で彼女とデート?」
その聞き覚えのある言葉と、鈴の音のような綺麗な声。
顔を隠すようにして目深にかぶった、見覚えのあるつばの広い白色の帽子。
(……ああ、この声。この声を聞くために私は今、ここにいる!!)
その声を聞いた瞬間。結衣は胸の奥が熱くなり、涙がこみ上げるのを感じた。
ずっと───ずっと会いたくて、でも会うのは怖くて……
不安と罪悪感で、心が押しつぶされそうになって……
それでも勇気を出して、城下町までやってきた。
「───ッ、フローラ!!」
つ──ー、と目から涙がこぼれる。
それは止まることなく、次から次へと溢れ出す。
(フローラが生きてる、私の目の前に立ってる、生きてる、生きてる!)
このときの結衣の喜びは、きっと誰にも分からない。
彼女の無事を確認したら、ようやく結衣の中から不安が消えた。
「ただいま、フローラ」
溢れる涙をとめることなく、結衣はフローラにつぶやくのだった。