国王の危機
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“国王が危ない”。
その言葉を聞いた途端、シリウスは無意識の内に部屋を飛び出していた。
なぜ危ないのか、その理由さえも尋ねることなく、シリウスは国王の部屋へと向かって奔走する。
「あ、待ってシリウスさん!私も行きますから!」
慌てて結衣も、その後ろ姿を追い掛けた。
それに気付いたシリウスは幾らか冷静さを取り戻したのか、走る速度を少し落として結衣と並走すると、彼女に理由を問い掛ける。
「主が危ないとは、一体どういう事なんだ?!走りながらですまないが、簡潔な説明を頼む」
「勿論です。実は先程シリウスさんに頼まれて国王様のご様子を見に行った時に私、リライムによく似た香りの紅茶を飲んだんです」
「───っ!!ま、まさかそれを主も飲まれたということか?!」
顔面蒼白とは、まさに今のシリウスの状態のことと言えるだろう。それ程までに彼の顔は走っているにも関わらず青白く、血の気が失せている。
普段の彼ならば結衣の心配もしていたであろうが、その余裕すら、今の彼には無かったのだった。
「……はい。それも私の予想によれば、既に複数回飲まれている可能性が……」
結衣の言葉に、シリウスは短く舌打ちをした。
いつもとは違う彼の言動に、結衣は無意識に息を飲む。
すると、その時。前から衛兵が1人、国王の部屋がある方からこちらに向かって走って来るのが見えた。
その顔は焦燥感に駆られており、シリウスの姿を見つけると、より一層慌ててこちらに走って来る。
「シリウス様っ、大変……大変でございます!!国王様が!!!」
「まさか主に何かあったのか?!」
衛兵のただならぬ雰囲気に、シリウスは嫌な予感を覚えながらも早口で彼に尋ねる。
「こ、国王様が……お倒れになられました!!」
その言葉を聞いた途端、シリウスの頭は一瞬真っ白になりかけた。
「─────っ!!お前はこのまま医師を呼びに行け!急げ!!」
「は、はいっ!!」
シリウスのただならぬ雰囲気に気圧されながらも、衛兵は再び廊下を走り去って行く。
「私達も急ぎましょう!」
「あぁ、そうだね!早く状況を把握しなければ」
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国王の部屋に駆け込むと、即座に衛兵の一人が国王の元へと2人を案内した。
「主!」
ベッドに横たわる国王を見つけるやいなや、シリウスは短くそう叫ぶ。
国王であるアイヴァントの呼吸は荒く、顔には苦悶の表情が浮かべられている。
ベッドの脇ではクラウディア王妃が、心配そうな表情でアイヴァントを見つめて座っていた。
そして、シリウスの姿を認めるや否や席を立ち、シリウスの元へと駆け寄って来る。
「あぁシリウス!!私が……私がそばに付いていながらこんな事になるなんて!!」
「落ち着かれて下さいクラウディア様。今、医師を呼んでおります」
自分よりも取り乱した様子の彼女を見たからか、シリウスは幾らか冷静さを取り戻したように見えた。
クラウディアもシリウスの言葉に、こくりと頷き椅子に座り直す。
「……ごめんなさいね、シリウス。こんな時にこそ、王妃である私がしっかりしなければ」
「いえ、動揺なさるのは当然のことです。あまりご自身をお責めにならずに」
「……ありがとう、そう言ってもらえると有難いというものですわ」
「むしろ専属騎士であるにも関わらず、ユイさんに言われるまで主の危機に気付くことが出来なかった自分をお責め下さい」
そう言って頭を下げるシリウスに、クラウディアはピクリと片方の眉を上げた。
「ユイ……?ユイが気付いたというのですか?」
「えぇ、僕に主の危機を教えてくれたのは彼女です。そうだよね、ユイさん……あれ、ユイさん?」
シリウスは結衣の方を振り返りながらそう言ったが、彼女からの返事はない。
彼女は下を向いて、何かを耐えるかのように唇を強く噛み締めている。
「もう……我慢の、限界……です」
そう静かに呟いた結衣の声は、怒りに震えていた。
「ユイ……さん?」
先程までとは様子の違う結衣の様子に、シリウスは困惑の表情を浮かべる。
そんなシリウスの呼び掛けに答えるかのように、結衣はキッと前を向く。
「あなたは……あなたという人はっ!!一体どれだけフローラのことを悲しませたら気が済むの?!」
そう叫んだ結衣の目線は、クラウディアに注がれていたのだった……。
我慢できずにとうとうクラウディアに対し、不敬を働いてしまった結衣。
次回、その心境とは?




