夜明け
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(おいおいおい、クライン・リーズベルト。この状況は何だ?お前は一体、何してんだよ!)
我に返ったクラインは、自らの行動に対して突っ込むことしか出来ずにいた。
初めて触れた感覚が、フローラは自分の想像をはるかに越えて儚い存在なのだと伝えてくる。
まるで、触れれば壊れてしまいそうなほどに。
「く、クライン?」
おそらくクライン以上に困惑しているフローラが、彼の顔を見上げて問う。
その顔を見た瞬間クラインは自分の中に、ある想いがこみ上げてくるのを実感した。
(ーーー守りたい、守り続けたい。彼女の側で、彼女の進む道を共に歩みたい……あぁ、そうか。やっとーーーやっと、気がついた。今頃気付いても後の祭り、そんなことは百も承知だ。だがそれでも俺は……フローラ、お前のことを!!)
後に続く言葉は、今はもう口にしてはいけない。そんな残酷な事を、好きだと伝えてくれた彼女にはしたくない。
これ以上、自分の勝手に彼女を巻き込むなと自分の理性に訴えかける。
(それを言うのはもう遅い……もう、その想いは叶わないんだ)
「悪いフローラ、しばらくこのままでいてくれないか……」
(せめて、今だけは……俺の手の届くところに)
同じ想いを抱えた二人の、最初で最後の夜がふける。
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とうとう朝だ。結婚式が開かれる日がやってきた。
この日この物語は、節目を迎える。
物語の進む先にあるのは、はたしてバッドエンドか、それとも阻止された世界か。
その答えはまさに神のみぞ知るといったところだろう。
異世界トリップして、タイムリミットは一日という無理ゲーに近い環境の中で、やれることはやった。
……と言いきる自信は無いけれど、でも私という存在の介入で、物語は今バッドエンドを阻止する方へと傾いているはず。
もちろん確証は無いのだけれど、私が信じなくて誰が信じるというのだろう。
昨日部屋に戻ってきたときのフローラの表情は、クラインと何かあったことを物語っていた。
まぁ、詳しくは聞かなかったけどね。でも帰って来た姫様は、私にこう言ったんだ。
「ユイ、勇気をくれてありがとう。あなたのおかげで、私は後悔せずに明日の結婚式を迎えられるわ」
その言葉は、私の心の支えになった。
だって私の存在が、確かにフローラの行動を変えさせたのだという証明だから。
私がそう思っていると、ふいに部屋の扉が叩かれた。
衛兵がフローラに、クラインが来たと伝えてくる。
「い、入れて構わないわよ」
カチャッ
「お、おはよう。クライン」
「……お、おはよう」
あれ、なんか姫様とクラインの挨拶ぎこちないな。
これはよほどのことが昨日あったとみえる。
うん、めちゃくちゃ気になりますね!
「フローラ、ユイ、バルコニーの護衛の件を決めたから伝えに来たぞ」
クラインが決めた護衛の名は、ハイル。
ちなみに王子が選ぶ予定だった者の名は、エンドというらしい。
うわっ、エンドって……
なんか不吉な名前だな。バッドエンドを想像してしまう。
クラインが選んでくれて良かったかも。
「あ、それとユイ。お前は貴族じゃないから結婚式には出られないぞ」
「え、そうなの?」
「ごめんなさい、ユイ。私そのことを忘れてて……」
フローラが申し訳なさそうに私に謝る。
なんでも結婚式には貴族だけが招待されていて、バルコニーにはその後に向かうらしい。
だから頃合いを見計らってバルコニーに来てくれ、とクラインは教えてくれた。
まぁ、問題はバルコニーで起きるわけだし、大丈夫だよね。
「うん、分かった。平気だよ、フローラ」
さぁ、気合いを入れなくちゃ。
主人公たちの悲しき運命を、この手で変えるためにーーー
次回、第一章完結編です!
お楽しみに♪