PROLOGUE
1年前…
福島県会津若松市立鶴城小学校6年光城実と原田さいかは部活帰りに通学路である国道を歩いていた。遊歩道の点字ブロックの上を歩く光城実は吹奏楽部でトランペットの担当でパートリーダーもつとめており、周囲からの信頼も厚い。とても可愛らしい顔つきで、セミロングの髪は生まれつきの天然パーマでウェーブがかかっている。赤いタイルの上を跳ねるように歩いている原田さいかは吹奏楽部でホルン担当であり、部長もつとめている。長身でショートカットのクルンとカールした巻き毛がトレードマークであり、コンプレックスでもある。
「実はさぁ、やっぱり中学でも吹部?」
さいかの突然の質問に実も戸惑いがちに答えた。
「えぇー。まだ分かんな…。」
言いかけたときに実の肩が誰かとぶつかり、実はドサッとしりもちをついた。
「実!大丈夫?」
「いったぁ~。」
実が肘を擦った。転んだ拍子にポールの割れた鋭利な部分にかすってしまい、血が出ていた。
「あっ!ごめん。大丈夫?血…?ちょっと待ってね。」
ぶつかった少女がリュックの中身を急いで歩道に広げ始めた。少女はポニーテールのとても綺麗な顔だちをしていた。実たちと年はかわらなそうだが、とても大人びた雰囲気だった。全体が紺色で襟が赤いジャージ姿で、赤で蝶や桜があしらわれた袋にやけに長い棒と重そうな紺色のナップサックみたいなものを背負っていた。
「ごめん、絆創膏きらしてて、これしかないんだ。」
少女がピンク地に赤の桜柄の手拭いを渡した。
「カオル!早くっ!連盟の練習、始まっちゃうよ!」
「急げー!」
十数メートル先を歩いていた同じジャージを着た2人が叫んだ。少女は急いでリュックの中身を元に戻した。
「はーい!ぶつかってごめんね。」
「あの!このハンカチは?」
「手拭い?あげる、ぶつかっちゃったお詫び!」
カオルと呼ばれた少女は小走りで行ってしまった。
「綺麗な人だったね。」
「うん。あれ?名前書いてある。『KAORU』。あの人、カオルさんって言うんだぁー。」
これが実と薫の最初の出会いだった。