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姫の苦悩

 フローラは悩んでいた。


 結衣の勢いに負けて一緒にクラインの部屋に来てしまったフローラだったが、正直本音を話してしまっていいのかと、今頃になって不安が押し寄せてくるのだ。

 今日が結婚式の前日であるというのも、不安になる理由の一つだろう。


(でもユイは私に言ったのよね。今言わないと、絶対に後悔するって)


 クラインに本音をうち明けてしまうのは少し怖いし恥ずかしいが、何も言わずに後悔するのはもっと嫌だと思うフローラだった。


(……うん、ちゃんと話そう。クラインと、きちんと向き合いたいもの!)


 心の中でフローラが覚悟を決めた頃、ちょうど結衣もクラインへの用事が終わった。


「さてと姫様、私の話は終わりました。次は姫様の番ですよ」


(えぇそうね、ありがとうユイ。あなたが背中を押してくれなければ、私はもう二度とクラインと正面から向き合うことはなかったかもしれないわね)


 心の中で感謝して、フローラは結衣の背中から姿を現す。

 途端クラインと目が合ったものの、つい反射で目をそらしてしまった。

 そんな彼女に苦笑しながら結衣は、励ますようにそっと肩を優しく叩く。


「では姫様、私は先に姫様のお部屋に戻っていますね」


「えぇ、分かったわ。ありがとう、ユイ」


 フローラからの言葉に会釈で返し、結衣はパタンと扉を閉める。

 途端、部屋の中には静寂が訪れた。


「クライン」


「……フローラ」


 どちらともなく、互いの名前を呼ぶ声が重なる。口火を切ったのは、クラインだった。


「……悪かったな、専属騎士辞めることを黙ってて」


(クライン……辞める気持ちに変化はないのね。なら、私も言いたかったこと全部言おう)


「私も!私も、もう我慢しないわ!」


 フローラの突然の大声に、クラインは少し驚いた。


「クラインが私の専属騎士になったとき……私ね、すごく嬉しかった!大好きな人に守ってもらえて、ずっとクラインがそばにいてくれるんだって分かって……」


 思いがけないフローラの言葉に、クラインは動揺を隠せない。


(大好き?誰が……誰を好きだって?)


「ふ……フローラ?」


(しまった、勢いに任せて言ってしまったじゃない……)


 こうなってはもう、どうにでもなれとばかりにフローラは叫ぶ。


「そうよ!私は好きだったのよ、クラインのことが!小さい頃から遊び相手はたくさんいたわ。同い年くらいの貴族の娘や息子がたくさんやってきた。でもみんな同じ……みんな私と対等になんて、向き合ってくれなかった!!」


 大人程のしがらみは無いとはいえ、やはり子供同士であってもフローラは王族。

 失礼があってはならないと、どの貴族の子供たちも決して対等な態度は取らなかった。否、大人達にそう教育されていた。

 だがその態度はフローラにとって、この上なく寂しさを感じさせていたのだった。


「でも……クライン。あなただけは違った。ちゃんと私に言いたいことを話して、時にはお説教だってしてくれたわ!……なのに!!」


 フローラは話した。

 クラインが騎士になった途端、クラインと彼女の間に感じた距離のこと。その距離は結婚式が近づくにつれて、より一層広がっていくのを感じたことを……。そして何より、クラインにずっとそばにいて欲しかったという本当の気持ちを、全て彼に話したのだった。



 クラインは何も言わず、ただ静かに彼女の心の叫びを聞いていた。


「フローラ。それが、お前の本音だったんだな」


(彼女の側に、いつも一緒にいたのは誰だ?フローラの一番近くで、何年も過ごしてきたのは誰だ?

 ……俺は専属騎士になって、何年経った?!)


「ーーーくそっ!」


(彼女の本音に気付きもせずに、なにが専属騎士だ!)


 クラインの中で、何かがはじける音がした。


 無意識に両腕がフローラの身体を引き寄せ、自分の腕の中に抱く。


「く、クライン?」


 フローラは一瞬、何が起きたのかを理解することができなかった。

 引き寄せられたときに感じた両腕の力強さと、なぜか安心する彼の胸の中にフローラは驚く。

 それが誰の腕なのかを認識するまでは、彼女の中で時間が止まった。


「悪いフローラ、しばらくこのままでいてくれ……」


「え、えぇ」


 この状況下で、なんとか返事をした自分を褒めたいくらいだとフローラは思った。

 正直に言って、心臓が口から飛び出しそうなくらいにドキドキしている。


(……あれ?私だけじゃない。クラインの胸からも、こんなに心臓の鼓動が聞こえてーーーあぁどうか、どうかこのまま時が止まってしまえばいいのに……)


 シュバイン王子に抱きしめられたときには微塵も感じなかった、知らない気持ち。


 初めて感じた彼の体温は、とても温かく、とても心地よく感じられたのだった。


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