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salut  作者: 海猫
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prologue

 僕は僕であり、それ以外の何者でもない。


このような冒頭から始まる物語も早々存在しないだろう。何故なら物語が作成される際には、設定であったり、元となる建築物であったりするものが存在するものだからである。



 仮に答えの存在しない世界が、問が、世の中に溢れていて、収容能力をはみ出す程になっていたのだとしたら、もう手に負えず、救いすら存在しない。


 そして、元々設定された小説や漫画の世界であれば、依然として設定が存在して、結局は登場キャラクターの存在意義が明確に、簡潔にある。


 では、ここで一つ問おう。


「僕は誰ですか。」


僕という言葉と、敬語が混じり合うのは文法上どうかとも思うが、最早言ってしまったら仕方がない。同時に、設定された物語であれば、このような質問が生じるはずもない。いや、生じてはならないのだ。

 

 物語が物語であるためには。

 

 いや、妙な問はやめよう。

 現在、焦点を合わせるべきなのは、僕が陥っている状況である。


「ここはどこだ…?」

 これである。


 僕は寝ていた身体を静かに起こすと、手のひらに芝ほどの長さの種々が触れる。草のしなり具合や湿り気から、夏の終わりから秋の初めにかけての季節であることが推測できよう。しかし、辺りを見回すと、想像を絶する景色が広がっていた。


 広大な芝上の大地に北遠方には、山脈が存在し、南側には湖か海かも理解できない水溜り。空には数多の星が瞬き、俺自身が生活していた日本から目視が可能だった星座は存在しない。


 いや、そもそも、日本の各地を探索しても何をしたとしても、このような景色が存在する筈もない。


 目覚めたらこの場にいた。その言葉が何よりも相応しいだろう。


目覚めてから数刻、目視できる変化が無く順調に暗順応が働いているあたり、身体的変化が何一つ存在しないことが分かる。しかし、目視できる景色が変わらないが故に今が夜を迎えたばかりか、朝を迎えるまでにはまだ大分かかるであろうことが推測された。


僕自身、家族と共に旅行に出かけた記憶はないし、何より、昨日自室で、いつもより早く就寝した覚えがある。


いや、しかし、覚えという言葉にはいくつかの意味が存在する。


それは、習得、理解、感覚、技術に対する自身、上の人からの寵愛、信任、声望などが存在する。


だが、今の僕には上記した内容に含まれられない一つの覚えが欠如していた。


それは『記憶に残っている事柄』である。


「僕は誰だ。」

 

 ここで、文字通りとはいかないが冒頭の台詞に戻るのである。


 文法云々で冒頭の台詞が幾分丁寧語になっているのは、ただの見栄張りでしかなく、特に理由は存在しないので、そこに対する着目は意図して避ける。


 記憶の欠如がある。いや、この場合欠落と言ったほうが正しいのかもしれない。


 気持ちが悪いのだ。確かに、記憶が完全に欠如しているのならば、何も思い出せなかったり、親しかった人物に対する申し訳無さであったり、将来に対する恐怖であったりが存在するだろう。


 しかし、僕の場合は違うのである。


 僕に関する記憶が残っていない。いや、正確に言うのであれば、僕の記憶の僕に関する情報が欠如、欠落しているのだ。


 初恋の相手、親友、家族等僕に纏わるもの、正確には僕自身の成分を含まない個体、建築物、無機物、有機物の記憶は存在する。


 強いて表すのであれば、記憶喪失をした友人が僕に関する記憶を呼び戻そうとした結果、僕だけが映らない記憶がそのまま流れ込んでくるような感じである。 


つまり、元からそこに存在しないのではなく、何かがそこにあったが、そこに何が入るのかが分からない。そのような感覚である。


 短的に表そうとして、長くなってしまうあたり僕の知能不足が伺えるのだけれど、記憶の欠如、しかも自分に対する全ての記憶を失った状況でよく説明したものだと、今回ばかりは許して欲しい。


「悩んでいても仕方ないか、とりあえずは安心して眠れるような場所を探そう。」


 記憶の欠如があったとしても、僕が僕であることは確定しているし、間違いない。


 そして何より、知らない土地に来て、その場所が安全である確証があるはずもない。


 僕はおもむろにもう一度周りを見渡した。だが、目視できる距離に存在するのは湖と山脈のみである。


 しかし、湖へと流水する川は、山脈の方面から来ているようだった。


「水も、寝床も必要だよね。」


 実際に冒険や探検をしたことがない僕が現状で思い浮かべることが出来るのは、これくらいであった。しかし実際にそんな場所がある可能性は極めて少ないだろうが、僕は手に付着した草屑を払うと、山脈側の川沿いを目指して歩きだした。




 どれだけの時間を歩行に費やしたのだろうか。


 川に到着した頃には、日がわずかに東側から上がってきていた。先程までオリオン座が存在していないがために、方角に関する確実性はなかったが、偶々持ち合わせていた方位磁石が太陽の方向を指し示していたのだから、地球と同じように自転、もしくは公転をしているのだろう。


 だが、空気が存在し、気温自体が日本の気候に近い状態が保たれている惑星が、地球と同距離程度に存在しているのであれば、知らないはずはない。


 つまり、あの太陽のごとく輝いているものが、太陽であるという確証はないのである。


「それにしても、何だろうね、これらは。」


 太陽から首を南の方向に向ける。その方向には山脈が広がっていた。しかし、その山脈は近くで見ると、僕がよく知っている青々としたものではなかった。


 「ワインレッド?」


 別に紅葉が茂っているわけではなく、太陽の光を反射しているわけでもない。そして、その色から想像してしまうような暑さも存在しない。


 不気味な山脈である。木の根から根幹を通り、草まで、全てが真っ赤に染まっている時点で僕の記憶にあるものではない。しかし、今求めている安全かつ、水のある環境はこの森の中にこそ存在しているのかもしれない。現に暗かった時に追いかけた川は山の中に伸びている。


 「入るしかないか。」


 他の選択肢が存在するわけでも無いのだし、僕は恐る恐る山脈に踏み込もうとした。


 『………………….ならん。』

 「え?」


 踏み込もうとした瞬間だった。

 何かが僕に話しかけて来たきがした。しかし、気がしたという表現はあまりに曖昧であって、現実味がなかった。


 『………….ヒト成らざる者よ…..ナニヲ求め、ナニヲ収めるのだ……貴殿が持つソレハ人のソレではナイ…..。』


 今度ははっきりと声が聞こえてきた。幻覚の類でもないことは自身の耳が証明している。


 「僕に話しかけるのは誰…?何が目的?」


 全方位から話しかけられているような、厳かな声に僕は反応した。


 記憶もなく、放浪させられ、得体のしれないものに話しかけられる現状は明らかに普通ではない。もしかすると前世の僕が余程悪い奴で、地獄にでも送り込まれたのかもしれない。


 しかし今の僕がいるこの場所が地獄だったとしても、失うものはなにもないのだ。

 そう思って何気なく太陽の方を向くと、声の持ち主が悠然と存在していた。


 『……モクテキ?…..そんなモノは存在セン…..そうか、貴殿は…….面白い…..面白い……久方の僥倖トイウワケカ…..』


 そこに存在していたもの。いや、飛翔し、浮いていたのは、僕の記憶が正しく、そして、鮮明であるのであれば、一目でその名前が浮かんだ。


 太陽を背景にしているにも関わらず、それに勝る色を放つ鱗。異様な硬度を所持していることが理解できる、刺のついた長い尻尾。巨体を悠然と浮游させる厳格たる翼。機敏な動きを可能にする鋭く逞しい腕。全てのものを挽肉に変換できるような巨大な足。全てを掌握し睨み殺す鋭い眼光。鋼を豆腐同様に裂く一角。


それは、暴力的にまで赤く、朱く、赫く、そして…紅かった。


伝説の生物…ドラゴン。


それが、悠然と僕に目を向け、浮いていた。


見切り発車です。更新は不定期ですが、見ていただけたら有難いです。誤字脱字などありましたら、教えて下さい。皆様のコメントや励ましが、僕の更新力につながります。笑

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