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第6話 城下町案内(2)

 朝食を食べ終わり、リオとイクミで同時に片づけを始まると”あ”っと言う間に片付いてしまった。

 次の難関はズボラで、ぐうたらなシャロンを出掛けられるように用意させる事である。

 朝食を取ったことで脳に糖分が補給され、起きたばかりに比べればハッキリとしてきてはいるが、元々ズボラな為ここから一度二階に上がって用意することを(ことごと)く拒否するのである。

 凄い時だと、このまま工房にある猫足のソファで一日ダラダラ過ごすこともある。


「ほら! 先生! シャキッと用意して下さい!」

「もぉ~……リオちゃんのいけず~」


 しかし今日ばかりは、イクミの日用品の買い出し等で男のリオには分からない買い物や男では一緒に入りにくい店もある。

 そもそもリオには、どこにそういう店があるかも分からないのだ。

 ということで今日ばかりは、リオの面倒見パワー全開でシャロンに用意をさせる。

 手始めにシャロンを肩に抱えると、階段を駆け上がりシャロンの部屋に放り込む。

 しばらくすると、ボ~っとした顔のまま、一応出掛けられる格好になったシャロンが部屋から出て来た。

 再度、リオはシャロンを担ぎ上げると階段を駆け下り、水を張った桶の中にシャロンの顔を投入する。

 ついでに髪まで水没させて寝癖を強制的に直していく。

 シャロンが桶から若干ムセながら顔を上げると布巾で顔を拭き、髪にタオルドライを掛ける。

 ある程度髪の毛が乾くと、ブラシで髪を()いて整えていく。

 最後にメガネを掛けてやれば完成である。


「よし! 準備が出来たな! リオ、イクミさん! 出掛けるぞ!(キリッ)」

「……はい。 出掛ける前に疲労困憊(ひろうこんぱい)ですけどね……」

「リオさん、凄いです。 いつもこんな感じなんですか?」


 リオは苦笑を浮かべることしか出来なかった。

 大きめの買い物籠を一人二つずつ持って町に出る。

 リオは予定として職人通りから、王立魔術学園の前を通ってメインストリートに出て、各店を回りつつお得意先や取引先への挨拶周りを行う予定にしている。

 昨夜の話だとイクミは工房の仕事を頑なに手伝うようだ。

 となれば得意先や取引先との顔合わせは重要な仕事の一つなのである。

 錬金術師といえど、依頼主や仕入先と上手く付き合わなければ、仕事もロクに出来ないのである。

 まずは今朝、挨拶兼冷やかしを受けた、職人通りにある井戸の近くの鍛冶屋の旦那に挨拶をする。


「ごめん下さ~い。 親父さん、いますか~?」


 リオが外から声を掛けると奥から筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)で立派な髭を蓄えた親父さんが出て来た。


「おう! リオじゃねぇか! 今朝の彼女にシャロンさんまで連れて、両手に花とは羨ましいねぇ!」

「彼女じゃないですし、先生と一緒でも何もありませんよ。 今日は新しく工房で働くことになったこの子の挨拶に来ました」

「リオちゃんったら~いけず~……何もないってヒドイ~……先生、今日のお出掛け楽しみにしてたのにぃ~……」


 シャロンが無駄に身体をクネクネさせながらリオの腕にしがみ付く。

 シャロンの背はリオより高いのでかなり屈む形だ。

 もちろん屈むと普段通り、胸の開いた服を着ているシャロンは、イケない谷間を強調させる形になる。

 何を隠そう、この鍛冶屋の親父さん、この城下町に存在する裏組織……シャロン様ファンクラブの会員第三号であり、もちろん独身である。

 シャロンと話す為の口実として、錬金工房に来ては作業内容の割には金額の良い依頼を出して帰っていくのである。

 という訳で、錬金工房のお得意先(カ モ)なのである。


「先生、離れて下さい。 それに今日一日そのキャラで行くつもりですか?」


「(そろそろサービスも十分かしらね……)リオちゃんたら()れないわね~」


 シャロンはリオから身体を(はな)すと、鍛冶屋の親父に向き合いイクミの紹介を始めた。


「昨日から工房で住込みで働いて貰うことになったイクミさんです。 これから何かとお世話になると思いますけど、宜しくお願いしますね。 親父さん☆」


 最後はウィンクで親父に(とど)めをさす。

 親父にクリティカルヒット! 親父はチャーム状態に陥ってしまった。


「は、はひ! こここ、こ、こちらこそ、よよ、よろ、宜しくお願いしまふ!」


 親父の状態異常はしばらく回復不可能のようだ。

 鍛冶屋を後にして、リオ達は次の目的地に向かうことにした。

 王立魔術学園の正門前で、リオはイクミに簡単な説明をする。


「ここが王立魔術学園です。 イクミさんが”こちらの世界”に現れたのもこの学園の中にある自習室です。 このレナス王国城下町には二つ魔法学校があって、こちらとは城を挟んで反対側に神聖魔法学院があります」

「二つの学校は何か違うのですか? 名前の感じからすると……王立魔術学園は国が運営していて、神聖魔法学院は教会とかが運営していそうですけど」


 先ほど鍛冶屋の親父用に作ったキャラが抜けきらない状態で、シャロンが説明を補足する。


「イクミさん、鋭いわね。 たしかに王立魔術学園は国が、神聖魔法学院は教会が運営している。 他の特色として、王立魔術学院は自らの魔力を使用して異界の神々を呼び奇跡を起こすのに対して、神聖魔法学院が教えている魔法は、この世界にいる精霊や妖精、天使や神様の力を借りて奇跡を起こすの」

「今の説明ですと、教会が教える魔法は魔力をそれ程持たない人でも魔法が使えて、国が教える魔術は魔力を多く持たないと魔術が使えないように聞こえますね」


 イクミの言葉に関心しながらシャロンは答える。


「たしかに、国が教える魔術は魔力が多く無いと力を発揮しないけど、この世界にはどこにもいない神々の力を呼び寄せるということは”どこでも魔術が使える”という事なの。 対して教会が教える魔法は、この世界にいる精霊や神様の力、ということは”力が及ばない所では魔法が使えない”というデメリットもある。 まぁ~一長一短ね」

「そういうことですか……ということは冒険者のように色々な所を転々とする人は魔術が向いていて。 国の警備に当たる兵士のような方は魔法が適しているということですね」

「イクミさん、飲み込みが早いですね」


 リオが驚くように関心して王立魔術学園の説明は終了した。


 錬金工房を経営する上で、依頼主も重要であるが、それと同時に仕入先も重要である。

 あまりに希少な材料の場合、この町にもある冒険者ギルドに依頼して収集する方法と、自ら収集に向かう方法がある。

 通常の材料の場合は、メインストリート沿いに点在する八百屋や雑貨屋を利用することで(おおむ)ね揃えることが可能である。

 錬金術にも種類や系統が分かれていて、大きく分けて『道具の精製』と『薬品の精製』である。

 傾向としてシャロンは全体的に高い水準で錬金可能であるが、特に『薬品の精製』に非凡な才能を発揮する。

 対してリオは全体的にシャロンには、まだまだ及ばないものの『道具の精製』においてはシャロンに追随する才能を発揮している。

 そうなると付き合う仕入先も変わってくる。

 主にシャロンは八百屋や薬屋が仕入先となってくる。

 リオについは雑貨屋や材木屋、鍛冶屋等が仕入先の中心となってくるのである。

 主に取引をしている者が、それぞれイクミの紹介を行っていき、一通り主要な取引先、得意先の挨拶周りを終えると、もう一つの目的であるイクミが使用する日用品の買い出しに入って行く。


 まずは日用雑貨の買い出しである。

 ここで一つ注意しよう。

 女性の買い物は例外もあるが基本的に長い。

 買いもしないのに手に取っては、可愛いや面白いと持てはやし、最終的には買わない、という作業をこれでもかと繰り返すのである。

 男勝りなシャロンにしても、やはり女子であり、そしてイクミについては言わずもがな年頃の女の子であった。


「イクミさん! 見てみろ! この鏡! 白く染めた植物の(つる)で縁取られているぞ! 可愛すぎる!」

「シャロンさん! 見て下さい! この木彫りのコップ! 長靴の形をしていますよ! 可愛すぎます!」


 そんなやりとりが一時間ほど続き、リオは途中棄権して外で空を眺めて待つのであった。

 やっと日用雑貨の買い出しが終了し、イクミが普段使用する衣服の買い出しに向かう。


 そう、もはや言うまでも無い……こちらの方が長いのである。

 しかも、今回辛いのはリオは店の中に入ることが出来ない。

 物理的に入ることが出来ない訳ではない。

 リオの中性的な容姿ならば堂々と入って行っても全然問題は無いだろう。


 だが、しかし洋服屋には同時に下着も売っていたのだ。

 思春期の男の子には女性用下着という時点でアウトなのである。


 最初は外の入り口付近で大荷物を抱えて待っていたリオだったが、中から……『シャロンさんは、やっぱり大きいです!』とか『イクミさんは調度良い大きさじゃない? しかもス・ベ・ス・ベ☆』なんて声が聞こえて来る。


 なんとなくココに居てはいけないという気持ちになり、向かいの飲食店で飲み物を注文して二人の女子(・・)が出てくるのを待つのであった。


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