変装★
さくら餅の餅☆様から、素敵な挿絵を頂きました!
本当にありがとうございます♪
フローラの答えに結衣の顔はひくついて、上手く笑顔を保てていない。
(嫌な予感が的中してしまった……いや、でもまだ回避策はある!だって肝心のメイド服が手に入ってないし、それまでに代案を考えれば何とか!!)
「ほら、メイド服だって今から頼んだら城の人に怪しまれますよね……ね?!」
メイド服を着なくてすむように、結衣は必死に抵抗する。
(だってあんなの絶対に恥ずかしいし、万が一にもクラインに見られたら確実に笑われるもん!!)
「あら、それは大丈夫よ。だってもう、あるもの」
「……え?」
思わず結衣はガタッと椅子から立ち上がった。
「ど、どこに?!」
「もちろんこの部屋の中よ。良かったわねユイ?」
「ハハ……ハハハハハ……ソウデスネ」
(姫様はにっこり微笑んでるけど、私にはそれが悪魔の微笑みにしか見えないよ……)
フローラが席を立ち、大きなクローゼットの中からメイド服を取り出す。
それを手渡された途端、結衣は自分の顔がより一層引き攣るのを感じた。
「スカートの丈、短かっ!え、マジで私がこれ着るんですか!?」
結衣の訴えなど何処吹く風と、フローラはワクワクした表情だ。
「さぁ、着替えたら今から早速行くわよ!」
「え、どこにです?」
「もちろん王子のところに決まってるじゃない!」
「行動早くないですか!?」
どうやら結衣は、フローラ姫の専属メイドとして会わされるらしかった。
なるほど、専属メイドならバルコニーの中にいても不思議ではないだろうと結衣は納得する。
仕方なく……ほんとに仕方なくメイド服に着替える結衣だったが、メイド服を着るのは案外難しく、手間取っているとフローラが助けてくれた。
「あ、ここはこうして。これに腕を通してね」
「……何だか手慣れてますね、姫様」
(もしかして姫様も、メイド服を着てお忍びで城内歩いてたりして……)
聞くと案の定フローラはそれを肯定した。
(なるほどだからこの部屋にメイド服があったのね……うん、納得です)
ギギッと音を立てながら、フローラ姫の部屋の扉を内側からそっと開く。
外に待機している衛兵が、揃って2人の方へ振り向いた。
フローラは結衣の後ろにいて、結衣が扉をあけるのを待っている。
(よし、あとはさっき教わったとおりに衛兵にお辞儀して、姫様を部屋の外に連れ出せば……)
お辞儀をし、フローラ姫を扉の外に誘導する。
「おいお前、待て」
(やば、気付かれた?)
心臓はドクンと脈打ち、早鐘の如く高鳴っていく。
「は、はい何でしょう?」
結衣が不安になってフローラの方をチラッと見ると、隠し通せと顔に書かれていた。
任された結衣は心の中で、勘弁してくれと泣きそうになる。
「お前、姫様の行き先を言え。この時間に予定は入っていないし、今は厳戒態勢なんだぞ!」
(よ、良かったぁ。どうやら私自身が怪しまれたわけじゃないみたい)
「大変失礼致しました。姫様は、王子様のところに会いに行かれます」
それを聞いた衛兵達は、突然揃って慌てだした。
「し、失礼致しました!姫様、どうぞお幸せに!!!」
(……何か王子の名前を出したら、いきなり態度変わったんですけど)
そんな衛兵達を見やりフローラはにこやかに微笑みつつ、ありがとうとお礼を言った。
立ち振る舞いといいオーラといい、流石は一国の姫。人を惹きつけ、魅了する能力に長けていると結衣は感心する。
何とか衛兵達をごまかして、フローラと結衣は城内を歩いた。
すると道行くメイドや衛兵が、フローラ姫に対してお辞儀をし、通り過ぎるのを見送っていく。
(な、なんかこれ、私まで注目されてるみたいで恥ずかしいな!よく姫様は毎日こんな生活をしてるね……ある意味尊敬しちゃいますわ)
結衣がそんなことを思っていると、フローラがそっと声をかけてきた。
「ここが王子の部屋よ」
彼女に言われて部屋を見ると、扉の前に立つ衛兵達がこちらを見てきた。
(な、何か王子の衛兵達……怖くない?)
フローラの説明によると、王子の部屋の周りにいる衛兵達は彼が連れて来た者達らしい。つまりは他国の者ということだ。
「王子に用があるのだけれど」
フローラが毅然とした表情で、衛兵の一人に声をかける。すると怖そうな衛兵達は揃って最敬礼をして、彼女への敬意を示した。
「畏まりました。それでは、王子に伝えて参ります」
そう言い残し、片方の衛兵が扉の中に消えていく。その数十秒後に扉が開かれ、フローラと結衣は部屋に足を踏み入れた。
(さぁ、気合いを入れなくちゃ。何としてもここで王子の護衛が誰なのか、知る必要があるんだからね)
心を決めて、結衣は王子のいる方を見る。
「やぁ、よく来たねフローラ。自ら私のところに来てくれるなんて、嬉しいな」
「こちらこそ、いきなり押しかけてごめんなさい王子」
王子はにっこりと微笑み、フローラ姫を軽く抱きしめる。彼がフローラの背中に手を回しているのに対し、フローラは困ったように見上げるだけの様子。
これが本当に明日結婚する予定の男女だというのだろうか。政略結婚などならば、こういう物なのかもしれないが。
(うわぁ……姫様、明らかに嫌がってるのに)
このときの結衣の王子に対する第一印象。
(うざそう……そして姫様から離れて下さい!)
ただその一言に尽きたのだった。