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第8話 体力を付けよう!

 魔力カンテラの実験も無事成功に終わり、後片付けを終えると三人は魔術学園を後にした。

 職人通りの途中で、ティルと別れるとイクミが実験の感想を漏らす。


「リオ君もティル君も凄いです。 違う世界から来た私でも頑張れば、あんなことが出来るようになるのでしょうか……」


 リオはイクミを見ると質問を返した。


「イクミさ……イクミも魔法や魔術、錬金術に興味があるんですか?」

「はい。 私の世界では魔法や錬金術というのは、お伽噺(おとぎばなし)に出てくるだけで、実際に使用することは出来ません。 小さな頃からそういうお話を見ては『魔法が使えたらなぁ』とよく考えた物です」


 それを聞いたリオは、少し納得したように頷くと自分の考えを話しだした。


「そうですか。 イクミの世界では魔法が無いんですね……だから私達の世界には無いような、進んだ発明が多くあるのですね。 今朝話して頂いた時計の話のように」

「そうかもしれません。 ”こちらの世界”も基本的な法則は”私の世界”と大きな違いがあるようには感じませんでしたし、違いがあるとすれば”私の世界”には存在しない個人が魔力を所持しているということでしょうか」

「僕達の世界でも個人で魔力を所持していない為に、魔術が使えない人はいます。 でも、そういう方は魔法を覚えれば良いだけですし……行使の仕方を知らない為にイクミの世界では魔術や魔法が発達しなかったのかもしれませんね」


 何かに気付いたようにイクミがハッとした顔をしてリオを見る。


「逆に言うと、行使の仕方が分かれば私にも魔法や魔術が使える可能性がある! ということですね!」

「その可能性は十分あると思いますよ。 それにもう一つの考え方として、イクミの世界にある物は、材料が違えど”こちらの世界”でも再現が可能かもしれませんね!」

「そうですよ! それにこちらの世界には魔法や魔術の力がある! ということは私の世界にあった物をもっと便利にした物が、作ることも出来るかもしれないです!」


 リオとイクミはお互いに自分達の新たな可能性に気付き、その喜びから興奮は最高潮に達して行った。

 気付くとお互いに手を取り合って、かなり顔を近づけた状態になっていることに気付き、慌てて距離を取る。

 何故か”ふ”っと笑いが込み上げる二人。

 リオは口元を腕で隠すように笑いを堪え、イクミは手で口元を隠しながら笑いを堪えている。


「クックック……」

「クスクスクス……」

「帰りましょうか」

「はい。 帰りましょう」


 二人が帰路に着くと西の空に沈みかけている夕陽を見つける。


「もうこんな時間か……」

「どこの世界も夕日は赤くて綺麗なんですね……」


 しばらく夕陽を眺めながら帰っていると、近所の住宅から晩御飯のおいしそうな匂いが漂ってくる。

 すると、リオが「あ!」と何かに気付いたように大きな声を出す。

 イクミが首を傾げながらリオを伺うと、焦ったようにリオは答えた。


「夕飯の仕込も何もしてませんでした! イクミ!走って帰りますよ!」

「はい! シャロンさんお腹空かしてるかもしれませんね!」


 二人は工房まで走って帰るのだった。

 工房に着くころには夕陽も半分程姿を隠すまで沈んでおり、少し薄暗くなってしまっていた。

 扉を開けて中に入ると、猫足ソファの上でシャロンがダレていた。


「おかえり~。 リオちゃ~ん……お腹空いたぁ……」

「ハァ……ハァ……今から用意しますから……ち、ちょっと待っててください」

「リオ君、私もお手伝いします」


 リオの疲れ具合に比べて、イクミは到って普通であった。


「な、なんでイクミさん……息切れて……ないんですか?」

「私、元いた世界では運動部だったんで、体力には自信あるんです」

「ウンドウブ……ですか?」

「はい! 私、弓道部に所属していて弓矢を毎日のよう練習していたのですが、私の先生って昔堅気の人だったので走り込みが大好きだったんですよ」


 その様子をニヤニヤしながら見ていたシャロンがリオを冷やかす。


「リオちゃんは少し体力付けないとね~。 じゃないと素材集めに外にも出かけられないぞ~」

「うぐっ! わ、わかってますよ! ちゃんと体力作りもやりますよ!」

「それじゃ~……毎朝、私と外走りますか!? 道も覚えられて体力も付くし一石二鳥ですね!」


 リオが驚愕の表情を浮かべてイクミを見る。

 少し青ざめて見えるほどである。


「リオちゃん頑張ってね~。 女の子に負けてられないわよね~」


 猫足ソファに寝転がりながら手をヒラヒラ振ってシャロンが応援(?)する。

 逃げ場を失ったリオは、引き攣った笑いを浮かべながらイクミに了承を返すのだった。


 次の日の早朝、リオはイクミに起こされた。

 まだ日も昇りきっていない薄暗い時間である。

 イクミの世界で言うところの午前五時。

 クラウンチキンが遠くで朝の挨拶を行っているのが聞こえる。


「リオ君! 朝ですよ! 走りに行きましょう!」

「イクミさん……おはようございます……朝、本当に早いですね……」


 リオは眠い身体にムチを打って、無理矢理身体を起こすと伸びをした後、運動しやすい格好に着替える。

 イクミはというと、昨日の買い物で用意したのであろうハーフパンツにカットソーという出で立ちで、髪の毛は動きやすいように一つに纏めていた。いわゆる、ポニーテールである。

 リオが着替えて一階に下りると、既に待っていたイクミが準備運動をしているところだった。

 用意が出来た様子のリオにイクミが今朝のランニングコースを提案する。


「今日は初日ですし、リオ君の昨日の体力も踏まえて、メインストリート入口まで職人通りを走ることにしましょう」


 それを聞いたリオは、またも驚愕した。

 実にその距離、千五百メートルである。そして、行くということは帰るということ……つまり倍の三千メートル、三キロメートルの道程。

 普段、時間があれば本ばかり読んでいるリオにとっては未知の領域であった。

 そして、それを告げたイクミはというと『少し物足りない距離ですけど……最初は仕方ないですよね!』などと言っている。

 しかも、その笑顔はキラキラと輝いていた。

 そんなイクミに距離の修正など懇願出来るはずも無く。

 まだ先ほど窓から見た時よりは少し明るくなった道程を、ゆっくりと走り出すのであった。


 なんとかメインストリートまで走ることができたリオであったが、往復は流石に体力の限界であった。

 もう走れず、歩くことしか出来ないのである。


「最初は仕方ないですよね。 毎日続ければ徐々に走れる距離は伸びますから大丈夫です! 努力と友情が勝利を掴む糧になるのです!」


 拳を握りしめて太陽を見詰めるイクミに何も言えないリオなのであった。


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