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目覚めたら異世界

読んで下さっている皆さん、本当にありがとうございます!


たくさんの方に読んで頂けるよう、面白い作品にするべく頑張ります♪

 サワサワと髪のなびく音が聞こえる。


 鼻孔をくすぐる草木の匂い。


 そんな心地良い感覚に、私は目を覚ました。


 そして、目を開いて起き上がってみれば─────


「気が付けば、目の前には草原が広がっていました……って、えぇぇぇぇ?!」


 私はセルフナレーションを入れながら、器用に驚き周囲を見渡す。


 うん。いやほんと、まさにそんな感じ。

 今まさに、よく読む異世界トリップ物と同じ気分を味わってます、渡 結衣15歳です!


 ……て、何を言ってるんだろう私は。

 まずは現在の服装をチェックしないとだよね。


 確認してみると、上は白いTシャツを着ていて下はジーンズ。靴は履き慣れた運動靴へと、いつの間にか変化していた。

 ちなみに元の格好は完全に部屋着だったため、正直この格好は有り難い。

 ただ、何故服装が変化しているのかという大きな疑問が残されるけれどーーー。


 ……まぁ、とりあえず気にしてはいけない。

 服装が動きやすくて何よりです。


 服装を確認したところで、もう一度記憶を辿って状況を確認してみる。


 記憶に残っているのは、あのファンタジックだけどバッドエンドな夢。

 たしか、あの夢は姫の背中に刺さっていた矢を見た所で急に途切れた。

 ううん、正確には私の目が覚めたと言うべきかもしれない。


 そして意識が現実に引き戻されて、目を覚ました途端……


「私は草原の上に横たわっていた。……え、何ここほんとに現実なの?!」


 すみません、この状況誰か説明してください。

 正直思考が停止してるんです、状況飲み込めていないんです!


 ……でも、残念ながら、私の周りに人はいない。

 何度見ても見渡す限り、草原しかない。


「いやこれさ、一体どういう状況?!さっきまで部屋の中にいたよね私。どう考えてもここ街中じゃないしーーーえ、なにもしかして異世界冒険ファンタジーの幕開け的な?!……いやいやいや、いくら何でもファンタジー小説の読み過ぎだよね」


 と、混乱してても仕方ない。

 とりあえず今の状況を、冷静に分析してみよう。


「ふっふっふー、舐めないでくださいよ。私はこれでも、ファンタジー小説とかマンガが大好きなんだから!」


 私は高らかにそう、ドヤってみた。

 ……まぁ、誰もいないんだけれどね。


 でも今までこれほど、ファンタジー系の本を読んでおいて良かったと感じたことがあるだろうか?


 いや、ない。断じて、ない!


 というわけで、まずはこれが夢オチという可能性を確認だ。


「痛たたた……」


 思いっきり自分の頬をつねってみたのだが、残念ながら周りの景色は変わらず、ただ痛いだけだった。


「……え、景色変わらない。マジか、一番可能性的に高かった、夢オチ否定してきますか」


 ということはつまり、この状況は現実に起きているということだ。

 信じがたいけれど、私が本当に異世界トリップしたと仮定して状況を理解した方が良いかもしれない。

 よし、とりあえずプラス思考で考えよう。


「異世界トリップしたってことは、当然私にもアレがあるはず!」


 そう、アレとは異世界トリップした主人公が持つ定石じょうせきとも言えるもの。


 特殊能力のことだ。


「魔法、使えるようになってるとかかな」


 私は剣士より魔法使いの方が好きだから、特殊能力なら魔法がいい。

 よし、主人公がよくやっていたみたいに、意識を指先に集中させて……


 鋭く右手を振り下ろす!


「ファイアー!」


 自分の叫び声だけが、虚しく草原を駆け抜けて行く。


「……何も起きないみたい」


 やってるこっちが恥ずかしくなるほど、私の指先にも身体にも、どこにも変化はなかった。


 うーん、どうやらこれじゃないみたい。


 魔法系じゃないとすれば、ソードスキルみたいなやつだろうか。

 ま、まぁそれはそれで格好いいよね、無双とかしてみたいし!


 そこで私は草原に落ちていた枝を拾い、それらしく構えてみる。


「枝に意識を集中させて……」



 ヒュッ


 枝が空気を切り裂き、それによって発生した風が数メートル先の草木をなぎ倒す……!!



 ……なーんてことは、何も起きませんでしたよ悲しいほどに!


「えっ、じゃあ何?アレかな!防御力が凄く高くなってるとか?!」


 その後も思い付く限りの物を試したけれど、結局何一つ変化はなかったのだった。




「……マジですか。異世界トリップしたとして、何も特殊能力無いとかあり得なくない?!」


 まったくの無駄に終わった状況確認に、肉体的にも精神的にも疲れ果てた私は、とりあえず全てを放り投げて再び草原に寝転んだ。寝転んで目に入ってきた空は、どこまでも青く、雲一つない快晴。

 都会、とは言わないまでもビルが立ち並ぶ街中に住んでいる私にとっては、草原に寝転び青空を見上げることなど経験にない。


 だからだろうか、こんなにも晴れやかな気持ちになるのは。

 先程までの精神的な疲れはまるで、どこまでも広がるあの空に吸い込まれていくかのように、私の中から消えていく。



 と、その時だ。


 ……ガサッ


 近くに何かいる。そう感じた瞬間ーーー50メートル位離れた草の間から、ドンッと何かが飛び出した。


 そして、その姿がはっきりと私の目に飛び込んでくる。


「えっ、いやいや嘘だよね?!丸腰相手にこの動物はヒドくない?!」


 そう叫んで飛び起きた私の目の前にいたのは、そう……


 獰猛どうもうそうなイノシシが一頭。

 しかも、こちらに向けて走ってくるじゃないか!

 とてもじゃないけど、これは普通の人間、それも丸腰の人間が倒せるような動物じゃない。


 これぞ、まさに危機的状況だ。


「え、ちょっ!何これどうしよう!というかイノシシ出た時点で、異世界トリップ説ほぼ確定事項じゃないですかーっ!」


 焦りの混じった叫び声は、誰の耳にも届くことなく、広い草原の彼方へと消えていくのだった……。


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