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HOUSE  作者: 哲太
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第一章 もう一人の住人 PART4


「どうも。

 お待たせして申し訳ありません」


進一は島崎の元へと駆け寄り

頭を下げた。


島崎は窓の外に向けていた視線を

ゆっくり進一へと移した。


だが、

彼は静かな目線を進一へと投げかけるだけで

口を開こうとはしない。


…待たし過ぎて

怒らしてしまったか?


進一はヒヤリと嫌な汗を流したのだが、

それと同時に

この場にはおおよそ似つかわしくない、

あるものを見つけた。


「…鶴ですか?」


進一が見つけたのは、

島崎の前に置かれたテーブルに乗っている

三匹の鶴である。


どうやら

折り紙で折られいるようで、

まだその姿を変えていない綺麗な折り紙も

鶴達の横に無造作に置かれていた。


進一の言葉に

島崎もテーブルへと目線をやった。


そして、

島崎はじっと自分が折った鶴達を見ながら

ゆっくりと口を開いた。


「…それで、調査の方は如何ですか?」


「は、はい」


自分の問いには答えてもらえなかったとしても、

彼の問いに進一が答えない訳にはいかない。


進一は、

小さな声で「失礼します」と断わってから

島崎の対面に位置する椅子へ腰を掛け、

鞄の中から封筒を取り出した。


「先日お電話でお話しさせて頂きました通り、

 お嬢様は現在兵庫県にお住まいになっております。

 住所はこちらです」


進一は封筒の中から

島崎の娘「遥」が暮らすマンションの住所が書かれたメモを

取り出した。


「お嬢様は

 雄平様とお二人で

 このマンションに住んでいらっしゃいます。

 日中は御二人とも働いていたり、

 夜も雄平様はそれとはまた別の

 お仕事に向かわれておりましたので、

 生活は予想以上に苦しいのかもしれません」


進一は「これがお二人の勤め先とその住所です」と言って、

それを記した紙を島崎へと差し出した。


何となくこの親子の関係を進一は察していたので、

雄平のことを「旦那様」とは言わない。


島崎は、

進一の補足説明を黙って聞きながら

差し出される資料をじっくりと読んでいった。


時には

進一がこっそりと撮った「遥」の写真も挟みつつ

二人が会話を始めてから二十分程度が経っただろうか。


会話…と言っても、

ほとんど進一が話していたのだが、

それでも彼が今日の日のために準備してきた内容を

大方島崎に伝え終わったところであった。


「それで、今後は如何致しましょう?」


進一が恐る恐る問うと、

島崎はまだ「遥」の写真へと目線を向けたまま

言葉を返した。


「今後、と言うのは?」


「はい。

 引き続き調査を進めるかどうかの

 ご指示を頂ければと。

 調査を続けることで

 また新しいことが分かるかもしれませんし、

 とりあえずお嬢様の動向は

 ご報告し続けられます。

 私としましても、

 もう少し様子をご覧になってもいいかと

 思うのですが…」


人探しの依頼で

相手を見つけてしまえば

もう難しい作業は残っていない。


進一としては

まだこの収入源を失いたくなかったのだ。


しかし、

そう上手く回らないのが「仕事」と

言うものである。


島崎は手に取っていた写真をテーブルに置き、

自分が羽織る背広の内ポケットへと

手を伸ばした。


「いえ、結構。

 おかげ娘を見つけることが出来ました。

 あとは自分でどうにかします」


そう言いながら、

島崎は依頼料を入れた封筒を進一の元へと差し出した。


「そうですか…。

 こちらこそ、ありがとうごじました。

 また、何かあればご相談ください」


また仕事がなくなってしまう不安に駆られつつ、

受け取ったその封筒の重みから

予想以上の金額が入っているであろうことに

内心小躍りした進一であったが、

結局この三ヶ月後に実家に戻るハメに

なることを今の彼は知らないし、

それはまた別の物語である。


※ ※ ※


探偵がホテルの部屋を出て行った後、

島崎は椅子に体を預けつつ

煙草を吹かしていた。


初めて探偵と言う人種にあった時は、

その頼りない風貌を見て

心配になったものだが、

彼は中々上手くやってくれたようで

今回の結果に満足していた。


妻は

しばらく遥の好きにさせろと言っていたが、

愛娘の居場所すら分からないなんて

泰平には我慢ならなかったのだ。


この後

どのような行動を起こすかは

自分次第である。


この住所へと乗り込んで

無理やり連れて帰るのがいいか、

とりあえずは様子を見るのがいいのか…。


その答はまだ出そうになかった泰平は、

灰が落ちかけている煙草を灰皿に押し付け

そっと折り紙へと手を伸ばした。




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