姉妹の絆
無事、新年を迎えた実たち。2月末に行われる「ひなまつり大会」にはなんと、3年生の佐伯菜月が出場する。実たちは菜月に勝てるのか?また、佐伯姉妹が抱えた想いとは?
年が明けた。部活は1月4日からだった。
「こんにちは、お願いします。」
「こんにちは。」
実が格技場に行くと、薫と桃がすでに来ていて、防具を出していた。実も部室にリュックを置いて、防具を出した。愛美と沙耶と大雅もぞくぞくきた。袴に着替え、上に紺色で襟が赤の新城ジャージを着た。部室を出ると久遠がすでに来ていた。袴を着て、上に会津なぎなた連盟のジャージを着ていた。会津なぎなた連盟のジャージは全体が青、白、襟と袖に黒のラインが入っている。左胸にロゴが入っており、会津の『會』の文字のひとやねの部分がなぎなたになっている。
年明け最初の部活は薫が防具に加わり、久遠も一緒に防具をやった。薫の打突は以前より、遅くなっていた。部活は30分早めに終了し、神社に必勝祈願に行った。
「全国大会で優勝出来ますように。」
「出来ますように。」
久遠に全員が続いた。
「久遠先生が旦那さんと幸せになって、リア充出来ますように。」
桃が言った。
「桃っ!」
久遠が目を閉じたまま怒った。
「虫が格技場からいなくなりますように。」
沙耶が言った。
「久遠先生みたいな恋が出来ますように。」
実が言った。
「実っ!」
久遠が目を閉じたまま怒った。
「社会の古川が地獄に落ちますように。」
薫が言った。
「薫っ!」
久遠が目を閉じたまま怒った。
「これからもたくさんプリンが食べられますように。」
愛美が言った。
「久遠先生より、男らしくなれますように。」
大雅が言った。
「大雅っ!」
久遠が目を閉じたまま怒った。
「新城中なぎなた部の部費アップと、実績アップ、部員が今年1年を怪我なく、無事に、楽しく過ごせますように。」
最後に久遠が祈願し、全員が目を開けた。
「あっ!久遠先生、お守り見てもいいですか?」
桃が尋ねた。久遠に許可を貰い、桃は授与所に行った。
「久遠先生!恋愛成就のお守り買ってください!」
桃が叫んだ。
「はぁ?買うなら必勝祈願でしょ?」
久遠も授与所に駆け寄った。
「先生、これどうですか?」
桃が安産祈願のお守りを勧めた。
「まだ、できてもいないんだから、意味ないでしょ。」
「子宝のお守りもお勧めですよ。」
神社の娘らしい巫女の格好をした小学生が勧めた。
「でも、まだいいかな。桃、買うなら早くなさい。」
「買ってくれないんですね。じゃあ、これとこれください。あと、おみくじ1回。」
桃が久遠を横目で見ながら、お守りを買った。
帰ってきてから、部室で冬休みの宿題をやった。実はまた桃に理科を教えてもらった。薫は社会の問題集の答えを写しているのを久遠に見つかり、こっぴどく叱られたが、無事?に写し終わったようだ。4日後には始業式があった。冬休みが終わったため、練習量は大分減ってしまった。2月終わりには『ひなまつりなぎなた大会』がある。『ひなまつり』と言うのに、大会は2月終わりに催される。ひなまつり大会は団体戦がなく、『東西対抗団体戦』が行われるらしい。成年女子の部もあるため、久遠も常に練習に参加した。
冬休み明けの学校は久遠がクリスマスにショッピングモールでキスをしていたと言う話題で持ちきりだった。陸上部とテニス部、バドミントン部に目撃者が多数いたため、学校中に広まった。そのため、久遠に対する恐れの目は1日で無くなり、久遠はすれ違う度に中2病全開の男子にセクハラまがいの言葉でからかわれた。
「久遠先生!相手誰ですか?もう一緒に寝ましたか?」
「先生!今日は彼氏の家に泊まるんですか?」
「先生!その指輪って結婚指輪ですよね?できちゃった婚ですか?」
久遠は言われる度に、すごい顔で睨み付けた。しばらくして、久遠と彼氏が喧嘩をして破局したと言う噂が流れ、久遠に対するからかいは無くなった。
「久遠先生、彼氏と別れちゃったんですか?」
桃が尋ねた。
「別れてなんかないよ。ただ、ちょっともめただけ。そんなに心配そうな顔しなくても大丈夫だから。もう仲直りしたし。」
2月半ばには最後のテストがあった。全科目だったので、実と愛美は勉強が大変だったが、学年トップの沙耶は楽勝だった。1年生は最終日の最後の科目が保体で、実はどんどん問題を解いた。久遠と酒井がテストを作っていたため、ひどい点は死んでも取れなかったため、昨日に猛勉強した。テスト終了後、給食を食べて学校は午前中で終わった。
実はすぐに部活に行ったが格技場はまだ開いていなかった。雪が降るなか待っていると大雅がきた。
「沙耶は?」
「日直。」
しばらく、2人とも黙っていた。
「大雅って、なんでなぎなた部に入ったの?」
実が尋ねた。
「なんでって別に…。」
「薫先輩目当て?」
実が更に尋ねた。
「な、なんでだよ。」
大雅は明らかにうろたえた。
「わかりやすすぎる。薫先輩、美人だもんねぇ。」
「なんだよ。」
「別にぃ~。」
話しているうちに、薫と桃がきた。格技場の鍵は毎回、薫が久遠のロッカーから持ってくる。ロッカーの暗証番号は薫と久遠しか知らない。急いで防具を出し、袴に着替えた。テスト休み明けだったので、体が思うように動かなかった。薫の打突は以前のスピードに戻っているようだった。試合稽古を実は大雅と行った。すねを狙って大雅の足の甲を思いっきり打ってしまい、大雅が痛そうにしていたが、今日は申し訳ないと全く思わなかった。部活帰りに実は愛美と沙耶に大雅のことを話した。
「愛美の言った通り、中原大雅は白石薫先輩目当ての入部でした。」
「やっぱり。あいつ最低。」
「だから、あんなに上達早かったんだね。」
沙耶がおっとり言った。
「沙耶は怒ってないの?」
「怒ってないよ。」
「なんで!?」
「だって、大雅が薫先輩目当てで入部したとしても、もう私たちの仲間だよ。はっきり言って、大雅はなぎなた上手いよ。」
「まぁね…。」
大雅の上達の早さは実と愛美もわかっていた。
「それに、大雅はなぎなた好きだと思う。入部した訳なんてどうでもいいよ。本気でなぎなたに取り組んでいるんだから。」
「そうだね。」
沙耶の言葉に実と愛美も納得した。
ひなまつり大会はまた、城南小学校で行われた。演技は県大会と同じ組合わせだった。今回から大雅も個人戦に出場する。男子は大雅だけのため、男子個人戦はなく、中学生個人戦となった。開会式はいつもと同様に行われた。大会本部の後ろにはひな人形が飾ってある。演技は桃と大雅は1回戦目は葵ヶ崎の1年生の市村陽と大橋明里で4対1で勝った。愛美と沙耶、実と薫はシードだった。愛美と沙耶の2回戦目は二中の1年生の伊藤知里と長谷川美智瑠で5対0で勝った。桃と大雅の相手は三中の1年生の三村早月と古俣恵で4対1で勝った。実と薫の相手は三中の2年生の永井千沙都と伊藤凜音で5対0で勝った。愛美と沙耶の3回戦目の相手は二中の菜月と叶子だった。菜月は葵ヶ崎高校に合格したため、今回の大会に出場しているらしい。結果は1対4で負けた。桃と大雅の相手は二中の結城未咲と結城未森で2対3で負けた。実と薫の相手は鶴城中の安西椎菜と朽原愛奈で5対0で勝った。準決勝は二中の菜月と叶子が未咲と未森に5対0で勝った。実と薫は三中の2年生の嵩原奈央と長谷川桜で5対0で勝った。決勝はすぐに始まった。
「ただいまより、決勝戦を行います。赤、佐伯チーム。」
「はい!」
「白、光城チーム。」
「はい!」
各チームのしかけが返事をして、入場した。主審が笛を鳴らし、正面に礼をし、互いに向かい合って相手に一礼して中段に構えた。
「すね!面!」
「すね!」
「胴!面!」
「面!」
「すね!」
「面!面!」
4本目が終わり、自然体になり、互いに一礼した。正面を向き、一礼して退場した。主審が笛を鳴らした。赤が2本、白が3本あがった。実と薫は勝った。
今回は午前中に中学校の個人戦も行われる。時間の関係上、1本先取で延長戦もなしで試合が行われる。実の1回戦目の相手は鶴城中の2年生の角田瑠璃で判定で勝った。愛美の相手は四中の1年生の矢吹美紅で1本勝ちだった。大雅の相手は四中の1年生の長谷川優衣で判定で勝った。沙耶の相手は三中の長谷川桜で判定で勝った。薫はまたシードだった。実の2回戦目の相手は三中の2年生の凜音ででばなで1本とり勝った。愛美の相手は鶴城中の2年生の後藤美緒で判定で負けた。大雅は不戦勝だった。沙耶の相手は二中の菜月で面をとられて負けた。薫は二中の2年生の未森ですぐに勝った。実の3回戦目の相手は鶴城中の2年生の高田波奈だった。
「始め!」
「すね!」
「面!」
「小手!すね!」
新人戦の時の波奈とは違っていた。打突が明らかに速くなっていた。だが、実も負けていなかった。
「すね!」
波奈のすねに旗が1本あがった。
「面!」
実の面に旗が全てあがった。
「面あり!勝負あり!」
愛美と沙耶と桃はギャラリーから応援していた。愛美が言った。
「すごい。実、面取ったよ。」
「実は、新人戦の時の波奈ちゃんの癖を覚えていたんだね。波奈ちゃん、有効っぽい打突を打ったとき、止まるから。」
大雅の相手は叶子だった。
「始め!」
「小手!」
「小手あり!勝負あり!」
大雅はすぐに負けてしまった。薫の相手は千沙都だったが、あっさり勝った。実の次の相手は菜月だった。
「始め!」
「小手!」
「小手あり!勝負あり!」
菜月にでばなの小手をとられ、実は負けた。薫の相手は結城未咲で、あっさり勝った。薫の次の相手は那奈だった。
「始め!」
「すね!面!面!」
「小手!」
「小手あり!」
薫が那奈の下がり際を狙い、小手を打った。
「勝負あり!」
薫はまた、あっさり勝った。
「薫先輩、前より強くなってませんか?」
愛美が桃に尋ねた。
「骨折挟んじゃったからね。薫、連盟の大人の練習にも参加してたんだ。」
「大人の練習に!?」
愛美と沙耶と大雅ははじめて知った。
「まっ、久遠先生にまた、疲労骨折するからって制限かけられてたみたいだけど。」
防具を外し終わった実もギャラリーに上がってきた。
「薫先輩は?」
「那奈先輩を秒殺。」
「もう!?はやっ。」
決勝戦は菜月と薫だった。
「始め!」
「面!」
「小手!すね!」
「面!すね!」
接近戦になった。
「別れ!始め!」
「面!」
薫の面に旗が2本あがった。
「面あり!勝負あり!」
「薫先輩、はやすぎ…。」
沙耶が圧倒されながら言った。午前中の部はこれで終わった。
昼食を挟み、小学生と高校生と成年女子の試合が行われた。小学生の試合は、県大会と同様に6年生の東海林陽架璃と山本優羽が決勝に進み、陽架璃がすぐに1本とり、勝った。高校生は準決勝で鈴川学園の吉沢涼夏と葵ヶ崎の佐伯菜摘があたり、判定で佐伯菜摘が勝った。もう1試合は鈴川学園の芦田希と鈴木奈帆があたり、希が面をとって勝った。決勝は菜摘と希で判定で菜摘が勝った。成年女子は3人のみの出場だった。1試合目は久遠はシードだった。1回戦目は連盟所属の香川夏乃と葵ヶ崎学園のなぎなた部顧問の小崎だった。
「始め!」
「すね!」
「面!」
小崎が打った面に旗が1本あがった。
「小手!すね!」
「面!すね!面!」
「すね!」
試合開始から2分がたった。
「すね!」
「面!」
「面!すね!すね!」
「すねあり!」
小崎のすねに旗が全てあがった。
「勝負あり!」
「ただいまより、決勝戦を行います。赤、久遠選手。」
「はい!」
「白、小崎選手。」
「はい!」
「始め!」
「小手!」
「すね!面!すね!すね!」
「面!面!」
「すね!」
実たちはギャラリーから応援した。
「久遠先生ファイトです!」
横から葵ヶ崎の生徒の声がした。
「小崎先生、面いいとこです!」
「すね!」
久遠が打ったすねに旗が1本あがった。
「小手!すね!」
「すね!面!」
「やめ!」
試合時間がきれた。
「判定!」
赤の旗が全てあがった。
「勝負あり!」
「久遠先生、また勝った…。」
「もうすぐ、東西対抗戦だよ。」
桃が言った。
「東西対抗戦ってなんなんですか?」
実が尋ねた。
東西対抗団体戦は個人戦の上位者が東軍と西軍にわかれて戦う。東軍は小学生の1位と中学生の1位と4位、高校生の1位と成年女子の1位。西軍は小学生の2位と中学生の2位と3位、高校生の2位と成年女子の2位となっているため、東軍が圧倒的に有利である。オーダーは各軍できめるため、東軍は久遠が、西軍は小崎がきめた。久遠が考えながら言った。
「西軍の先鋒は山本がくると思うから、先鋒は市原。」
「はい。」
「次鋒には叶子か菜月…、次鋒は東海林。」
「はい。」
「中堅は…芦田か?中堅は薫。」
「はい。」
「副将は…叶子か菜月…。副将は菜摘。」
「はい。」
「大将は小崎先生がくると思うから、私が大将でいく。勝てない相手じゃない。全力でいくよ。」
「はい。」
「1本先取だから、出ばな狙いなさい。相手も狙ってくると思うから十分気をつけな。」
「はい!」
久遠は本部にオーダー表を出しに行った。西軍の小崎もオーダー表を出し、試合が始まった。
「選手を紹介します。東軍。先鋒、市原那奈。次鋒、東海林陽架璃。中堅、白石薫。副将、佐伯菜摘。大将、久遠葉瑠花。西軍。先鋒、山本優羽。次鋒、遠藤叶子。中堅、小崎瞳。副将、佐伯菜月。大将、芦田希。」
久遠の予想はほぼあたった。
「薫先輩と小崎先生!?超面白そう。」
桃が薫のビデオカメラを三脚にセットし始めた。
「赤、市原選手。」
「はい!」
「白、山本選手。」
「はい!」
「始め!」
「すね!」
「面!」
「面あり!」
赤の旗が全てあがった。優羽は身長が低かったため、すねを狙ったが、那奈が抜いて面を打った。
「勝負あり!」
「赤、東海林選手。」
「はい!」
「白、遠藤選手。」
「はい!」
「始め!」
「小手!」
陽架璃の小手に旗が1本あがった。
「すね!面!」
「すね!」
接近戦になり、叶子がすねをしかけた。旗が1本あがった。
「面!面!」
「すね!」
試合時間は小学生の陽架璃にあわせて1分に設定されていたため、試合時間はすぐにきれた。
「やめ!判定!」
赤が1本、白が2本あがった。
「勝負あり!」
控え席に戻り陽架璃が太ももを叩いた。
「くそっ!」
「よくやったよ。」
久遠が陽架璃に言った。
「赤、白石選手。」
「はい!」
「白、小崎選手。」
「はい!」
「始め!」
「面!」
「すね!」
薫が得意の面をしかけたが、小崎が抜いてすねを打った。
(良い交わし方してる。薫、瞳の打突が『視えてきた』な。)
「面!」
「小手!」
「すね!面!面!」
「すね!」
試合は小崎が優勢に進んだ。
「面!」
接近戦になった。
「わかれ!始め!」
「すね!」
「面!」
「面あり!」
小崎の面に旗が2本あがった。薫もすねを打ったが、小崎の方が速かった。
「勝負あり!」
「久遠先生、すみませんでした。」
「お疲れさま。」
「赤、佐伯選手。」
「はい!」
「白、佐伯選手。」
「はい!」
2人が中段に構えた。
「始め!」
「面!」
「面!」
接近戦になった。
「すね!面!」
「小手!」
「すね!」
「小手!面!すね!」
また、接近戦になった。
「わかれ!始め!」
「すね!」
菜摘のすねに旗が1本あがった。
「すね!面!」
「小手!面!すね!面。」
「すね!」
また、接近戦になった。
「桃先輩。接近戦多すきじゃないですか?」
「妹に負けたくない。今回こそ姉に勝ちたい。お互いその気持ちが一歩も引かせないから、接近戦にさせてるんじゃないかな。気迫すごいねぇ。」
「別れ!始め!」
「面!」
「すね!」
再び接近戦になった。
「菜月もやるようになったね。」
菜摘がニヤリと笑った。
「今回こそはお姉に負けない!」
菜月が歯をむき出しにして言った。
「私だって。」
「別れ!始め!」
「すね!」
「面!すね!」
菜月が菜摘の面を打とうとした。
(あの時と同じだ…。)
去年の中体連で菜摘は薫に負けた。当時は、福島に菜摘の敵はいなかった。
『菜摘ちゃん。そう言う時もあるよ。会津総体で勝てばいいんだから。』
『はい…。』
菜摘は会津総体の個人戦の決勝でまた、薫に負けた。帰り際に誰かが言っているのが聞こえた。
『中体連はたまたまだと思ったけど、今回も負けたらなぁ。菜月ちゃんも敵わないみたいだし。佐伯姉妹の時代は終わったな。』
菜摘はその場に立ちすくんだ。自分の時代は終わった。まわりの人はそう思っているんだ。自分のまわりには自分の味方はいない。その時ほど、傷ついたことはなかった。その日の帰り道、菜月は菜摘の手を黙って握り続けた。
「面!」
菜月の面に旗が1本あがった。菜月の下がり際に菜摘がすねを打った。
「すね!」
「すねあり!勝負あり!」
(ついこの間まで受験勉強で動いてなかった中学生に負けるわけにいかないんだよ。私は葵ヶ崎のエースだから。)
「赤、久遠選手。」
「はい!」
「白、芦田選手。」
「はい!」
「始め!」
2人とも動かなかった。相手の動きを見ている。1分近くも動かなかった。
「すね!」
希がすねを打った。
「面!すね!」
「面!」
「面!」
「面あり!」
久遠が打った面に旗が全てあがった。
「勝負あり!」
東西対抗団体戦は東軍3勝、西軍2勝で東軍が勝った。
「お互いに礼!正面に礼!」
会場中の人が拍手した。閉会式後に紅白まんじゅうが配られた。
それからは、あっという間に卒業式になった。なぎなた部には3年生がいなかったため、実たちはとくに泣いたりもしなかったが、久遠がタイトスカートにパンプス姿だったことに驚いた。
「先生!スカート!」
愛美が言った。
「何履こうが、あたしの勝手でしょ。」
「いやぁ。久遠先生がスカートはすごい稀ですよ。スゴく綺麗だし。しかも、ネックレスとピアスまで。」
「これイヤリングだから。」
久遠は耳に真珠のイヤリング、首元には、シルバーのネックレスをかけていた。
「先生、それ、ハートのペアネックレスのかたわれですよね?」
愛美がまじまじと言った。
「旦那さんからのプレゼントですか?」
「まぁね。」
「ラブラブでいいですねぇ。」
愛美が冷やかした。
「うるさいっ!」
久遠は足早に体育館に戻った。次の日の部活終了後に4月終わりにある東北なぎなた大会の出場メンバーが発表された。
「東北のメンバー表が連盟から届いた。新城は全員出場できる。」
1年生は安堵の表情を浮かべた。
「演技。しかけ桃、応じ薫。しかけ沙耶、応じ愛美。あとは、しかけが実で、応じが来年入ってくる東海林陽架璃。あとはしかけが大雅、応じが同じく来年入ってくる山本優羽。」
「はい!」
「東海林陽架璃と山本優羽はまだ小6だから、一緒に練習できない日は実と大雅で練習して。」
「はい!」
「個人戦は薫と実と愛美と東海林陽架璃が出場。大雅は男子個人の部に出場。」
「はい!」
「あと、団体はAチームが先鋒から薫と東海林陽架璃と叶子。Eチームは実と沙耶と愛美。」
「はい!」
「東北まで約1ヶ月ある。目標は全部門優勝だ。この春休みが勝負だ。全力をつくせるように、しっかりやりな!」
「はい!」
実たちの1年が終わりを向かえようとしている。去年の4月になぎなたと出会い、色々なことがあった。楽しかったことより、辛かったことの方がはるかに多かったが、とても充実したものだった。中学1年生はもうすぐ終わってしまうが、中学1年生の終わりは中学2年生の始まりである。実たちの時代はまだまだこれからである。