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なぎがーる!!~中学生になった今日、青春はじめます~  作者: NARUMl
FIRST YEAR~We make a dream with 7 person~ 
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なぎなた男子

 夏休みが明け、新人戦に向けて奮起する実たち。そんな時、なぎなた部に新入部員が。だが、それはなぎなた部初の『男子』だった。

 「2年B組、高橋桃です。よろしくお願いします。」

「よろしくお願いします。」

桃が実たちの前で挨拶をした。今日から、桃はなぎなた部員になった。

「私は見ての通り、右足がまだ不自由です。リハビリを続けて、歩けるようになれるようにはなりましたが、まだ運動ができる体ではありません。なので、防具はやれませんが、人並みの運動ができるようになったら、演技は頑張っていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。」

 薫は2週間後にJOCがあり、防具の稽古は久遠と行った。薫と久遠の稽古の量と質が上がったのは実たちにも理解できた。久遠は薫の稽古につきっきりなため、桃が実たちの指導をした。1年生が1人余っているため、その1人は打突台で稽古をし、桃がつきっきりで教えた。防具の稽古はローテーションをしながらする。ローテーションをする前に相手が先輩の場合は反省をもらう。実は桃に反省をもらった。

「反省、お願いします!」

「実ちゃんの打突は…」

桃の反省は薫よりも、明確で丁寧で分かりやすかった。実たちも、防具の稽古を始めて1ヶ月がたち、だんだんと慣れてきた。試合稽古はまだ、やっていないが、パターン練習は始めた。二段技という打突を2本連続で行うものや、応じ技という相手が打ってきた打突を応じて1本打つものや、抜き技という相手が打ってきた打突を抜いて1本打つものなどをを行った。

「面!」

愛美が打った面を沙耶がぬいた。

「すね!」

「沙耶ちゃん!抜くのが早いよ!もっとギリギリまで待って。」

「はい!」

実は薫とか遠の稽古を眺めた。実たちの倍以上の早さで抜き技や応じ技をやっていく。薫と久遠の試合稽古を実たちは壁際で眺めた。

「ラスト30秒、ファイトです!」

菜月や叶子との試合では見られないような速さだった。久遠の方が圧倒的に優勢だったが、薫はそれについていった。

「ラスト10秒、ファイトです!」

試合時間が終わり、タイムを計っていた沙耶がホイッスルを鳴らす。2分の試合稽古を5セットやり、打ち返しを行って、稽古は終わった。


 防具を外に干し、格技場の中のモップをかけた。部室で着替えを済ませ、防具を片付けた。防具は新品なのに、臭いがすごかった。だが、薫と桃はそんなこと気にせず、薫は自分のを、桃は久遠のを片付けた。実たちは校門まで一緒に帰り、沙耶は家が反対方向なので、校門で別れた。愛美は自転車を押しながら実に言った。

「桃先輩が入ってから、薫先輩、楽しそうだよね。」

「そうだね。桃先輩とは幼馴染みらしいし。昔の血が騒ぐってやつじゃないかな。」

「それ、言えるね。」

大通りの十字路にさしかかり、実と愛美は別れた。


 2週間後には、夏休みに入った。薫はJOCのために土曜日から、千葉に行った。部活は9時から12時までで、毎週月曜日が休みである。薫が不在のため、久遠も実たちと一緒に防具の稽古をやり、仕切りは桃がやった。

「打ち返し3セットです。」

「はい!お願いします!」

相手に一礼して、中段に構える。

「ファイトです!」

相手がなぎなたを中心から横に反らして面をあけると打突を打ち始めることができた。

「面!面!面!すね!すね!」

打ち返しが終わり、実は久遠に反省をもらいに行った。

「反省お願いします!」

「実は前の手で打っているから、もう少し後ろの手を意識して。あと、声と打突がずれているから、声を早く。」

「はい!ありがとうございました。」

打ち返しが3セット終わり、桃が指事を出した。

「基本打突、6本2セットです。振り上げて面です。」

「はい!」

基本打突が終わり、休憩をした。信じられないほどの汗をかいていた。

「やっぱり、夏休み中は暑いね。」

沙耶が愛美に言った。

「そんなんで、どうするの?西の方はもっと暑いんだからね。来年は、西の方とも戦わなきゃいけないんだから。」

久遠が手拭いで汗を拭きながら言った。

「す、すみません…。」

沙耶が肩を縮めた。それから、パターン練習をやり、打ち返しをやって、防具の稽古は終わった。それからは演技の練習をした。1本目から5本目までを30分間通して、稽古が終わった。


 4日後には薫が帰ってきた。大量の賞状とトロフィーや盾を抱えていた。お土産にディズニーランドのお菓子をもらった。稽古前に薫が大会結果を言った。

「えっと…、演技では二中の佐伯菜月先輩と組ませていただき、5位。団体戦は菜月先輩と二中の遠藤叶子ちゃんと団体を組み、5位。個人戦は1位でした。応援、ありがとうございました。」

「おめでとうございます。」

実たちは心底感心し、誇りに思った。自分たちの部活の部長が全国一の腕前を持っているのだ。夏休みの練習は暑さとの戦いだったが、9月末にある新人戦に向けて練習を重ねた。薫は8月中旬に錬成大会という全国大会があるので久遠と最後の追い込みにかかっていた。お盆休みに入り、薫と久遠は錬成大会に行った。実たちは3人で実の家で映画を見に行った。『サマーウォーズ』はなぎなたも少し出てくる。ジュースを飲みながら愛美が言った。

「やっぱり、サマーウォーズはおもしろいね。」

「陣内家の親戚が多すぎて混乱しちゃう。」

沙耶が言った。

「薫先輩…、大会、どうなったのかなぁ。」

実がボソッと言った。

「薫先輩なら大丈夫。負けるわけないよ。」

「それもそうだね。お昼、どっかで食べる?」


 お盆休みも終わり、夏休みも残り1週間になった。薫は錬成大会で個人戦と演技で優勝だった。桃は懸命なリハビリの結果、歩けるようになり、演技の練習を始めた。久しぶりに実たちは薫と防具の稽古をした。薫の打突はやはり速かった。部活終了後、実たちは部室で宿題の残りをかたづけにかかった。実はまた、理科の理解に苦しみ、桃に教わった。愛美は英語の問題集を片手にすごい速さでノートに英文を書いていく。沙耶は、宿題は7月中に終わっていたため、愛美に英語を教えながら、夏休みあけテストの勉強をしていた。薫は国語の問題集の解答を片手に、すさまじい速さで答えをノートに写していく。そんな薫を見て、桃が言った。

「薫、そんなんでテスト大丈夫?」

「大丈夫。近藤さんのテスト問題は答えそのままだから!」

近藤さんとは、沙耶の担任の先生で、国語担当の長身の男性教師。テストの問題は問題集の答えをそのまま出すため、答えを暗記すれば100点を取れる。

「写し終わった!」

薫が歓声をあげた。そして、理科の問題集の答えをまた、すさまじい速さで写し始めた。

「私、薫がすごい心配…。」

桃が呆れながら言った。


 1週間後に新学期が始まった。沙耶は教室で文庫本を読んでいた。近藤が教室に入ってきた。

「今日は転校生がいるぞ。」

1人の男子が入ってきた。眉毛が太い以外に特にこれと言った特徴もなく、一言で言うと「普通」だった。

「愛知から来ました。中原大雅なかはらたいがです。」

大雅が一礼した。

「中原君は神崎さんの隣に座ってくれ。」

「はい。」

大雅が沙耶の隣に座った。

「よろしく。」

沙耶がいつもの優しい笑顔を向けた。

「あ、どうも。」

その頃、実の教室にも転校生がきた。

中原優雅なかはらゆうが君です。」

「愛知から来ました。よろしくお願いします。」

「優雅君はさいかの隣の空いている席に座って。」

「はい。」

優雅はさいかの隣の席に座った。

「優雅君、よろしくね。」

さいかが明るく言った。

「よろしく。」

給食のときに実とさいかと優雅は同じ班だったので、少し話した。

「優雅君は何部に入るの?」

「大雅も俺も特には決めてないけど。」

「大雅?」

「俺ら双子のかたわれ。」

「双子なんだ。楽しそう。」

「楽しくはないけど、寂しくはない。」


  近藤に頼まれ、昼休みに沙耶は大雅に学校を案内した。

「ここが体育館。こっちはトイレ。ここは音楽室。ここもトイレ。ここからは教室。2階はロッカールーム。で、あっちもトイレ。あっ、薫先輩、桃先輩。こんにちは。」

沙耶は薫と桃に挨拶をした。

「こんにちは。」

薫と桃も挨拶をした。しばらくしてから大雅が沙耶に聞いた。

「さっきの2年生は?」

「部活の先輩。ポニーテールの人が白石薫先輩でショートが高橋桃先輩。」

「へぇ…。」

「気になる?」

「べ、別に。綺麗な人だなって思っただけ。案内してくれて、ありがとう。」

「どういましまして。部活はまだきめてない?」

「うん。」

「暇なら、放課後になぎなた部に来たら?今は男子部員はいないけど。」

「わかった。」

大雅はそれから毎日、なぎなた部の見学に来た。1週間後にはなぎなた部に入部した。

「中原大雅です。よろしくお願いします。」

大雅は全員に挨拶した。

「じゃあ、改めて、なぎなた部の目標を桃と大雅に説明します。」

「また、あれやるのかな?」

愛美が囁いた。その言葉通りに、久遠は用具室から出した可動式のホワイトボードに大きく書き始めた。その言葉に、桃は納得したようだが、大雅は唖然としていた。

「『日本一になる!!』です。我らなぎなた部の目標はこれ!日本一。」

「マジすか?」

「マジです。なぎなたは競技人口が少ないから、本気で取り組めば十分狙えます。特に男子は100人いるかどうかだから狙い目です。」

久遠が言い切ったと同時にホワイトボードを叩いたが、今回はホワイトボードのため、粉は舞い上がらなかった。唖然とする大雅を見て、実たちはクスクスと笑った。

「でも、まぁ、いきなり全国と言われてもピンと来ないと思うんで、まずは新人戦3冠を目指します。その後に2つの大会があるけど、それでも優勝しまくって、福島県一の強豪になる。そして、4月の東北大会で優勝して東北一。7月、8月の全国大会で全部優勝。その後は連覇し続ける。これが計画です。で、なぎなた部の部則。その1、挨拶、返事は大きく。その2、スカートは膝たけ。男子はスラックスを長くしすぎない、腰パンにしない。その3、髪の毛は目にかからないようにして、ショートカット以外はポニーテールかだんご。男子は私より短く。」

「マジすか?」

「私はいたってマジです。大雅の指導は桃にやってもらうから。」

「はい。」


 大雅と桃は格技場の横で練習をした。大雅の練習は実たちが最初にやったように足さばきから始まった。実たちより、大雅の上達は圧倒的に早かった。1週間後には演技のしかけを、ぎこちなかったが全てこなした。

「大雅君、上達早いね。」

「新人戦も近いし、私も頑張ろ!」

大雅の影響か、新城中なぎなた部全体の雰囲気が明るく、本気になった。自分より下の者がいることは励みにもなり、自信にもなった。新人戦まで2週間をきった。久遠は演技と団体の組み合わせを考え出した。防具の稽古の最後に、4人のリーグ戦をやった。薫は10秒以内に打突を全て決め、圧勝だった。ダイジェストで表現する。薫vs実(薫の2本勝ち)愛美vs沙耶(愛美の1本勝ち)薫vs沙耶(薫の2本勝ち)実vs愛美(引き分け)薫vs愛美(薫の2本勝ち)実vs沙耶(実の1本勝ち)結果は、1位薫、2位実、2位愛美、4位沙耶だった。演技も全員を1回ずつ組ませて相性などを見た。愛美と沙耶のペアはすぐに決まった。薫が応じで実と桃がしかけはすぐに決まったが、誰が薫と組むかが問題だった。何度も組ませた末、実が薫と組むことになった。実は嬉しかったが、優勝しなくてはいけないというプレッシャーが襲ってきた。桃は大雅と組むことになった。


 9月中旬に3年に1回の体育祭が行われた。新城中では体育祭、文化祭、合唱祭の順に3年に1回ずつ行われる。体育祭ではA組、B組、C組にチームをわけ、総得点で争う。

「うそっ!また、相手は薫先輩ですか?」

なぎなた部はなぎなた部対決になったら面白いと言う理由で全員で借り物競争に出た。実はまた、薫が相手だった。

「よーいっ!パンッ!」

全速力で走って封筒を拾って中を見た。

「『猫耳カチューシャをつけさせた部活の顧問の先生』…。」

実は中を見てきょとんとした。

『おーっと。A組光城が引き当てたのは『猫耳カチューシャをつけさせた部活の顧問の先生』だ!実行委員会がおふざけで作ったやつだー!一番引いてはいけない、なぎなた部が引いてしまった!』

実況の生徒が言った。薫が引いたのは『自分の名前から始まる名前しりとり。名前しりとりに出てくる人とその順に手をつないでゴール。』だった。

「えっ!名前しりとり!薫だから『る』!?るから名前が始まる人!」

薫が叫んだ。

「私の名前、瑠奈だよ。」

B組から3年生が出た。

「『な』…。『な』のつく人!」

薫が再び叫んだ。その頃実は、美術部の友達から猫耳カチューシャを借り、久遠を探していた。

「久遠先生!どこですか!」

「猫耳なんて、絶対やだ!」

久遠はA組生徒の間に必死に隠れたが、実が見つけた。

「久遠先生!お願いします!」

実がカチューシャを差し出した。

「やだよ!」

久遠は必死に抵抗した。

「なぎなた部顧問は久遠先生なんですから!お願いします!」

実も必死だった。

「先生!誰かゴールしちゃいます!」

「もーっ!」

久遠が顔を真っ赤にしながら、実からカチューシャを奪った。

『A組光城!久遠先生を説得したようだ!あの久遠先生が猫耳カチューシャをつけている!これは見物だ!久遠先生!意外と似合っていますよ~!』

「もーっ!」

久遠は必死で走った。

「わっ!」

実は久遠に思いっきり引っ張られた。その横には10人以上を引き連れた薫が走っていたが、すんなり抜かした。

『A組光城、ゴール!続いてB組白石もゴール!B組白石は名前しりとりで、薫、瑠奈、直樹、杏子、心愛、杏奈、菜々美、未来、樹、恭太郎、うい、郁未、美佳、薫。となった!途中の名前はいらないような気もするがゴール!次の組がスタートした!』

次は桃が出た。桃が久遠のところに走ってきた。

「久遠先生!一緒にきてください!」

「私!?」

「お願いします!」

久遠はもう一度走った。

『B組高橋ゴール!お題は『カッコいい人』だ!次の組がスタートした!』

次の組には愛美と沙耶が出ていた。愛美が久遠のところに走ってきた。

「また私!?」

「お願いします!」

久遠がまた走った。

『B組望月ゴール!また久遠先生だ!お題は『強い人』だ!』

「あんたら…、私のこと…どう思ってるの?」

久遠が息をきらせながら言った。


 お昼の後に部活対抗リレーが行われた。部活対抗リレーとは部活対抗のリレーで(そのまま)部活のユニフォームを着て、生徒4人と顧問の先生の計6人が走る。なぎなた部は桃以外の女子4人と久遠が走ることになっていた。薫がスタートラインに立った。

「薫ちゃん、相変わらずかわいいね。俺が勝ったら付き合ってくれよ。」

となりのレーンの陸上部の3年生の男子がウィンクしながら言った。

「お遊びですもの。楽しくやりましょう。」

薫が笑顔で言った。

「よーいっ。」

校長が言った。

「こいつ、絶対泣かす。」

薫が小声で言った。

「ドンッ!」

『第一走者がスタートしました!なんと暫定1位はなぎなた部白石!陸上部を差し置いて!あっ、なんでも白石は小学校でハードル全国5位だそうです。全国5位!?ほかの部活も意地を見せておりますが、1位は変わらない!バスケ部!バド部を抜かした!なぎなた部、早くも第二走者になぎなた(バトン)を渡した!続いて陸上部!バスケ部!バド部!続いて、打突を必死で打ち込み続けている剣道部!意外と速いぞ!石工像をバトンにしている美術部は重そうだ!合唱部!最後は『runner』を歩きながら演奏している吹奏楽部!』

「沙耶!面っ!」

薫が沙耶に振り返して面を打ち込み、なぎなたを渡した。

「はい!」

沙耶が全速力で走った。

『陸上部がなぎなた部を抜かした!剣道部!美術部に抜かされた!合唱部も剣道部を抜かした!頑張れ!剣道部!陸上部!第二走者速いぞ!第二走者がバトンを渡した!続いてなぎなた部!』

「すねっ!」

沙耶が愛美のすねを打った。

「愛美!ファイト!」

『さあ!なぎなた部!第三走者速いぞ!あっ、なんでも第三走者望月は小学校でハードル東北3位だそうです。東北3位!?』

実況も驚いた。

「愛美!ファイト!」

第四走者の実が叫んだ。

『東北3位の望月!陸上部を抜かし、差を広げる!』

「実!面っ!」

愛美が側面を打った。

『第四走者!バスケ部廣田ひろたが陸上部を抜かした!バスケ部廣田速いぞ!なぎなた部との差を狭めている!ここまでなぎなた部がずっと1位だ!なぜだ!走るプロの陸上部、常に走り込みをしているバスケ部を差し置いて!』

「すねっ!」

実が久遠に振り返してすねを打った。その間にバスケ部が追い付き、スタートはほぼ一緒になった。

「久遠先生!ファイトです!」

実が叫んだ。

『顧問の先生にバトンが渡った!おや!?陸上部顧問の本多ほんだ先生!遅い!なぎなた部顧問の久遠先生とバスケ部顧問の神那先生がいとも簡単に抜かした!久遠先生と神那先生の一騎討ちだ!2人とも異様に速い!普段は仲がいい2人だが、勝負となると女は怖い!どちらが勝つか!?』

久遠と酒井の差はほとんどなかった。ゴール直前に久遠が振り返しながら無構えに構える『八重違い』と言う技を打った。

「すねっ!」

『ゴール!なぎなた部とバスケ部!ほぼ同時です!どちらが勝ったか。写真判定です…。』

グラウンドが静まりかえった。

『結果は…、切っ先の差で優勝はなぎなた部だ!』

「やった!やった!」

実たちは跳び跳ねて喜んだ。


 その後、騎馬戦と綱引きを行い、最終競技になった。

『さあ、3年に1度の体育祭。これで最終競技です。チーム対抗リレーです。各クラスの男女1人ずつと担任の先生の計9人で走ります。今回の注目はB組の望月と白石。C組の廣田と佐藤。部活対抗リレーで見せた俊足を見せてくれるのか?でも、一番の問題がある!それは運動不足であろう担任の先生たちだ!その点ではA組が断突有利だ!体育教師の神那先生、久遠先生!それに校内で一番若い男性教師の浅田先生!各チームがスタートラインに立った!A組は29歳浅田博己あさだひろき先生!B組は先程の部活対抗リレーで陸上部の敗因となった本多武司ほんだたけし先生!C組は先程の部活対抗リレーでなぎなた部の白石を誘惑した3年の松本誠也まつもとせいやだ!』

「よーいっ!」

『パンッ!』

『さあスタートしました。浅田先生と松本が並んでいる!おっと!浅田先生と松本の差が開いてきた!第二走者にバトンが渡った!B組は望月に渡った!本多先生が作った差を望月がどんどん狭めて行く!望月がC組に追い付いた!第三走者にバトンが渡った!』

それからどんどんバトンが渡った。

『第八走者!A組は神那先生!B組は篠崎先生!C組は荒井先生だ!荒井先生は男の意地を見せたい!だが、28歳独身の酒井神那先生が差を広げる!既婚者で子持ちの篠崎先生と定年間近の荒井先生は太刀打ちできないのか!?最終走者にバトンがA、C、Bの順で渡った!A組は久遠先生!B組は2年の白石!C組は近藤先生だ!25歳独身の久遠葉瑠花先生速いぞ!相手が教え子である14歳の白石薫でも!38歳2人の子持ちの近藤大介先生でも!かまわない!おっと!近藤先生派手に転んだ!日頃の運動不足が祟ったぁ!白石が抜かした!もうA組の勝利は間違いない!久遠先生ゴール!A組の優勝です!』

「やった!」

A組の全員が跳び跳ねて喜んだ。全員で久遠と酒井を胴上げした。

「薫、お疲れさま。」

桃が薫を励ました。

「はぁ…、はぁ…。本多先生が…もぉ…少し…速ければ…良かったのに…。」


 新人戦まで1週間をきった。3日前に久遠が、新人戦の要項を持ってきた。演技のトーナメント表を見ると、実と薫は二中の叶子たちとは決勝まで当たらなかった。だが、桃と大雅はベスト8で当たることになっていた。愛美と沙耶はベスト4で実と薫に当たることになっていた。桃がトーナメント表を見ながら言った。

「私と大雅で叶子ちゃんたち、倒すから。ねっ!大雅!」

「は、はい。」

大雅が頼りなく答えた。団体は第2リーグで、二中Bと四中Bが一緒だった。個人戦は薫は決勝で叶子と当たることになっていた。実は1、2回戦目は1年生が相手だが、3回戦目は叶子と当たることになっていた。愛美は1、2回戦目とも2年生だった。沙耶は1回戦目は1年生で、2回戦目は薫だった。

「私たち、個人戦終わったね…。」

沙耶が力なく言った。

「勝てばいいでしょ。」

薫が言った。

「ねぇ、ねぇ、二中の1年の若林珠理って誰?」

「ショートカットのクリクリした子。」

桃が言った。部活終了後に久遠が団体のメンバーを発表した。

「先鋒、実、中堅、愛美、大将、薫。」

「はい。」

大会前日は鶴城中に行き、会場設営を行った。実たちには始めての会場設営だったため、薫と桃に一から教わった。会場設営後には鶴城中と一緒に打ち返しと試合稽古を行った。実はその日、緊張でほとんど眠れなかった。翌日は新人戦当日だった。

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