つかの間の平穏
改題しました!
これからもどうぞよろしくお願い致します♪
しばらく抜け道を歩くと、だんだん道幅は狭くなり、天井も低くなってきた。
今二人は、かがみながら歩いている状態だ。
「この先にある、スイッチを押せば出口よ」
フローラ姫の説明によると、どうやらもう既に城内に入っているらしいのだが、ここの抜け道は防音になっているとかで、周りの音はほとんど聞こえない。
暗証番号といい、防音設備といい、意外と発展した世界なのかもしれないと結衣は思った。
最初は明かりが多少あったが、今はほとんどフローラが持参したライトの明かりだけが頼りだ。
(そういえば、この先の出口はどこに繋がっているんだろう。まったく教えてもらってない気がする……)
暗闇の中、結衣はふとそう思う。
「フローラ、この抜け道はどこに繋がっているの?」
(変な所に繋がっていないと良いけれどーーー)
「私の部屋よ」
(へー、フローラの部屋に出るのかぁ……って、え?!)
「それって私が入ったらかなりマズいんじゃ……」
“私が許可してるのだから平気よ”、と笑う彼女に、結衣は苦笑いを浮かべるしかない。
確かにそうかもしれないが、結衣は他国の人間で、その上格好もここの住人からすれば奇異の目で見られることは必須だろう。
無事に生きて帰れるのだろうかと、一抹の不安を抱えながらも結衣は道を進んで行く。
「さぁ、着いたわ。部屋は防音にはなっていないから、あまり大声を出すと外の衛兵に気付かれるわよ」
壁にあるスイッチを、フローラがポチッと押す。
カチャッ
するとかすかだが、鍵が外れたような音がした。
その音を合図にフローラが抜け道の天井に手を伸ばし、天井の板を外す。
どうやらフローラの部屋の床板部分が外せるらしい。そして外してもまだ上には絨毯が乗っていて、この秘密の抜け道を隠している。
ようやく抜け道から抜け出し二人は、どちらともなく安堵のため息をついたのだった。
「ようやく背中が伸ばせるわね。待っていて、今紅茶をいれるから」
好きなところに座っててね、とフローラが軽く言うが慌てて結衣は、両手を胸の前でぶんぶんと横に振りながらそれを拒否する。
「いやいや、流石に姫様にいれてもらうのは申し訳ないので」
紅茶の場所を教えてもらい、二人分の紅茶を淹れた結衣は、フローラ姫の横にようやく座った。
自身の服が汚れていないか少し心配になったが、座ったソファの座り心地の良さに負ける。
「じゃあ、アフタヌーンティーとしましょうか」
「いただきます」
一口紅茶を飲んでみると、甘いリンゴのような味がした。おそらくアップルティーだろうか、疲れた身体に染み渡る。
テーブルの上にはお菓子も用意されており、甘い香りが彼女の鼻口をくすぐった。
「ユイ、これも美味しいからぜひ食べてみて」
食べたそうな表情の結衣を察してか、フローラが声をかける。その優しさに甘える事にして、空腹を満たしながら結衣は頭を働かせた。
(さて、私には姫様に聞かなくてはならないことがいくつかある。このお茶の時間を利用して、なるべく聞けるといいんだけど……)
「えと、もう城内だし話し方を戻しますね。唐突なのですが結婚式の日、もしかしてバルコニー使いますか?」
結衣がそう聞くと、フローラは驚いたような顔をした。
「二人のときは普通に話して欲しいわ。でもそれより、何故知っているの?それはクラインと王子と私しか知らないことよ」
(げ、そうなのか。あ、そうだクラインに聞いたことにしちゃえ!)
「ク、クラインからそう聞いたので!」
フローラは納得したようで、結衣は心の中でほっとする。
「じゃあバルコニーに入れる人は?」
「私と王子と、王子が選んだ護衛一人だけよ」
(あれ?クラインがいない。それに、今の話を聞く限り、姫様に矢を射そうな人物は一人だけ。その人物を特定して見張っていれば良いわけだ。うん、これなら私にも出来るかも。絶対にバッドエンドは阻止しないと!)
こうして成り行きでフローラ姫と親しくなり、城内の姫様の部屋にまで入ることになった結衣は、これまた成り行きで姫様との午後の一時を過ごすことになった。
その平穏が、嵐の前の静けさだとも知らないで……