守る者、守られる者
シリウス・レオナ過去編最終話となります。
あ、それから一つご報告を!
先日ほぼ衝動的に、表紙を作成してみました(*´ω`*)
第1話、プロローグにて掲載させて頂いてます♪
出来は…突っ込まれませんように( ´艸`)
「…なに?もういないことを感づかれたのか。まぁいい、既に手筈は整っている」
遠退いていた意識が浮上するとともに、知らない男達の声が聞こえてきた。
(…私、何があったんだっけ)
目が覚めても気絶しているように装いながら、レオナは現状把握につとめる。
他国の服屋に行き、そこで気に入った服を試着してから後の記憶が無い。おそらくそこで気絶させられたのだろうと推測した。
(クライン、心配してるかな…これから私、どうなっちゃうんだろう)
そんな事を考えていると足音が近付いてくる音がして、ぺちぺちと頬を叩かれた。
「おい、そろそろ起きな嬢ちゃん。お目覚めの時間だぜ?」
気絶の振りも限界と踏んで、レオナはゆっくりと目を開ける。そして身体を起こしながら、即座に周りの様子を盗み見た。
(どうやらここは倉庫みたいね。しかも、微かだけど祭りの喧噪が聞こえる。ってことは、あまり町から離れてないのかも)
「あ、あなた達は誰ですか?ここは一体…」
国外へ連れ出されていたらかなりマズい状況であったが、国内ならばまだ希望はあるだろう。そう信じることで、震えそうな己の声に何とか平静を保たせる。
「お前さんは知らなくていーんだよ。そこで大人しく待っていれば痛い目に遭わないし、時期に迎えが来るからな」
「迎え…?」
その言葉に、嫌な予感がレオナの脳裏をよぎる。 男はニヤリと下卑た声で恐怖を煽るように話を続けた。
「そっ、これからお前は他国の商人様に引き渡されて売られて行くのさーーーあ、これ言っちゃいけなかったか?まぁ良いよな」
「売られ…っ、まだ私は10歳の子供よ?!売ったって何の価値もーーー」
「何言ってんだ。お前、貴族なんだろ?利用価値なんざ、いくらでもあるさ」
「っ?!な、なんで貴族だと…」
(着替える前の服装は、どこから見ても普通の平民だったはずなのに!!)
貴族だとバレたことに、レオナは驚きを隠せない。
だが男はレオナの態度に苛ついたのか、声を荒げながら返答した。
「お前さ、商人舐めてねぇか?お前が入っていった店は服屋だぜ。店主が見れば、服の布の質くらい見抜けるに決まってんだろーが!」
倉庫内に響く程の声量と迫力に、無意識にレオナの顔には恐怖が浮かぶ。
「…ふーん、良いなその表情。もっと恐怖してみろよ、泣き叫んでも良いんだぜ?お母様ーってな!」
その言葉と共に、男の右手がレオナの頬をうった。
「っ!!」
「おいおい、叫んでくれなきゃつまらねぇだろ!」
うたれた頬がジンジンと熱を帯びて、鈍い痛みが残る。だが、レオナは決して泣くものかとぎゅっと手を握りしめた。
「…あんたなんかに、私は負けない。思い通りになんて、絶対ならないわ!!」
キッとレオナは男の目をまっすぐに見つめる。
その目からは、微塵も恐怖が感じられない。
「っるせーーー!!」
再び男の右手が、振り上げられる。
(ぶたれるっ!!)
反射的にレオナはぎゅっと目をつむった。再び襲い来る痛みを覚悟し、それでも泣くものかと心に誓って。
と、そのとき。
倉庫の入り口が大きな音を立てて開かれた。
「な、なんだぁ?」
レオナに拳を振り上げていた男は、慌ててそちらを振り返る。
「あ、兄貴!逃げてくださーーーギャーッ!」
ドサドサと、倉庫の入り口を見張っていた奴らが倒れる音がする。
騒がしかった倉庫内に、一瞬で静寂が訪れた。
「お、おい!一体何が起こってるってんだ?!」
男の叫びに答える代わりに、入り口の方から誰かがこちらに歩いて来る。入り口からは外の光が漏れて、逆光により顔は見えない。
コツコツと倉庫内に響く靴音と正体不明の不気味さが、男に恐怖を植え付けさせた。
「と、止まれ!おい、そこで止まれってんだ!!」
近くに落ちていた剣を、男は慌てて構えて言う。
だが、その靴音は止まらない。焦りを覚えた男は、先手必勝とばかりに、靴音の主に向かって飛び出した。
「う、うぉーーっ!!」
カキィーンと倉庫内に音が響く。
「……あ゛?」
男は一瞬、何が起きたのか理解することが出来なかった。なぜなら向けていたはずの剣先が、いつの間にか消えて平らになっていたのだから。
慌てて周りを見てみれば、剣先は数メートル先に落ちていた。
男は、恐々と靴音の主を見返す。
「…そんな手入れもされていない剣で、僕に勝てると思うなよ」
その聞き覚えのある声に、レオナはハッとした。
「シリウス…さん?」
それに答える代わりに、男が床に崩れ落ちた。
「助けに来たよ、レオナ。遅くなってすまない。さぁ、帰ろう」
「はい!」
シリウスにより伸ばされた手を取り、レオナは立ち上がろうとする。
だが先程まで耐え続けていた恐怖が、今になって思い出されたのだろう。足に力が上手く入らない。
「レオナ、ちょっと失礼するよ」
「え?え、わぁっ」
レオナの華奢な身体を、シリウスはヒョイと持ち上げる。
(お、お姫様だっこされてるぅーーっ!!)
だが、暖かな体温がレオナの心を安心させた。
恥ずかしさよりも、その暖かさが今の彼女には心地良くて、成されるがまま彼に身を委ねたのだった。
「もうすぐ他の衛兵も合流するはずだよ。とりあえず、人の多い通りに出よう」
シリウスによって見張りのいなくなった倉庫の入り口を出ると、案の定祭りの喧噪がはっきりと聞こえて来る。
(やっぱりシリウスさんは凄いや。一人で助けに来ちゃうんだもの!)
そう思いながら、レオナは倉庫をふと振り返った。
その途端、彼女の視界が一人の男を捉える。
先程シリウスに負けた男は、折れた剣先のあるところまで這い、それを拾って思いきり振りかぶっている。その矛先は自分達に向いていた。
「ぐっ!!」
ザシュッと嫌な音がして、シリウスの顔が苦痛にゆがむ。男の投げた剣先が、彼の背中に突き刺さったのだ。
「シリウスさん!!」
そして再びシリウスの背中を傷つけるべく、男は何とか立ち上がろうとしている。
(私がいるせいで、剣を抜けないんだ!私が…私が足手まといになってるせいでシリウスさんが!!)
「降ろして下さいシリウスさん!私は、もう大丈夫だから!!」
レオナは懇願するが、シリウスは首を横に振ってそれを拒否した。
「無理…しないでレオナ。僕が負けたことがあるかい?」
「でもっ!!じゃあせめて逃げーーー」
それ以上は、言わなかった。いや、言えなかった。
彼がまだ敵意を向けている者を前にして、たとえどんな状況でも逃げることはあり得ないと知っているからだ。
決してレオナが傷付かないように、自分の身体で守りながら。
だが幸運なことに、事態がそれ以上悪い方向へと進む事はなかった。
「兄上ーーっ、レオナーーっ!!」
道の向こうから走ってこちらに向かって来る、クラインと衛兵達の姿が見えたからだ。
こうしてレオナの誘拐事件は幕を閉じ、企んでいた他国の商人達も芋づる式に捕らえられたのであった。
次回、時は戻ってシリウスと結衣のお見合いが続きます(*^-^*)