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クラインの行方

前回でとうとう発動してしまった“魔女の嘲笑”。今回はそれにより結衣の目の前から消えてしまった、クラインの行方についてです。

ホウ、ホウ、ホウーーーバサバサバサッ。


『おや、誰かいるよ』

『うん、誰か立っているね』

『何百年ぶりだろう』

『さぁ、何百年ぶり何だろうね』


ここは暗い暗~い森の中。

フクロウのような鳴き声や、大きな鳥の飛び立つ羽音。そして、聞こえてくる誰かの話し声ーーー。

それらと肌に当たる風の感触で、クラインの意識は覚醒した。


「ん、ここは外…なのかーーーハ?どうして俺は森の中に?!」


『あ、起きた』

『うん、起きたね』


(一体何が起きてるんだ?!さっきまで俺は城にいたはず。それで図書館に行った後ユイに会って……っ!!)


徐々にクラインの中で鮮明になる、先程までの彼女とのやり取り。彼女がーーー結衣が東の魔女であるという受け入れ難き真実と、それを知ってせめて自身の手で封印をと決めておこなった儀式、“魔女の封印”について。

それら全てを思い出し、改めてクラインは周囲を見渡す。だが変わらず彼の周りの景色は、見覚えの無い森の中だった。


(お、俺の今の状況は一体…?儀式を間違えたのか。いや、それは無い。俺が唱えた言葉も動作も、全て口伝通りのことをした。なら、口伝が間違いだったとでもいうのか?!)


クラインが混乱状態にいる最中さなか、彼を見つめる2つの影があった。それらは木々の間から彼を覗きつつ、ひそひそと話しながら様子を伺っている。


『混乱しているようだよ』

『うん、混乱しているね』

『どうする?久しぶりにおどかしちゃう?』

『うん、おどかしてもいいかもね』


「誰だ?!」


2つの声は風に乗り、木々を揺らして消えていく。

その上不気味なことに、木々の間でこだます声と暗さが、彼らの居場所を悟らせない。


『今頃僕らに気付いたようだよ』

『うん、今頃僕らに気付いたね』

『『でも僕らの姿を見つけることは出来ないよ』』


これが普通の人ならば、この不気味な状況に恐怖で怯えているだろう。そう、もしも彼がーーークライン・アルベルトが普通の人であったならば。しかし彼の場合は違う。剣豪と呼ばれる腕前を持ち、刺客との戦闘や魔物討伐など、様々な状況を経験しているクラインは、どんな状況に陥ったとしても冷静さを失わない。


(とりあえず、今の状況を知る必要があるよな。もし封印出来ていなかったのなら、早く帰らねぇとフローラに危害が及ぶかもしれない。それだけは阻止しねぇと!!そのためにはまず…)


無意識に腰に剣があることを確認しつつ、クラインは神経を研ぎ澄ませる。


「…おい、俺の右後ろの木から覗いているお前ら。脅かす気なら、それ相応の覚悟でやれよ。俺は今、混乱して気が立っているんだ」


『『なっ!!』』

『気付かれた。まぐれかな』

『気付かれたね、まぐれじゃない?』


会話の直後、2つの影が移動する音が、風に乗ってクラインの耳に届く。


「左斜め前、右斜め後ろ」


『また気付いた!』

『気付かれたね』


「悪いがかくれんぼに付き合う暇はねぇんだ。何度やろうが見つけ出す!出て来い!!」


『仕方がないなぁ。ほんとはもっと遊びたかったけど、僕らの主が呼んでるよ』

『それは大変、今すぐ行こう。さぁ、僕達について来れるものならついて来て?』


その言葉が聞こえた直後、クラインの目の前に子供の姿をした、2人の小人が現れる。


「なっ!!小人?!」


『『さぁ行こう。我らが主、闇の魔女クレア様の元へ』』








ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


挑戦的な小人達に後れをとることなくついて行き、森を抜けたクラインの目の前には、大きな城が建っていた。


「これは…エメラルド城、だよな?!」


『半分正解』

『半分外れ』

『ここは闇の魔女クレア様のお城』

『城はエメラルド城に似せて造っただけで別物さ』


キキィと大きな音を立てて、エメラルド城(偽)の城門が開かれた。

中は外と同じくほとんど明かりは存在せず、カツンカツンと廊下に響く靴音が、より一層不気味に感じられる。


(静かな割に、やけに人の気配を感じるな。隠れてる奴らからの殺気は感じられねぇけど…見せ物みたいで落ち着かねぇ)


『到着したよ』

『到着したね』

『『クレア様!新しい奴を連れて来ました!』』


「入りなさい」


声と共に扉が開かれ、エメラルド城でいう謁見のに、クラインは足を踏み入れた。そこで玉座に座りながら彼を待ち受けていたのは、言葉では表現出来ないほどの一人の絶世の美女だった。男なら誰でもとりこにさせてしまいそうな、まさに魔性の女。だがフローラという愛すべき存在を持つクラインにとって、彼女の容姿など眼中にはない。


「ご苦労でした、小人達。そしてようこそ我が城へ、クライン・アルベルト」


名前を知られていることに一瞬驚かされたクラインだったが、結衣の中にいたのだから知っていて当然なのだと思い直す。


(思ったよりも若いな。見た目は20代から30代…くらいか?)


「…お前が闇の魔女、クレアでいいんだな?」


「そうですよ」


「…ならば一つ聞きたい。いつからお前はユイの精神を乗っ取った?いつからあいつは“ユイ”じゃなくなったんだ?答えろ!!」


クラインの叫び声は謁見の間(偽)に響き渡り小人達は怯えたが、クレアはそれに反応するどころか理解不能とでも言いたげに、首を横に傾げた。


「あなたは一体何を言っているのでしょうね。それに私の元へと来た理由、小人達から聞いていないのかしら?」


「理由?んなもん、ユイの中にいたお前を封印するための儀式をしたのが原因何だろ?…なぜ俺がお前と話しているのかは理解出来ねぇけどな」


クレアの小人達を見る目が、周囲の温度を数度下げる程に冷たくなる。そんな彼女に慌てた様子で、小人達は仕切りに謝り頭を下げた。


『ごめんなさいクレア様!久しぶりで、僕達説明忘れてました!!』

『どうか許してクレア様!ちゃんと道案内はしてきたよ!』


「…ならば今、お前達が説明なさい。己の立場と状況を、彼に把握させるのもお前達の仕事」


『『は、はい!』』


ビシッと姿勢を正した小人達は、慌ててクラインに説明を始めた。


『君は“魔女の封印”をおこなった上で、ある間違いを犯したよ』

『だからペナルティーが発動した。確か君らの世界ではこう呼ばれていたね』


「おい、ペナルティーってまさか…」


初めて動揺を顔に出したクラインに、小人達はニヤリと笑ってこう言った。


『『魔女の嘲笑、だよ』』


「う、嘘だ!そんなわけねぇっ!!俺は確かにユイに対して行ったはずだ!あいつは魔女にしか読めないはずの本の題名が読めていた。それが何よりの証拠だろ?!」


『だからさぁ。そうは言っても、“ユイ”とかいう彼女は東の魔女ではないんだよ』

『ペナルティーの発動が何よりの証拠、題名が読めたのには別に理由があるんじゃない?』

『『まぁそんなこと、僕達には関係ないけどね』』


小人達の言葉を信じるならば、結衣は東の魔女ではないということになる。その事実を信じられないと思う反面、クラインは心の中でどこかホッとしてもいた。彼女が東の魔女でないのなら、彼女の今までの言葉も行動も、全てが真実。偽りではなかったということだからだ。


(裏切ったのはユイではなくて、俺自身の方だったのか…。くそっ!情けねぇ…)


『まぁ気にする必要はもうないよ』

『なぜなら“君”という存在をもう…』

『『一人を除いて、覚えている人などいないのだからね』』


「っ!!ーーーフローラも、なのか?!」


『例外なんて、存在しないよ』

『覚えているのはユイだけさ』

『『さぁ、絶望しろ。心が闇に飲み込まれるまで』』


がくりと床に膝をついたクラインに、小人達は不気味に笑う。最愛の人にまで自身の存在を忘れられるという言葉に、クラインの心はズタズタに引き裂かれた。


「嘘だろ…覚えているよな?おい、フローラ!フローラ!フローラーーっ!!」


クラインの悲痛な叫び声は謁見の間だけでなく、静かなエメラルド城(偽)全体に広がって消えていく。




しかし。






そんな彼の様子を玉座から見下ろしていたクレアは、突如信じられないとばかりに目を見開いた。


「彼の身体が…透け始めている。まさか…いや、そんな馬鹿なことがあるとでもいうのですか?!」


『クレア様、この現象は一体?!』

『クレア様、クラインの身体が徐々に薄れていきます!』


「な、何だ?今度は一体何をするつもりなんだ!!嘘だろおい、手が透けて床が見えてる?!」


「まさか、まさかフェリナ…」


『クレア様?!一体どうすれば!』

『クレア様?!ご指示を!』

『『クレア様!』』


魔女と小人達が慌てている間にもクラインの身体は眩しくて目が眩むほどの光に包まれ、やがて光は謁見の間全体を包んでいく。


「うわっ!目が、開けられねぇ!!」



再び光に包まれたクライン。今度は一体?!

次回、取り残された結衣の方を執筆します!

恐らく水曜日か木曜日…です。

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