近しい人なら
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(ど、どうしよう。今、私はどうするべき?!)
静まり返った図書館に、もはや人の気配はない。
「とにかく状況を確認しないと!!」
図書館の扉をやや乱暴に閉めて廊下に出た結衣は、実は自分でも気付かないほどに混乱状態に陥っていた。だからこそ、彼女は気付けなかった。例えばそう、クラインはただ目の前から“消えた”のではないのだということに関しても…
「あら?ユイ、あなたも図書館にいたのですね。私もこれから読書でもと思っていたところなのですよ」
どこからともなく結衣の目の前に、王妃クラウディアが姿を現す。
「クラウディア様!あ、あの!クラインを見ませんでしたか?先程まで図書館にいたのですけれど、急に姿が見えなくなってしまって!!」
(“魔女の嘲笑”で消えてしまったと決めつけるのはまだ早い!とにかく今は情報収集が先決だよね)
クラウディアがクラインの行方を知っていることを願いながら、結衣は彼女の返事を待つ。だが、クラウディアは怪訝そうな表情をするばかり。
「……“クライン”とは、誰のことかしら?ごめんなさいね。城に仕える者達の名前を、全員覚えているわけではないのよ」
(ーーーはい?え、ちょい待て王妃…今何て言った?)
「…いや、この国の次期国王であり、フローラ姫の旦那様のクライン・アルベルトですよ?」
結衣がポカンとした表情でそう言うが、クラウディアも益々首を傾げるばかり。それどころか、いささか結衣の発言に驚いているようにも見えた。
「ユイ、あなたがその様なことを言うとは意外ですね…今回は聞き逃しますけれど、あまり王族に関する虚偽の発言は、不敬罪と捉えられて罪を与えられてしまいますよ」
「えーーー虚…偽?」
結衣は自身の発言を思い返してみたものの、それらに虚偽の内容が見つからない。
「そうですよ。“クライン”という人物がどの様な者かは知りませんが、少なくとも現時点においてその人物は、ユイの発言内容には値しないのですからね」
そのクラウディアの言葉を聞いてようやく、結衣の記憶の引き出しから“ペナルティー”の内容が、彼女の脳内に次々と取り出されていく。
(い、嫌だよそんなの…クラインの存在が、みんなの記憶の中から消失したかもなんてことーーー私は認めたくない!!)
「すみません、失礼します!」
バッと軽く王妃に会釈をした後、結衣は廊下を走り出す。もしかしたら王妃だけが彼の存在を忘れていて、他の人はーーーもっとクラインと近しい人間ならば覚えているに違いないと考えたのだ。
(そうだよ!マンガやアニメでよくあるように、相思相愛のフローラならば、きっと忘れていないはず!!)
“2人の愛が魔女の魔法に打ち勝って、ハッピーエンドになりました”。
こんな結末を読む度に結衣は、“愛万能だな(笑)”などと心の中で突っ込んでいた。だが今は、心の底から願ってしまう。
(この際愛でも神の力でも構わないから、どうかクラインの存在をこの世界から消さないで!!)
まさに藁にもすがる思いで、異世界の見知らぬ神に祈りを捧げる結衣だった。
「あれユイさん、どうしたんだい?そんなに急いで。あまり城内の廊下を走ることは推奨出来ないのだけどな」
「シリウスさん!」
フローラの部屋に向かおうとして廊下を小走りしていた所に、シリウスが反対側から歩いてきたのだ。
ちなみに最初は全速力で走っていたのだが、衛兵の皆さんから“危ない”と注意を受けてしまったのである。
「…何かあったような顔してるね。僕に話してくれる?」
(シリウスさんなら!クラインの兄であるシリウスさんなら、きっと忘れていないはず!!)
「あの!変な質問なのですけどーーー覚えていますよね?シリウスさんの弟、クラインのことを」
「ハハ、本当に変な質問だね。ユイさん一体どうしたんだい?」
「っ!じゃあやっぱり覚えてますよね?!」
結衣の期待に満ちた表情に、シリウスは困った様な顔をした。
(良かった、やっぱり近しい人ならクラインを覚えてーーー)
「僕に弟はーーーいないよ?」
兄弟でさえ打ち勝てなかった魔女の嘲笑。では2人の愛は打ち勝てるのでしょうかーーー?
次回月曜日更新です!