目覚めたら草原★
古川アモロ様より、素敵なファンアートを頂きました!ありがとうございます(〃ω〃)
サワサワと揺れる何かが結衣の顔を優しく撫で、少しくすぐったいと感じる。
恐る恐る目をあけると、雲一つない青空が結衣の視界に映った。
「帰ってきた……の?」
身体を起こして周りを見回すと、そこは見慣れた草原───彼女が異世界トリップして最初に見た景色だ。
つい昨日のことなのに、何故だか結衣はこの景色を、懐かしいと感じていた。
見慣れた景色に安堵する一方で、潜在意識は一刻も早くフローラの無事を確認したいと訴えてくる。
(分かってる、フローラに早く会わなくちゃいけないことは。でも……真実を知るのが私は怖い)
もしもここがバッドエンドの後の世界だったなら?
ただ場所を移動したというだけで、城に行けばまだ悲鳴と悲しみで溢れかえっていたら?
一度考え始めれば、負の想像は次々と生まれる。
(怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い……フローラを殺したのは私。知っていたのに防げなければ、それは私が殺したも同然だもの……)
結衣の心はまるでさっきまでの暗闇のようだ。
死を知っていながら止められず、目の前で人が死ぬのを見れば、そうなるのは自然とも言えよう。
気づけば結衣は長い時間、己を責めては負の感情を募らせていた。
「会いたいよ……」
ガサッ
結衣の呟きに呼応するかのように、それは突然現れた。
「えっ?あ……やば」
(正直に言います。あれの存在、完全に忘れてました……というか、言ったけど!確かに言ったけども!!)
「会いたいのはイノシシじゃないんですけど───ッ!!」
あまりの突然の登場に、さっきまで暗くなっていた結衣の心も、さすがにヤバいと判断し突っ込みまでいれる始末。
「だが慌てるな、私。イノシシに会うのはこれで二回目、この前ほどは怖くない……なわけないですよね──っ!」
改めて真正面から向き合うと、その大きさに圧倒される自分がいた。一体これのどこが雑魚敵だというのだろうか。
(これはもう、あの手で行くしかない!)
「見てなさいイノシシ───必殺!」
迫り来るイノシシに向けて結衣は、ヒーロー的なポーズをとって恐怖を緩和させ、必殺技を繰り出す姿勢をとる。
「他力本願!」
(お願いしますクラインさん、颯爽と現れてこの状況からどうか私を救って下さい!!)
必死の思いで結衣は、一刻も早い彼の登場を祈った。
解説しよう!
必殺技“他力本願”とは、攻撃・防御すべての行為を他人に任せ、自分は一心不乱に祈り続けるというものだ。
ようするに今の彼女は完全に、クライン任せの状態であった……。
「おい、何してんだ?」
「クライン!」
そんな必死の祈りが通じたのか、はたまた単なる偶然か───。
結衣の背後から突然声が聞こえる。その聞き覚えのある声に、結衣は思わず彼の名前を叫ばずにはいられなかった。
「は?お前、何で俺の名前を知って……」
「いや、今それどころじゃないでしょ!」
クラインの的を得た疑問を突っ込みで有耶無耶にしながら、イノシシを必死で指差す。
「あー、イノシシか。お前、倒すんじゃないのか?」
(はぁ?さっきのどこをどう見れば、今から倒そうとしてるように見えたんだろう)
「た・お・し・ま・せん!」
「んじゃあ、どいてろ」
邪魔邪魔、シッシと軽く手で追い払う仕草をして、クラインは結衣の前に出る。
ザシュッ
迫り来る巨体に臆する素振りすら見せずに、クラインは剣で敵を斬りつけた。
この前といい、今回といい、彼の剣の腕には毎回驚かされるばかりの結衣だった。
「よし、終わりだな」
あっさりとイノシシを倒し、クラインは剣を鞘に戻す。
「ありがとう」
二度目とはいえ、結衣は心の底からお礼を言った。
「まぁ職業柄見過ごせねぇだけだ。礼を言われる義理はねぇよ」
「フフっ、そっかそっか!」
(はいはい。また言ってるし、この人は)
「で、俺はまだお前に答えてもらってないんだけど?」
「アハハ~、何のことだかさっぱりですね!」
ハァ、とクラインは軽くため息をつく。
「分かってて言ってるだろ、お前。どうして初対面のお前が、俺の名前を知ってるのかって聞いてんだよ」
(やっぱりクラインは、このまま有耶無耶にはさせてくれないみたい。ど、どうしよう……)
結衣はハハッと乾いた笑いをクラインに向けることしかできないのであった。