魔女戦争②
寒いですね……お待たせ致しましたこと、お待ち下さったこと、震えながら感謝致します:( ;´꒳`;):
「うぅぅぅ……痛い……誰か、助けてくれ」
「足が、俺の足が……これ以上、動けな……」
戦場のあちらこちらで、負傷した兵士たちの呻き声が聞こえる。
今、戦況はエメラルド国にとって、かなり不利に傾いていた。負傷兵の数も多く、治療場所まで運ぶ者の手数も足りていない。
そのような戦況の最中、彼女は前線に到着した。
「大丈夫ですか?今、治療します!」
「うぅぅぅ……あ、あなたは確か、西の……」
「えぇ、フェリナです。もう喋らないで、出血が酷いわ。すぐに止血をしなければ」
彼女は何人かのエメラルド国の兵士たちに身を守られながら、次々と重傷者の治癒をその場で行っていく。
さらに、クレアとの距離が近く彼女自身の魔力量も増大したため、治癒と同時に付加魔術を使用することが可能となった。
その付加魔術は兵士たちの攻撃力や防御力を増加させる効果を発揮し、数で押されていたエメラルド国の戦況が、徐々に好転していくのが目に見えて分かる。
フェリナが前線に立つことによる効果は絶大で、国王の苦渋の決断が間違いでは無かったことは明らかだ。
そして、その効果を実感したのは、勿論クレアも同じだった。ゆえにいくら反対であってもフェリナに対し、後衛に戻れと言う指示を出すことは出来ないのであった。
「まったく……お姉様には困ったものですわ。私があれ程前線には来るなと念を押したこと、まさかお忘れでは無いでしょう?」
フェリナが到着したその日の夜、野営地にて。
クレアは目の前に座るフェリナに対し、ため息をつきながらそう言った。
「勿論よ、忘れてなどいないわ。ここに来ればクレア、あなたに怒られるだろうということも、自分の身が危険に晒されることも……全て承知の上よ」
「なら、どうして……!」
「……クレア、あなたも分かっているでしょう?今回の戦争は、予想以上に兵力差が大きい。その差を少しでも埋めるためにも、“私”の存在が必要不可欠だということを」
フェリナの言葉に、クレアは唇をぎゅっと噛み締める。
「分かっては……います。お姉様の存在のおかげで、戦況が好転したということも。追い返すことは致しません……ですが、お姉様!一つだけ約束して下さい」
「何かしら?」
姉を見つめる妹の目は真剣で、まっすぐだった。
本当は後衛に追い返したくて仕方が無いという妹の本音には気が付かないフリをして、フェリナは軽く首を傾げる。
「どうか、どうか……お願いですから……私より先に逝くことなど、なさらないでください」
「クレア……」
「……私を、1人に……しないで」
クレアは縋るような目を、フェリナに向けてそう言った。
「……えぇ、勿論よ。こんなに可愛い妹を遺して死ぬなんて、有り得ないものね」
クレアを安心させるようにフェリナは、彼女の頭を優しく撫でる。
その手は暖かく、優しさに満ち溢れていた。
そしてその暖かさは、緊張の糸が切れない戦場に訪れた束の間の癒しだと、クレアは思った。
どうかこの時間が長く続いてくれればいいと、そう願う彼女であったが.......その願いも虚しく、誰かが2人のいるテントに駆け寄る音が聞こえてくる。
「で、伝令!伝令を申し上げます!!エメラルド城より、伝令!国王様が何者かによる襲撃をお受けになりました!!」
その内容を聞いた途端、彼女達は顔面蒼白になった。
「なっ.......そ、それは本当なのですか?!」
フェリナの焦り声を交えた言葉に、兵士は頷く。
「国王様は非常に危険な状態にあらせられ、即座にフェリナ様のお力をお貸し頂きたいとの事です」
「そ、そんな.......私が城を離れたばかりに!」
あまりに突然の事態に、フェリナは倒れそうになる。
「お姉様、お気を確かに!事は一刻を争います、今すぐご出発の準備を!」
彼女をしっかりと支えてクレアは、フェリナにそう呼び掛けた。
この前線から城までは、早馬でも普通の人ならば半日はかかる。
しかしフェリナの付与魔法を用いれば、約3時間ほどで辿り着くことが可能であった。
それでも、3時間である。
その3時間の間に国王が命を落とせば、いくら魔女でも生き返らせることは不可能。ゆえに癒しの魔法を使うことの出来るフェリナが、一刻も早く国王の元へと駆け付ける事が重要なのだった。
「待っていて、国王様!私がこの命に代えても、必ずお救い申し上げます!!」
国王様の、命は……いかに。




