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王子と騎士

今回はクライン視点です

 時は結衣がクラインと別れたところまでさかのぼる。

 結衣がフローラ姫を追いかけて姿が見えなくなったあと、クラインは先程の彼女の言葉を思い返していた。


「明日の結婚式でフローラが狙われる、か」


 正直に言って、彼女が狙われる理由を上げればきりがない。フローラはこの国唯一の姫君だ。

 またエメラルド国は大国とは言わないまでも、そこそこの地位を築いている。

 更に言うなれば、今回の結婚相手が隣国であり大国、リーズベルトというのも理由の一つと言えるだろう。

 他国が黙っていないのも当然なのだ。


 事実今までも、幾度か彼女に刺客が送られて来た。まぁその度に、クラインが彼女を刺客の魔の手から守ったのであるが。


「もちろん今回だって守るつもりだ。フローラに拒否されようが、それが俺の役目だからな」


 しかし、一度だけ彼が彼女のそばを離れるときがある。それは、フローラがバルコニーにいる間のことだ。


「まぁ横には王子が控えている。狙われやすい背後にいるのは、王子の護衛ただ一人。それも王子自らが選ぶと言うし、心配いらないだろうな。俺はただ、下から一国民として彼女を祝福すればいい」


 そう口に出したクラインであったが、呟いた途端に胸の奥がモヤモヤしたような気分になる。


「……心配いらないはずなんだ。なのに何だ?この気持ちは!」


 クラインは何だか、自分の領域を侵されているように感じていた。

 たかが護衛をただ一人、自ら選ばないだけのこと。にも関わらず、そんな風に感じる己の心の狭さに驚きを隠せない。


「くそ!!こうなったらせめて護衛の決定権くらい、あの王子から奪ってやるか」


 そう心に決めると、何だか心が落ち着いたように感じた。

 それに少し安堵の表情を浮かべつつ、クラインは王子の元へと急いだのだった。





 ────────────────────────



「止まれ、この先はシュバイン王子のお部屋だ。許可なしに入ることは許されん」


 城に戻ったクラインの目の前にいるのは、王子が国から連れてきた護衛のうちの二人だった。


(ったく……いつ見てもこいつらの表情は、まるで不良だな。しかもこの反応、俺が誰だか分かってねぇだろ。フローラの専属騎士の顔くらい、覚えろよ)


「俺はフローラ姫専属の騎士、クライン。許可は取っていないが、シュバイン王子に話があって来た」


 そう名乗ると護衛二人は互いに顔を見合わせて、慌てて片方が中の王子に対応を求めに行った。


 カチャッ


 数十秒後、部屋の扉が開かれ中に招き入れられる。中で微笑む王子の顔が、クラインの心を苛立たせる。


「やぁフローラの騎士よ、何か用かな?」


(……正直、苦手なんだよなぁ。こいつを見てると、何故かいらつく)


それでもその気持ちを表に出すわけにはいかない。出せばせっかくの友好関係が、崩れる可能性もある。


「今日は王子にお願いがあり、参りました。許可もなしに伺い、大変申し訳ありません」


 そう言ったあと片膝をつき、クラインはシュバイン王子の前にかしずく。


 いくら苦手なやつであっても、相手は一国の王子である事実は変わらない。

 格下のクラインが許可なしに、彼と目線を揃えて話すことは許されないのだった。なんとも面倒な階級社会である。


「構わないよ、フローラの騎士ならいつでも歓迎だ。頭をあげてくれ。用件はなんだ?」


許可を受け、ようやくクラインは頭をあげて話を続けた。


「差し出がましい頼みなのですが、明日のバルコニーの護衛の選択を自分にさせて頂けないでしょうか」


 クラインの言葉に、王子は一瞬驚きの表情をみせた。


(やはり、前日に言ったのでは厳しいか……俺が逆の立場なら面倒だし、即刻断りかねないしな)


 王子は何やら考えているらしく、返事まで優に一分を消費した。


「……普通、結婚式の前日に護衛の変更はしない」


(ああ、んなこと言われなくても分かってるっつーの)


「だが、護衛役を今までこなしてきた者の頼みだ。何か訳があるのだろう?」


流石に気付くか、とクラインは心の中で思う。


「実は、結婚式でフローラ姫が狙われるという情報が入りました。もちろん想定内ですが、バルコニーだけは自分が守ることはありません。ですから……」


 口ごもるクラインを、シュバインは上から見下ろす。


「承知した。その頼み、許可しよう。ただし、私の連れてきた護衛の中から選ぶのは変えるなよ」


「はっ!ありがとうございます。明日の朝、護衛を発表致します」


 こうして彼は王子の部屋を立ち去り、そして無事自分の手で護衛を選ぶ権利を得ることができたのであった。



 だが、クラインは知らない。



「……情報が漏れたのか?いや、まさかな。まぁ良い、私の護衛は誰であっても優秀だ。しっかり役目を果たしてくれるだろうさ」


 彼が部屋を出た後で、シュバインがそう呟いていたことなど、知るはずも無かったのであった──────。



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