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限界

お待ち下さり、ありがとうございましたm(*_ _)m

本年もよろしくお願いします!

部屋に入るなり結衣の目に飛び込んできたのは、国王の苦しむ姿。彼の荒い呼吸と額にかいた大粒の汗から、その苦しみが痛いほど伝わってきた。


そしてその(かたわ)らで夫の手を握り、泣きそうな声で名前を呼ぶ王妃クラウディアの姿を見た途端、彼女の中に次々と浮かぶのは疑問の数々。


(……どうして、あなたがそんな顔をするの?)


結衣は、許せなかった。紛れもなく元凶である王妃が、嘘の表情で周りを騙していることが、許せない。


(どうして、平気で誰かを苦しめられるの……?)


結衣は、許せなかった。何も無ければ健康であったはずの人に毒を盛り、こうして苦しませて平気でいられる王妃のことが、許せない。


(どうして……フローラを悲しませるの?!)


結衣は、許せなかった。本来ならば優しいであろうはずのフローラの母の中に居座り、知ればフローラが悲しむであろうことを、こうして幾度も行う東の魔女が、許せない。


病気で苦しむ人の姿は、結衣にとって母を連想させるものでもある。

だからだろうか、こんなにも胸の内から怒りがこみ上げてくるのは。

今まで必死でせき止めていたクラウディアに対する負の感情が、結衣の中から溢れ出す。


「もう……我慢の、限界……です」


怒りに身を震わせながらも、彼女の瞳はクラウディアを真っ直ぐに捉えてそう告げる。


国王を始め、シリウスや他の衛兵達もいる事は、頭の片隅では理解していた。

心のどこかでは“言ってはいけない”と、己を(いさ)める声もする。


だがもう、限界だった。

クラウディアの顔を見続ければ見続けるほど、結衣の中から沸々と怒りの感情が溢れ出して止まらない。


「あなたは……あなたという人はっ!!一体どれだけフローラのことを悲しませたら気が済むの?!」


言ったことに対する後悔の念は、結衣の中に浮かんで来ない。むしろやっと言うことができたという安堵感の方が大きいようにさえ思える。


若干の解放感に浸りながら周りを見渡せば、自分を見つめる目、、、目、、、目……。

そのどれもが驚愕と畏怖の感情を宿していたのだった。もちろんそれは、シリウスとて例外ではない。


(あぁ……終わった……)


目を見れば今まで築き上げてきた信頼が、いとも簡単に崩れ落ちたであろうことは、容易に理解出来る。




そう思った直後、結衣はドクンと鼓動が一つ、大きく高鳴るのを感じた。


「───────っ!!」


「ユイさん?!」


胸の奥から急激に何かが湧き上がるような感覚と、耐え難い眠気が襲って来る。

様子がおかしい結衣を見て、シリウスも戸惑いの声をあげた。


「なに……っ、こ……れ……」


彼女はその場にガクン、と大きく膝をつき、そのまま意識を失ったのであった。


あまりの急な展開に、部屋にいた誰もが言葉を失う。しかし国王アイヴァントから聞こえる荒い息遣いに、シリウスはハッと我に返った。


「───────衛兵」


「はっ!」


「……ワタリ・ユイ殿を不敬罪と見なし、処罰する。処罰の内容が下るまで、彼女の自室に見張りを付けて謹慎させろ」


静かに、そして淡々とシリウスは命じる。

だがその表情は苦渋に満ち、彼自身その命令をすることがいかに嫌であるかを物語っていた。


「か、畏まりました!」


「……罪人とはいえ彼女は貴族だ。丁重に部屋まで運ぶように」


「はっ!」


返事と同時に、倒れた結衣を何人かの衛兵達が部屋から運び出す。

その様子をまるで他人事のように見つめながら、シリウスは王妃クラウディアに腰を折って謝罪した。


「申し訳ありません、クラウディア様。まさか彼女があのような発言をするとは思わず……」


「あなたが謝ることではありません。かく言う(わたくし)も、とても驚いているのですから」


「……彼女の処罰が決定次第、お知らせ致します」


「えぇ、そうね。今はとにかく、夫の容態の方が先決です」


クラウディアの言葉に頷きながらもシリウスは、ある一つの疑問を抱く。


(それにしてもなぜ、ユイさんは突然あのような発言を?)


結衣は元が貴族では無いとはいえ、ある程度の常識は持っている。その彼女が何の理由もなく、あのような誰もが不敬と分かる発言をするだろうかと、シリウスは疑問を抱いたのだ。


ふと、ここに来る前に彼女がくれた情報を思い返す。


(確かこの部屋で問題の紅茶を飲んだと言っていたな)


国王の体調不良を心配し、朝からずっとこの部屋で看病をしていた一人の人物。


結衣が国王の様子を見に行った時も、その人物は部屋にいたと彼女は述べていた。


そして先程の結衣の怒りの矛先。


そこまで考えてシリウスは、ある一つの恐ろしい結論に辿り着いた。

それは、先程の結衣の発言同様、言葉にすれば即座に不敬とされる内容。

いや、そもそも考えることすら不敬と言えるだろう。


「そんな……まさか……な」


「どうしたのです、シリウス。顔色が真っ青ですよ?」


一瞬の沈黙。


「いえ、何でも……何でもありません。それよりも医師が到着したようです。すぐに診てもらわなくては」


「えぇ、そうね」


幸運なことに医師の到着によって部屋は慌ただしい雰囲気に包まれ、シリウスはそれ以上の追及を免れた。


(そうだ、今は余計なことは考えるな。僕には(あるじ)よりも大切なことなど、無いのだから───────)



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