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魔女戦争④

誕生日に投稿できて、嬉しいです(*´∀`)♪


今回で魔女戦争編完結させたかったのと、お待たせした分、だいぶ長めとなっております!

時は2時間と少し前、野営地にて。クレアは隊長らとの作戦会議を終えて、自分のテントへと戻った。

国王の危篤が告げられてからというもの、兵士たちは皆動揺し、目に見えて士気の下がりも感じ取れる。


「はあ……、お姉様はそろそろ城に到着した頃かしら。間に合っているといいのだけれど……」


テントの中で、一人今日の戦績を振り返りながらクレアは呟いた。

姉フェリナのおかげで戦績は確実に良くなっている。しかし守るべき(あるじ)を失えば、その戦績も一時的なものとなるだろう。


「でも、心配する必要なんてないわ。だってお姉様は、世界一の治癒魔法の使い手なんですもの。お姉様の手にかかれば、治らないものなんて……」


無い。そう断言したいのに、その先の言葉が続かないのはなぜなのか。

それはきっと、今危篤の状態にあるのが国王様だからだろうとクレアは思う。

国王様は、彼女たちにとって親代わりのような存在。その彼が危篤とあれば、最悪の場合を想像して言葉が続かなくなるのは必然ともいえるだろう。


その時だった。クレアの耳に、彼女の名を呼ぶ聞き覚えのある声が届いたのは。


「え、お姉様の……声?これは、念話だわ!」


今この野営地にはいないはずのフェリナの声が、彼女の脳内にこだまする。


“クレア、よく聞きなさい。今、無事に国王様の治療を終えることができたわ。国王様は、助かる”


「本当ですか?!……良かった、さすがはお姉様です!」


待ち望んだ吉報に、クレアは思わず椅子から勢い良く立ち上がった。


ほら、やっぱり。フェリナお姉様は素晴らしい。先程までの多少の不安が嘘のように、心の中から消えていく。

しかし次に届いたフェリナの声音は、喜ぶどころか深刻そのものだった。


“……時間がないから、よく聞きなさい。”


「え、時間がない?それは、どういう……」


“私はこれから眠りにつく……国王様をお救いするのに、力を使いすぎてしまったの”


「お、お姉様?一体何を仰って───」


クレアが言葉の意味を理解するよりも早く、フェリナは言葉を続ける。


“お願いよ、クレア!どうか私の分まで生きて、この国の行く末を、見届けて───”


そこまで聞こえると、急に何かがプツンと途切れるような感覚がした。

それはまるで繋がっていた大切な絆が、強制的に切られてしまったような、そんな感覚。


「お姉様?聞こえますか、お姉様!返事を……返事をしてください!!」


幾ら呼び掛けてもそれ以降応答の無い事実と、先程のフェリナの“眠りにつく”という言葉に、嫌な予感しかしない。

必死で叫ぶクレアの声は、テントの外まで響き渡っていた。

その声を聞きつけて、何事かと夜の見張りをしていた兵士たちが駆けつけてくる。


「お姉様……お姉様─っ!!」


「いかがされましたか!クレア様。ま、まさか国王様のご容態に何か───」


クレアの様子にただならぬ気配を感じたのか、兵士の一人がそう問いかけた。

最悪の状況を想像してしまったのだろう、彼の顔はひどく青ざめている。


その顔をみて、クレアは少し冷静さを取り戻した。


(そうよ、今は(わたくし)が取り乱してはいけない。まずは、兵士たちを落ち着かせなければ)


「……(みな)、安心なさい。今、光の魔女フェリナから連絡がありました。国王様は、ご無事です」


クレアの言葉に、それを聞いていた兵士たちから喜びの声が沸き起こる。


「早速、他の者にも伝えてまいります‼」


「これでまた、(みな)の士気も上がりましょう!」


「ああ、魔女様ありがとうございます!」


口々に紡がれる感謝の気持ちは嬉しいものの、それらの気持ちを素直に受け取れるほど、クレアの心情は穏やかではなかった。


(早く……一刻も早くエメラルド城に向かわなければ!!)


姉の無事をこの目で見るまでは、国王の無事を心底喜ぶことなどできないと、クレアは思う。


テントの隙間から、朝を知らせる光が射した。長い、長い夜が明ける。


クレアはテントから抜け出し、スーッと大きく息を吸いこんだ。


「皆に伝えよ!2時間後、わが全魔力をもって敵の進軍を阻止する。動ける者は、我に続け!!」


「「はっ!!」」


2時間後、宣言通りにエメラルド軍は今までにない勢いで敵国を退けた。

クレアもありとあらゆる闇魔法を駆使し、敵をひるませにかかる。魔力量はフェリナが近くにいた時に比べて劣るものの、一刻も早く城に帰りたいという想いが力に変わったのだろうか。

己でも信じられぬほどの力で、敵を圧倒していた。


そして、まもなく日が暮れようという頃。


「はぁ、はぁ……ご覧下さいクレア様、敵国の兵士たちが撤退していきます!どうやら撤退命令が出たようです」


「ふっ、ようやくですか……」


そう微笑むクレアの足は、魔力の酷使による反動で痙攣を起こしている。


今にも崩れ落ちてしまいそうな膝を叱咤して、クレアは近くの馬に飛び乗った。


「ク、クレア様?!どちらに行かれるのですか!」


「急ぎ、エメラルド城へ。(みな)には、引き続き警戒を怠るなと伝えなさい!」


それだけ言い残すとクレアは馬に鞭を入れ、エメラルド城への道を猛然と駆けて行ったのであった。




───────────────────────────


エメラルド城に到着するや否や、クレアは国王の寝室へと案内された。


「お姉様はどこに?!」


「……こちらです」


衛兵の一人が、寝室へと繋がる扉を開く。その表情は暗く、何かを言いよどむ様子が見られた。


扉の先に真っ先に目に飛び込んできたのは、ベッドから身体を起こしてこちらを見ている国王の姿。


そしてその隣には、ベッドに横たわる姉、フェリナの姿があった。


「お姉……様?」


そう小声で声を掛けながらベッドにそろりと近寄ると、姉の顔がはっきりと窺えた。

近くでみた姉の顔は白く、まるで息をしていないように見える。


「───人払いを」


国王の一言で、寝室にいた者たちの姿は消え、開かれていた扉が閉ざされた。

部屋には国王とクレア、そしてフェリナの3人だけとなる。


「う、噓ですよねお姉様……あれほど───あれほど先に逝かないでと申したではないですか!」


「───クレア」


「ああ、こんなにも冷たくなって……私の大切なお姉様が……」


「───クレア!」


国王の声が、静かな寝室に響く。その声で、クレアはハッと我に返った。

虚ろな目で国王を見つめると、国王は目を細めて優しく彼女に語り掛ける。


「よく、聞きなさい。フェリナは、まだ生きておる。口元に手を当ててみるといい」


「……え?」


言われるがままに、フェリナの口元へ恐る恐る手をやると、僅かではあるが吐息が手の平に返ってきた。


「そういえば、お姉様から“眠りにつく”という念話が───」


「そうだ……彼女は言っていた。これから自分は死ぬのではなく、仮死状態になるだけだとな」


言いつつ、国王は己の無力さを恥じていた。命を救われたにも関わらず、その命の恩人に対してただ見ていることしかできない自分が、歯がゆくて仕方ない。


「───すまない。彼女がこうなってしまった原因は、わしにある。彼女はわしの命を救うため、自身の生命力を削って治療してくれたのだ」


クレアからのどんな罵声も受け入れようと心の中で覚悟し、国王は事の顛末を説明する。

自分は死んだことにしてほしいというフェリナの願いや、最後の言葉も含めて全てを。


それら全てを、クレアは目を伏せながら静かに聞いていた。

ただ静かに、国王の言葉を聞いていた。

そして語り終えた国王を、今度はしっかりと見つめる。


「───国王様、(わたくし)は怒っています」


クレアの言葉に、国王はゆっくりと頷き返した。


「……ああ、当然だ。姉をこのような状態にしてしまった元凶であるこのわしを、怒らないはずもない」


国王の返答に、クレアはがっかりとした表情でため息をついた。


「なんだ、国王様は思ったよりも(わたくし)達姉妹のことを、何も分かっておられないのですね」


「それは、どういう意味だね?」


(わたくし)が怒っているのは、国王様を───(わたくし)達の大切な親を、このような目に遭わせた犯人に対してです!決して、国王様に対してではありません」


すると国王は一瞬“犯人”という単語に反応し、複雑な表情を見せた。


「……これは、いずれ明らかになるであろうから先に伝えておこう。お主には十分に聞く権利がある」


「ということは、犯人が既に判明しているのですね。ご安心なされませ、国王様。必ず(わたくし)が犯人を死よりも恐ろしい目に遭わせると誓いますわ!さあ、犯人をお教えくださいませ!」


事実、たとえ犯人が明らかになっていなくとも、クレアは闇の魔術などの持てる力全てを駆使して、必ず犯人を捕まえると決めていた。

一刻も早く犯人に対し、姉の恨みを晴らしたい。そればかりが彼女の脳内を埋め尽くす。


「此度、わしに(やいば)を向けた犯人は───」


そこまで言うと国王は、目を閉じ言葉を途切れさせた。

よほど言うのが辛いのか、はたまた刺されたときの恐怖心か、彼の唇はわずかに震えているのが見て取れる。


しばらくして、国王は重々しく口を開いた。


「犯人は───わしの息子なのだよ、クレア。本当に……本当に、すまない」


犯人を明かすと同時に、国王はクレアに対しその場で深々と頭を下げた。

一方、その頭を下げられた本人はといえば、まるで想像もしていなかった犯人の真実に思わず言葉を失う。

彼女が口を開くまで、優に1分を要した。


「───そ、それは本当なのですか?」


「ああ……残念なことに、本当だ。息子と言っても第一王子ではなく、第二王子の方だがな」


国王の言う通り、このエメラルド国には現在、第一王子と第二王子の二人の跡継ぎが存在する。

ただし次期国王は余程の事がない限りは第一王子と既に決定しており、第二王子が継げる可能性は実に低かった。


ゆえに第二王子は、敵国の王女に誘惑された。

国王と第一王子を殺害し、敵国がエメラルド国を掌握した暁には、王女と結婚し次期国王の座を与えるという、誘惑に。

肉親を殺害するという、通常ではためらいこそすれ、実行にはなかなか移せない行為ができたのには、彼の出生に理由があった。


第一王子の母親は、国王のいわゆる正室にあたる。

対して第二王子の母親は第一王子と異なり、他国から政略結婚でエメラルド国に嫁いできた側室の身分であった。

敵国からの提案に乗れば、第二王子が次期国王の座につけるだけでなく、彼を産んだ母親も身分や待遇が上がる。

父親よりも母親に対する恩が強かった第二王子は、故にこの誘惑に乗ったのだった。


「───これが、先程第二王子から聞いた話により明らかになった事実のすべてだ」


エメラルド国の王族とは思えない、あまりにも自国を省みない考えに、クレアはわなわなと震える。


「そのような、身勝手な理由で……!」


このような理由のせいで、自分は大切な親を失いかけ、姉はあのような姿にならなければいけなかったのかと思うと、怒りが抑えられない。


(ああ、ダメだ。このままではお姉様から託されたこの国を、守っていく自信がない!)


守るどころか、むしろ滅ぼしてしまいそうだとクレアは思う。

その上犯人は王族。裁きはあれど、死刑になることが決してないことは目に見えている。

今後も眠り続ける姉を見ながら、さらに犯人の生きる場所を守り続けなければならないことが、彼女には苦痛でしかなかった。


黙り続けるクレアに、国王は何も言葉を発せずにいる。

そして先に沈黙を破ったのは、クレアの方だった。


「……国王様、提案がございます」


「───聞こう」


国王を見つめるクレアの目は、憎しみの炎で燃えている。

今彼女がどれほどの思いで言葉を発しているのかが、その目から伝わってきた。


(わたくし)と───ゲームをしませんか?」


クレアのその言葉を最後に、映像が途切れるかのごとく、結衣の視界は暗闇に閉ざされたのだった。



新型コロナウイルスには、皆様も十分お気を付け下さいませ(´;ω;`)

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