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なぎがーる!!~中学生になった今日、青春はじめます~  作者: NARUMl
SECOND YEAR~We chase a dream with 11 person~
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天才と凡人

 北国の代表者戦での敗北を未だに引きずっている実。そんな中、クラス担任との個人面談が行われる。実は酒井に悩みを相談すると、酒井の口から以外な一言が。

 久遠の結婚式とゴールデンウィークが終わった。実たちが久しぶりに学校に行った。

「愛美。久しぶり。」

「実!」

「ディズニーランド楽しかった?」

実が尋ねた。

「うん。人いっぱいだった。」

2人は階段を上った。

「あっ、久遠先生。おはようございます。」

実が久遠に挨拶した。

「あっ、おはよう。」

久遠が松葉づえをつきながら、実と愛美の横を通った。

「ってっ!久遠!どうされたんですか!?」

実と愛美が驚いて振り返った。

「ちょっと左足の具合が悪くてね。」

久遠が言った。結婚式の日の無理な試合のせいで久遠の足は3週間は絶対安静だった。

「先生、そんな足で都道府県対抗大丈夫ですか?」

格技場で薫が尋ねた。都道府県対抗とは5月終りに催される都道府県対抗のなぎなたの大会のことである。

「意地でも治すよ。」

久遠が言った。


 新城中は、6月初めにある中体連に向けての練習を始めた。中体連に向けた練習と言っても、前の練習とはさほど変わらなかった。麻衣は桃からの1対1の指導のおかげで、格段に上手くなっていた。絶対安静を守り抜いた久遠は3週間後には、運動をしても大丈夫な状態になった。中体連の2週間前に全国大会の出場選手が発表された。山口県の下関市で行われるJOCジュニアオリンピックカップ全国中学校なぎなた大会には団体で薫と陽架璃、演技で桃が出場することに決まり、全日本少年少女武道なぎなた錬成大会には東北に出場した選手は全員が参加できることになった。

「4月にした部活目標覚えてる?」

久遠が尋ねた。

「『全部門優勝』。」

全員が言った。

「覚えてるんだったら大丈夫だね。目標は越えるためにあるの。分かった?」

「はい!」

「ヤバーイっ。」

実たちが小声で言った。5月の半ばから二者面談が始まったため、久遠はあまり指導にこれなかった。だが、面談のために授業が短くなり、練習時間は増えた。


 面談は出席番号ごとに行われる。実は2日目の4番目だったため、途中で部活を抜けることになった。演技の練習が終わったころは20分前だった。時間が中途半端だったため、実は防具をつけ、打ち返しを1回だけ行い、面と小手だけを外して、教室に行った。教室前の多目的スペースで待った。前の生徒が教室から出てきたため、実は教室に入った。


 「失礼します。」

「あっ、実。こっちに座って。」

酒井が教卓の横に置かれた椅子に実を促した。実が座った。

「防具似合ってるね。」

酒井が言った。

「ありがとうございます。」

実が少し照れた。酒井が事前アンケートの用紙を見ながら話し始めた。

「えっと、起床、就寝時刻、勉強時間は問題なし。得意科目は?」

「一応、理科です。」

実は桃に理科を教えてもらったおかげで理科が得意になった。

「理科っと。苦手科目は?」

酒井がメモをしながら言った。

「う~ん、社会ですかね。」

「社会っと。今熱中してることは?」

酒井が尋ねた。

「部活…ですかね。」

「部活ね。そう言えば、東北3位おめでとう。」

酒井が言った。

「ありがとうございます。」

「今、学校生活で困っていることはある?」

「……。部活…。」

実がボソッと言った。

「ん?」

酒井が聞き返した。

「この間の東北で、私、団体の三位決定戦で代表戦に出たんです。」

実が話し始めた。

「へぇ。」

「それで、負けちゃったんです。」

「…残念だったね。」

「私が、薫先輩みたいに天才だったら勝てたのかもしれないんですけど。」

「…。ちょっと話し長くなるけどいい?」

酒井が時計を見ながら尋ねた。

「何ですか?」

実も尋ねた。

「うちの元なぎなた部で今、鈴川学園高校の2年の吉沢涼夏と鈴木奈帆って知ってる?」

「はい。一応、話したことあります。」

実は去年の会津総体を思いだしながら言った。

「あの子たち、2人だけでなぎなたやってたの。」

「えっ?」

「あの頃の顧問の先生はなぎなたの経験がなかったから、毎日、練習は連盟に行っていた。あんなに遠い所に、本当に頑張ってた。大会ではそれなりの成績だせてたし。でも、あの子たちが2年の時に誰もなぎなた部に入部して来なかった。でも、古瀬先生が赴任された。あたし、はっきり言って古瀬先生のこと、全然期待してなかった。だって、あんなに若いのにいきなりなぎなた部の顧問になったうえに、なぎなた経験があるのかも分からなかったから。あの子たちが可哀想だとも思ってた。でも、違った。古瀬先生が来て新城中なぎなた部が変わった。」

「変わった?」

「あの子たち中体連でいきなり、団体と演技で2位になった。それ以降の大会でも上位入賞とか優勝は普通になった。全国大会でも入賞したし。それであの子たちが3年の時に薫が入部して来た。はっきり言って可愛げがない子だった。でも、実力はピカ1だった。大会では涼夏と奈帆とは一度も当たらなかったらしいけど、あの子たちは自分たちが薫より劣っているってわかってたらしいから、少しでも追いつこうと頑張ってた。よく言っていたものよ。『先輩の私たちが薫の足を引っ張るわけにいかない。』って。あの子たちだって凄く苦労したの。もちろん、実も苦労して来たと思う。でも、まだ初めて1年でしょ。この世に天才はいない。努力すれば誰だって天才になれる。」

酒井が微笑んだ。

「意味わかんないね。ごめん。」

「いえ。ありがとうございます。私、中体連、勝ちます!」

実が笑顔で言った。

「中体連の結果。楽しみにしてるから。」

「はい!あっ!神那先生!」

「何?」

酒井が聞き返した。

「私、全国大会の出場決まりました。」

実が嬉しそうに言った。

「そう。良かったね。頑張ってね。」

「はい!」

実は教室を出て格技場に戻った。地稽古にちょうど入るところだった。実は急いで防具をつけて、地稽古に参加した。


 酒井と話してから、実は気が楽になり、稽古に打ち込めた。試合稽古を優羽とやった。

「すね!面!」

優羽が面を応じた瞬間、顔をしかめ動きが止まった。

「優羽!大丈夫?」

実が試合を中断して優羽に言った。優羽は腰に手を当てていた。

「大丈夫です…。」

優羽は再び、何事もなかったかのように中段に構えた。

「そう…。面!」

実は容赦なく打突を打ったが、優羽は自分からあまり攻めてこなかった。

「優羽、大丈夫?」

防具を干しながら実が尋ねた。

「腰?」

「大丈夫ですよ。ご心配おかけしました。」

優羽は笑顔で言った。

「そう?」

実はしぶしぶ了承した。


 演技の練習は久遠が指命した人と組んで、しかけ応じの両方を行った。

「薫と実。桃と愛美。沙耶と優羽。陽架璃と大雅。」

久遠が手帳を見ながら言った。

「はい!」

実は薫と演技を久しぶりに行ったが、陽架璃と行うほど息が合わないことに気づいた。

「薫と桃。愛美と陽架璃。実と沙耶。優羽と麻衣。」

「はい!」

実は久しぶりに沙耶と組んだが、互いの様子を伺うような演技で出来はひどかった。愛美と陽架璃の演技は互いに自己主張が激しい感じの演技で、息は合っていなかった。

「薫と桃はそのまま。陽架璃と優羽。実と愛美。沙耶と麻衣。」

「はい!」

今回の組み合わせは身長できめたようだった。身長差がない方が演技は綺麗に見える。だが、実と愛美はそこまで息が合わなかった。

「えっと…。実と陽架璃。愛美と沙耶。優羽と麻衣。」

「はい!」

やはり、この組み合わせが一番しっくりきた。だが、時計はすでに6時半を過ぎていた。

「やめ!集合!」

「はい!」

久遠の周りに全員が集まった。


 「じゃあ、中体連の団体戦と演技のメンバーを発表する。まず、演技から。しかけ桃、応じ薫。しかけ陽架璃、応じ実。しかけ愛美、応じ沙耶。しかけ麻衣、応じ優羽。」

「はい!」

大雅の名前が呼ばれなかった。

「団体戦、Aチーム中堅、陽架璃、大将、薫。Bチーム先鋒、愛美、中堅、実、大将、沙耶。」

「はい!」

優羽の名前が呼ばれなかった。優羽が恐る恐る聞いた。

「先生、私は、なんで…?」

「優羽、腰痛めてるんでしょ。無理はしないほうがいい。個人戦は一応出場にしておくけど、無理はしなくていいから。」

「…はい。」

優羽が悔しげに言った。実は今日の試合稽古を思い出した。

「この団体戦の組み合わせは勝てるようにチームわけした。上位をすべて新城で独占しなさい。」

「はい!」

全員が解散しかけた。

「大雅!優羽!麻衣!ちょっと。」

久遠が大雅と優羽と麻衣を呼び止めた。

「演技には実際は大雅と優羽を組ませた方がいい。連盟の先生方の意見もそうだった。でも、麻衣には『経験』が必要なの。だから、今回は優羽と麻衣が組むことにした。大雅。」

「はい。」

「会津総体以降では優羽と組むことになるから、ちゃんとしかけの練習しな。」

「はい!」

「優羽。」

「はい。」

優羽が返事をした。

「麻衣に演技をしっかり指導して。」

「はい!」

「麻衣。」

「はい。」

麻衣が返事をした。

「正直言って、大雅より、麻衣の方が上手いわけじゃない。中体連ではたくさんのことを勉強してきな。会津総体では、他中の1年と組んでBの部にでることになるから。」

「はい!」

「着替えていいよ。」

「はい!ありがとうございました!」

「これからよろしくねぇ。」

「うん…。」

プレッシャーに押し潰されそうな優羽を差し置いて、麻衣は気軽そうに声をかけた。



 中体連まで1週間をきった。久遠が3日前に中体連の要項を持ってきた。団体Aチームは第一リーグで三中Bと四中Aと一緒だった。団体Bチームは第二リーグで鶴城中Bと葵ヶ崎Aと一緒だった。

「団体、勝ち上がってもAチームとだよね…。」

「本気だすから。」

薫が言った。冗談ではなく、目が本気だった。

「お手柔らかに。」

演技は勝ち上がれば、薫と桃は準々決勝で優羽と麻衣に当たり、準決勝で愛美と沙耶に当たることになっている。愛美と沙耶は準々決勝で鶴城中の美緒と波奈に当たることになっている。実と陽架璃は準決勝で二中の叶子と那奈に当たることになっている。個人戦は実はベスト16で美緒と当たり、愛美はベスト16で那奈と当たり、大雅はベスト16で薫と当たり、沙耶は沙耶は準々決勝で叶子と当たることになっている。実たちが驚きだったのは、準々決勝で那奈vs美緒が見られるかもしれないということだった。

「那奈先輩と美緒先輩が戦うのって始めてだよね。」

愛美が言った。

「たしかに。」


 中体連前日には鶴城中に行って、会場設営をやった。麻衣や鶴城中の1年生に一から教えるのは大変だった。鶴城中には2年生がいなかったため、実たち2年生が全て教えた。会場設営終了後に新城中と鶴城中で一緒に打ち返しと試合稽古を行い、各自帰った。



 「薫。」

解散後、久遠が薫を呼び出した。

「何でしょうか?」

「あなた、個人戦で優勝してどうするの?」

「どうするの?ってどういうことですか?明日の中体連でですか?」

薫が少し驚いた。

「はっきり言って、今の薫の力ならJOC3連覇もできると思う。でも、薫は3連覇して何をしたいの?はっきり言って、そこまで3連覇したいの?」

「負けたくはありませんが、別に3連覇にこだわってはいません。」

「人は100%の力で頑張るには明確な高い目標が必要なものよ。しかも、それを有言実行することで、今後の人生の励みにもなる。」

「要するに、私が本気で目指せる別の目標を立てろってことですか?」

「まぁね。」

「…。」

薫がしばらく黙った。

「…。今年のJOCでは、全部門で優勝します。それと…。私が卒業した後の後がまって言うのもおかしいですけど、来年、全国優勝を狙える後輩を育てます。」

「本気?」

久遠が含み笑いで応えた。

「はい。最強の福島黄金期を作り上げます。」


 新城中の2年生は途中まで、4人一緒に帰った。

「明日は、中体連だね。運動会的な興奮。」

「そうだね。じゃあね。」

「バイバイ。」

沙耶は家の方向が違うため、別れた。しばらく歩いて、大通りに差し掛かった。

「じゃあ。明日、頑張ろうね。」

「また明日。」

実と別れ、愛美と大雅は自転車をおしながら歩いた。

「大雅は始めての中体連だよね。」

愛美が大雅に言った。

「たしかにそうだな。」

「大雅は、薫先輩に告ろうとか思わないの?」

「な、な、なんだよ。い、い、いきな、なり。」

大雅はうろたえながら言った。

「そこまでうろたえなくても。で、どうなの?」

「中体連の個人戦で薫先輩にあたって、1本とれたら、告白する。」

「えっ!?あんた、バカじゃないの!?全国一の薫先輩から1本とるなんて、無理に決まってんじゃん。」

「分かってるけど、それぐらい自分を追い込まないと、勝てない気がして。現に北国では1勝もできなかったし。」

「まっ、頑張ればぁ。」

愛美は自転車にまたがった。

「じゃあ。せいぜい秒殺されないようにね。」

愛美は自転車をこぎだした。

「また明日な!愛美!」

大雅が自転車にまたがりながら言った。愛美は背中越しに手を振った。

酒井は想像以上にポエミーなことを言ってしまったことで、実が出ていってから、顔を真っ赤にし、項垂れていた。

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