左腕のバッチ
初めての全国大会に緊張と不安を覚える実たち。未だに、全国のレベルを知らないが故の不安が押し寄せる。そんな中、久遠に体調の変化が。入賞者には左腕に入賞の証のバッチがつけられる。実たちはバッチを手に入れることができるのか?
鶴ヶ城体育館前の駐車場に1台のバスと多くの自家用車が止まっている。実は母が運転してきた車から降りて、ボストンバックを下ろした。母が実に言った。
「実、気をつけて行くのよ。」
実が精一杯の笑顔で答えた。
「分かった。行ってくるね。」
バスの前に学校ごとに一例に並んでいた。ジャージ姿の薫と桃と沙耶と優羽がすでに来て並んでいた。
「おはようございます。」
実は挨拶を済ませ、沙耶の後ろに並んだ。陽架璃と愛美と大雅も来て、新城中は全員そろった。山本先生の長い挨拶がやっと終わり、バスに乗り込んだ。大会には山本先生と久遠と小崎、二中、鶴城中なぎなた部の顧問の先生が同行する。新城中でバスの1番後ろとその前を独占した。バスでの移動は5時間半かかる。陽架璃はすぐに寝入った。
郡山を過ぎたところの無人のサービスエリアで止まった。
「あれ?もう止まるの?」
実が大会の要項を見ながら言った。このサービスエリアで止まる予定は書いていなかった。窓際の愛美が外を見た。
「あれ、久遠先生と大雅だ。」
外には青い顔をした久遠と大雅がいた。大雅は小学生の男子に気に入られ、前列に座っていた。2人とも今にでも吐きそうな顔をしている。ブロックの上に座り、うなだれてないた。
「2人とも車ダメなんですね。知らなかったです。」
優羽が言った。
「私らも始めて知った。」
薫と桃が言った。
「東北は平気でしたよね?」
沙耶が不思議がった。そのうち暇になり、みんなでしりとりをしたりした。
昼ごはんは佐野サービスエリアで食べた。新城中は自分のお弁当を持ってきていたため、バスの中で食べた。食べ終わってから桃が言った。
「アイス買いに行くんだけど、誰か一緒に行かない?」
「私、行きます。」
実が言った。
「アイス欲しい人は?」
桃が尋ねると、全員が手を挙げた。
「8個も持てないよ。大雅、優羽、一緒に来て。先輩命令。」
復活した大雅と優羽がしぶしぶ立ち上がった。バスを降りると信じられない程の暑さがおそった。立っているだけで汗だくになった。
「暑!!急ごう。」
アイスクリーム屋はワゴンで売りに来ていた。十数種類のアイスがあったので、桃が薫に電話をかけた。
「もしもし薫?アイスの種類がさ、大量にあるんだけど、えっ?薫はイチゴ?分かった。他の人にも聞いて。地域限定みたいなのはイチゴ。とちおとめの。えっ!?あー、うん、うん。あー、オッケー、全員イチゴね。うん。分かった。」
桃が電話をきった。
「実と大雅と優羽は?」
「私はイチゴで。」
「私も。」
「オレはチョコ。」
桃が注文した。
「イチゴ7個にチョコ1個ください。」
お金は桃が払った。先にイチゴが1個ずつ渡され、実が2個受け取り待っているとそれだけで溶け出した。あわてて桃が言った。
「実、先に戻ってていいよ。」
「はい。」
実は小走りでバスに戻った。薫と愛美にアイスを渡した。桃と大雅と優羽も戻ってきて、愛美と沙耶と陽架璃もアイスを受け取った。食べながら桃に350円を渡した。その光景を見ながら、久遠がまじまじと言った。
「あんたらよく食べるね。」
「唯一のとりえです。」
桃が言った。久遠は新城生を見て、さらに気持ち悪くなったらしく、自分の席に戻った。
バスが発車した。薫と沙耶と陽架璃は寝始めた。愛美と優羽と叶子はおしゃべりを始めた。桃は音楽を聞き始めた。
「桃先輩、何聞いてるんですか?」
実は桃に聞いた。
「さらば碧き日の面影。」
「何ですか?」
「聞く?」
桃が実に片方のイヤホンを差し出した。実がイヤホンを耳につけた。
『壊れそうな 僕の心 優しく 包み込んで 君は笑う まだまだ諦めるには 早いよと もう少し 頑張れるなら 胸張れる その日まで 瞼閉じてごらん 輝く君 きっと 見えるはず 踏みならせよ大地を 確かな夢抱いて あの空に掲げた想いは 今でもまだ それでもまだ その手に 残っていますか 情熱よ 舞い上がれ 今 絶望を希望と 変えるまで 黄金の誓 燃え尽きることなく 日々君は 終わりなき挑戦 RUN AND RUN... また 何度でも走り続ける』
「桃先輩、ありがとうございました。メジャーの主題歌ですよね?私も見てましたよ。良い歌ですよね。」
実が微笑んだ。
「でしょ。私、大会前日は暇があればずっと聞いてるの。」
「ずっと?」
実が聞き返した。
「そう。私も1度挫折したから、この歌、けっこう励みになるんだ。緊張した時は、この歌を思い出すようにしてるの。」
「桃先輩でも、緊張するんですか?」
実が驚いて聞き返した。桃が笑いながら言った。
「そりゃ、緊張するよ。小1のときなんて大変だったんだから。」
「何があったんですか?」
「始めての錬成大会で、私は薫と演技を組んだの。あの頃から、薫は天才って言われていたから、私すごく緊張していたの。それで、トイレに行きたくなっちゃって、行ったら、迷子になっちゃったの。どこを歩いても知ってる人はいないし、コートは多いし。私、泣き出しちゃった。そしたら、引率者だった日向先生が私を探しだしてくれた。私はまた泣いちゃった。すごく安心したんだと思う。日向先生が私を見つけてくれたのは私たちの演技のコートと正反対のところだった。」
「日向先生が見つけてくださって良かったですね。」
「本当にそう思うよ。」
桃が笑顔で言った。そして、またイヤホンをつけ、音楽を聞き始めた。
次第にスカイツリーが見えてきた。
「すごい!スカイツリーだ!」
バスの中から興奮した声が聞こえた。実はもうすぐだと思ったがそこから1時間近くかかって、日本武道館についた。バスから降りると、佐野サービスエリアよりも激しい暑さがおそった。2年生は始めてみる武道館の迫力に圧倒されたが、3年生は去年の参加者も多く、2年生程は興奮していなかった。2列に並び、武道館の中に入った。今日は少林寺拳法の錬成大会が行われていたため、道着を着た人が大勢にいた。廊下から会場に入るとすごく広い道場があった。実は24時間テレビを想像していたが全然違っており、雰囲気だけで圧倒された。中はクーラーが効いていた。山本先生が大声で言った。
「明日はここが待機場所です。鶴城中の渡邉先生にいてもらいます。これからバスに戻ってホテルに向かいます。」
「はい。」
愛美は沙耶に言った。
「また、あの暑さを戻るのは辛い。」
「仕方ないよ。」
沙耶がなだめた。そして、汗だくになりながらバスに戻った。
東京ドームシティの横を通ってホテルに向かった。ホテルは路地にあったので、バスは入れないため、路上でバスを降りてボストンバックとなぎなたを持って、神社の中を通ってホテル前の路に並んだ。
「では、まず、部屋に行って待機しててください。今後の大体の予定はまず、部屋に行って、演技の練習を15分ずつ3チームに別れてやり、夕食は6時からです。詳しい時間はこれから先生たちで話し合って決めて、電話で連絡します。」
「はい!」
部屋割りが発表され、実と愛美と沙耶は同じ部屋で、薫と桃は隣の部屋、その隣の部屋が陽架璃と優羽だった。先生たちは1階上の部屋だった。久遠と小崎が同室だった。大雅は小学生の男子と同室だった。全員が鍵を受け取り、部屋に行った。
部屋で荷ほどきを済ませると、実たちはトランプを始めた。部屋は2人部屋を無理矢理3人部屋にしたような部屋で、異常に狭かったため、ベッドの上でトランプをした。ババ抜きの最中に電話がなり、先にあがっていた沙耶がでた。
「もしもし。はい。はい。はい。分かりました。」
「なんだって?」
「4時30分からホテル前の路で15分間の練習を3チームにわかれてやって、私たちは3チーム目だから、5時10分には来いって。」
「分かった。ありがとう。あがり!」
愛美がトランプを出しながら言った。
「負けた…。」
実がババを見ながら言った。
「薫先輩と桃先輩の部屋でやろうよ。」
実たちは隣の薫と桃の部屋に行った。
「薫先輩、桃先輩。」
薫たちはテレビで『本当にあった怖い話』を見ていた。桃が薫の腕をがっちり掴んでいる。
「薫先輩?」
「しーっ!」
薫が口の前に人指し指をたてた。実たちも見ることにしたが、沙耶はさっきも行ったはずなのに、トイレに行ってしまった。5分後には終わった。
「怖かった…。」
「桃、腕痛いよ。って、いたの?」
薫が実たちに始めて気づいたような顔をした。
「先輩、トランプやりませんか?」
「いいよ。」
桃がトランプを受け取りきり始めた。
「全部で5人だよね?」
桃が聞いたとき、ドアがノックされ、優羽が入ってきた。
「先輩、私も入れてもらってもいいですか?」
「いいよ。陽架璃は?」
「部屋で寝てます。」
「早すぎない?」
「大会前日は10時間寝ないと集中できないって言ってました。」
トランプをしていると5時5分になった。
「そろそろ行くか。」
薫が言った。全員が立ち上がり部屋を出た。優羽は陽架璃を起こしに部屋に戻った。
なぎなたを持って外に出ると、会津とは比べ物にならない暑さだった。桃が実たちに言った。
「さっさと場所とらないと、なくなるよ。」
急いで場所をとった。実と陽架璃はホテル横の路地をとった。久遠と小崎と山本先生が汗だくで指導をしていた。実と陽架璃には山本先生がつきっきりだった。
「ここはこうですよ。」
山本先生が実にお手本を見せる。実がその通りにやると、これでもかと言うぐらいに、褒めちぎった。
「2人の息もぴったりで言うことなしですよ。」
山本先生はそう言い残し、優羽と大雅のところに行った。その後、練習を終え、地下のレストランに行った。水がすごくまずかったが、料理はそれなりに美味しかった。夕食後に実たちは1人ずつお風呂に入った。
「私、ユニットバス無理。」
実が髪を三編みにしながら言った。愛美も言った。
「私も無理。てか得意な人いる?」
薫と桃は叶子と那奈の部屋に行っていたため、実たちは優羽と陽架璃の部屋に行った。
「優羽?陽架璃?」
「あっ、先輩。先輩の部屋に行ってもいいですか?」
優羽が小声で尋ねた。
「ここはダメなの?」
「今、陽架璃が寝てるんで。」
「いいよ。私らの部屋に行こう。」
実たちは自分たちの部屋に戻り、テレビをつけ、お笑い番組を見ながら、またトランプを始めた。7並べの最中に恭佳、珠理、陽、明里、大雅がきた。10時をまわり、先生たちが巡回を始めたため、恭佳たちは急いで戻った。ドラマを見たら11時をまわっており、実たちは寝ることにした。
「明日は5時起きね。」
「沙耶、目覚ましセットして。」
「したよ。」
「ありがとう。明日、起こしてね。」
「私も。沙耶お願い。」
「分かった。おやすみ。」
「おやすみ。」
「おやすみ。明日、頑張ろうね。」
沙耶が電気を消し、実たちは寝入った。
「朝だよ!起きて!」
沙耶の声がした。
「おはよう。」
沙耶がカーテンを開けながら言った。沙耶は朝なのに元気だった。
「さっさと立って。横になるとまた寝ちゃうから!」
「はい。はい。」
実と愛美はあくびをしながら伸びをした。身支度を整え、朝練に行った。
「おはようございます。」
薫と桃に挨拶をした。薫は眉間にシワを寄せ、すごく機嫌が悪そうだった。桃が小声で言った。
「薫、朝は苦手なの。」
陽架璃も機嫌が悪そうだった。
「演技を2回通したら、地下のレストランに行ってください。」
小崎が言った。
「返事!」
久遠が言った。2人とも、朝っぱらなのに元気だった。
「はい!」
各自、演技を通し、朝食に行った。朝食後に荷物をまとめ、袴に着替えた。ホテルの人に挨拶をし、バスに乗り込んだ。乗り込む前に神社でお詣りをした。バスの中で各自にたすきが配られ、袴の下のジャージのポケットに入れた。昨日と同じ場所にバスが停車して、リュックを背負ってバスをおり、なぎなたと防具を持って、武道館に向かって歩いた。
1000人以上の人が武道館に入るために行列を作っていた。行列に並んでいる間に汗だくになった。やっと中に入ると、汗がひいていった。会津は昨日と同じ場所に荷物を持っていき、大会のプログラムが配られた。実は演技は中学生Cの部で個人戦は中学2年Aの部だった。スニーカーからクロックスやビーチサンダルに履き替え、開会式のために下の階に行った。今までどこにいたのかと言うぐらいの人がいた。会津なぎなたスポーツ少年団は身長順に3列に並んだ。いきなり、大太鼓の音が響いた。2年生たちは少し驚いた。大太鼓の音がもう一度なり、会場の明かりが一斉についた。会場中から歓声が上がった。オープン参加で出場人数が多いため、入場が開始し、終わるまでけっこうな時間がかかった。国歌斉唱の時に国旗を見たが、真上にあったため、ただの線にしか見えなかった。選手宣誓は薫が行った。
「すごい。薫先輩だ。」
「前年度の中学2年の部の優勝者がやるんだね。」
「宣誓!私たち選手一同は日頃の稽古の成果を発揮し、己を信じ、指導してくだった先生を信じ、苦楽を共にした仲間を信じ、感謝の想いを胸に正々堂々競技することを誓います!」
開会式終了後はラジオ体操をやり、競技に入った。
実は緊張で手汗がすごかったので、ベビーパウダーを手につけたが、汗でポソポソになってしまった。陽架璃は実の腰に赤のたすきをしめた。
「陽架璃、みんな強そうだね。」
実がそわそわしながら、陽架璃に言った。
「先輩、落ち着いてください。終わったので、私のもお願いします。」
陽架璃が実に言った。相手は山形の1年生だった。実は声が震え、汗で滑ったが5対0で勝った。2回戦目は神奈川の2年生だった。1回戦目ほどは緊張しなかったが、少し声が震えた。だが、5対0で勝った。たすきを白につけかえた。3回戦目は山形の2年生の宮本那知、花山佳奈子のペアでこれも5対0で勝った。実と陽架璃はベスト4をきめた。
「陽架璃、マジで私たち、ベスト4!?」
「マジです。」
陽架璃は慣れたものだった。たすきを白にいそいでつけかえた。準決勝は山形の3年生の古市陽菜と松原笑美花だった。相手が3年生だったため、陽架璃の目付きがガラリとかわった。実も、準決勝まできたら、慣れてきた。
「赤、古市チーム。」
「はい!」
「白、光城チーム。」
「はい!」
演技は失敗なく、終わった。主審が笛を鳴らした。白の旗が全てあがった。準決勝をもう1試合やっている間に赤のたすきに、つけかえなければならなかった。久遠と山本先生が応援にきていたため、2人にたすきを締めてもらった。実は久遠に頼んだ。締めながら、実が久遠に尋ねた。
「反省、お願いします。」
「持ち替えが正面を向いている。あと、声と打突がずれているから、声を早めに。」
「はい!ありがとうございました。」
決勝の相手は和歌山の3年生だった。
「赤、光城チーム。」
「はい!」
「白、新島チーム。」
「はい!」
実は、久藤に言われたことに注意しながら丁寧に打突を打った。相手の方が退場が1分以上早かったがそんなことは気にしなかった。主審が笛を鳴らした。赤の旗が1本、白の旗が4本あがった。実と陽架璃は優勝をきめた。
「やった!陽架璃、やったね!」
実は陽架璃に抱きつき、嬉し泣きした。
「ありがとうございました。」
相手の3年生が挨拶にきた。2人とも泣いていた。
「ありがとうございました。」
実と陽架璃も言った。係員が左腕にピンクのバッチをつけた。1位である優秀賞はピンク、2位である優良賞はみどり、3位である敢闘賞は黄色になっている。久遠と山本先生のところに行くと、実はまた泣いてしまった。
「なに泣いてるの?」
久遠が笑いながら言った。
「お疲れさま。」
久遠が実と陽架璃の頭をクシャクシャ撫でた。
「ありがとうございます…。」
実は泣きながら言った。
会場を出て、会津がたまっている場所である裏に行くと珠理と恭佳と愛美と沙耶、叶子と那奈がいた。珠理と恭佳は3回戦目で2対3で負けてしまったらしい。愛美と沙耶は準決勝で2対3で負けて、3位だった。左腕に黄色のバッチをつけている。叶子と那奈は緑のバッチをつけていた。決勝で山形鵬名中の3年の白岩桃子と遠山紫乃に2対3で惜敗したらしい。8人で上の観客席に戻った。
お昼ご飯が配られた。セブンイレブンのからあげ棒とお握りが2つと十六茶がビニール袋に入っていた。実はからあげをかじりながら、プログラムを見ていると、薫と桃の声が聞こえた。最初に小学生の演技をやっていたため、実たちより開始時刻が遅かった。薫と桃は5対0で勝った。
「やっぱり、薫先輩と桃先輩は強いね。」
沙耶が言った。
「そうだね。誰か、梅とツナマヨ交換してくれない?」
愛美が言った。
「あっちで大雅と優羽がやってる。って、なんかおかしいんですけど…。」
実が奥のコートを指差しながら言った。
「何が?」
沙耶が尋ねた。
「大雅と優羽、練習の時としかけ応じ逆じゃない?」
沙耶も愛美も見た。
「本当だ。練習じゃ、大雅が応じで優羽がしかけだったけど…今は違ってる。」
「これ見て!」
愛美がプログラムを見せた。Gリーグのリーグ表には大雅と優羽のしかけ応じが逆に書いてあった。
「エントリーミスかな。」
叶子が、背後から、コロッケをかじりながら言った。
「えっ!?」
「たまにあるの。しかけと応じを逆に書いちゃったり。かわいそうに。」
「てか、叶子先輩、からあげ棒じゃないんですか?」
愛美が尋ねた。
「だって、私の家、寺だもん。」
「えっ!?お寺だったんですか!?」
「うん。だから、肉とか魚は食べないんだ。」
「じゃあ、先輩、将来は尼さんになるんですか?」
実が尋ねた。叶子が笑いながら首を横に振った。
「うち、尼寺じゃないし、一番上の兄が今、京都の寺で修行してるから。私は継がない。」
大雅と優羽は3対2で勝った。
「大丈夫かな?」
「大丈夫でしょ。あの2人なら。大雅は意外と、度胸据わってるし、優羽はベテランだし。ちょっとだけ、あっちの方に行かない?」
実たちはGリーグのコートの方に行った。Gリーグのコートでは、大雅と優羽の演技が始まっていた。2人ともぎこちなかったが3対2で勝った。実たちは観客席から、大雅と優羽に話しかけた。
「大丈夫?」
「大丈夫じゃないです!」
優羽は今にでも泣き出しそうだった。
「落ち着いて!がんばって!」
「分かってますよ!」
実たちは大雅と優羽を励まし、自分達の待機場所に戻った。恭佳と珠理が防具袋を背負っていた。
「もう時間?」
「そうだよ。行こう。」
「う、うん。」
実たちも急いで準備をして、下の階に行った。
防具袋から防具を出し、つけ始めた。すねあてをつけ終わると大雅と優羽、美緒と波奈が戻ってきた。優羽は手で顔を覆いながら号泣していた。美緒と波奈が優羽を慰めていた。
「優羽ちゃん、よく頑張ったよ。ここまで、いけたのは本当の実力だよ。」
優羽はそれでも泣き続けた。実が大雅におそるおそるきいた。
「どうだったの?」
「2対3で負けた。」
大雅はそう言いながら左腕を出した。黄色のバッチをつけていた。
「3位!?敢闘賞!?よかったね。」
話していると薫と桃が戻ってきた。
「薫先輩!桃先輩!どうでしたか?」
「5対0。」
桃は言いながら、左腕を見せた。ピンクのバッチがついている。
「おめでとうございます。」
「ありがとう。そっちは?」
「5対0でした。」
実も左腕を見せた。
「よかったね。愛美と沙耶は?」
「3対2でした。」
愛美と沙耶も左腕を見せた。
「敢闘賞か、惜しかったね。でも、新城は全員入賞だね。」
桃が言った。
「美緒ちゃんたちは?」
「3対2。」
美緒も左腕を見せた。黄色のバッチがついている。久遠と小崎が戻ってきた。
「なにしてるの?早く準備しな。」
「は、はい!」
実たち2年生はいそいで面をつけた。桃はプログラムを見ながらたすきをつけ始め、3年生と1年生と大雅は観客席に戻った。