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第42話 ギルドの地下へ

 リオ達は冒険者ギルドで『盗賊もどき』のリーダー格から事情を聴く為、工房を出ることにした。最初、イクミもついて行こうとしていたが、リオが説得することで、なんとか聞き届けて貰うことができた。また、『酒屋ガーラント』で留守番をしてもらうことになった。なぜ、工房での留守番にしないのかというと、アクセルが『念の為、誰かと一緒にいさせた方が良い』と耳打ちしたからだ。

 イクミを酒屋ガーラントに送り届けて、一行は冒険者ギルドに向かった。

 冒険者ギルドの係員に、捕縛した盗賊に話がある旨をアクセルが申請すると、一度奥に引っ込んだ係員が、一枚の用紙を持って現れた。

 

「それでは、こちらに冒険者登録番号と氏名、現在の宿泊先を記入して下さい。何かあった場合、問合せの為に必要となりますので正しく記入して下さい。あと、面会には係員が二名性立ち合わせて頂きますので、ご了承下さい」

 

 ティルがリオに『なんで立合いが必要なんだ?』と耳打ちする。リオは『例えば、僕達が盗賊を”殺す”もしくは”逃がす”、又は”傷つけられる”、”傷つける”、”殺される”みたいなことが発生しないようにする為でしょ。あとは、ギルドも情報が欲しいんだろうね』と耳打ちで返した。

 立合いをするという屈強なギルド職員が二名現れると、リオ達を先導するように歩き出した。リオ達は、それに従ってついて行くと下に向かう階段を下りる。少し湿気が多く、若干カビ臭い。一応空気の流れを作ってあるのか、階段を下りきると微かな風をリオは感じた。左右に別れた道を右に向かうと、鉄格子で出来た扉の鍵を先導するギルド職員が開ける。更に進んだ所には、鉄格子で囲まれた牢獄が並ぶ場所に出た。()えた匂いが鼻に付く。思わずリオは咽かえっていた。

 ギルド職員を見つけた囚人が、食器を使って大きな音を立て始める。『出せ』『死ね』『殺してやる』そんな言葉が飛び交う中、目的の牢獄まで無言で進んで行く一行。リオは改めてイクミを連れて来なくて良かったと思っていた。

 目的の牢獄は、一番奥にあった。その牢獄には食器が無く、宙吊りにされたパンとバケツに入った水に数本の麦わらを短く切った物が刺さっている。それを使って飲めということなのだろうか、リオが考察しながら覗きこんだ牢獄の中には、両手を失った人間が胡坐をかいて座っていた。

 

 ◆

 

 『宙吊りにされたパン』と『水に入った麦わら』を見た瞬間、アクセルは納得していた。盗賊もどきのリーダーは、両手を失っているのだ。既に止血を済ませたソレは、何かを諦めたように胡坐をかいて牢獄の中で座り込んでいた。

 盗賊もどきが、来客に気付いたのか俯いていた顔を上げると同時に恐怖を顔全体に貼り付けた。まるで死神が迎えに来たような表情である。その視線は、傍らにいるリオの顔に向いているように見えた。

 

「た、たすけてくれぇえええええ! 悪魔が! 悪魔がきた! 俺が悪かった! おれ、俺が悪かったよぉおおおお!」

 

 突然、大きな声を出し、立ちあがって逃げ出そうとした盗賊もどきが、両手を失っていることを忘れていたのか、立ちあがれずに勢い良く横に倒れた。それでも、床を蹴ってアクセル達から少しでも離れようと必死にもがいている。

 それを見ていたリオが、呆れた顔をしながらアクセルに話しかけた。

 

「両手切り落とすなんて、凄い仕打ちですね。右手だけでも戦意を失わせることは出来たんじゃないですか?」

 

 アクセルはリオの言葉に耳を疑った。リオは、”あの事”を忘れているのだ。自らが起こした所業を。アクセルは、真実を話すべきか一瞬迷ったが、無意識に向けた視線の先で、ティルとユリアが首を横に振っているのを見て、真実を話すことを止めた。

 

「あの状況じゃ~加減なんて出来るわけないだろ? お前とティルが抜けたあと、俺とユリアがどんだけ大変だったか!」

 

 アクセルは咄嗟に思いついた嘘でも、上等な物だと自分を誉めてやりたい気分だった。

 リオの聡明さなら、自分の嘘にも何かの切っ掛けで気付くかもしれない。そう考えたアクセルは、話題を盗賊もどきに移すべく行動を開始した。

 

「とりあえず、ここからは大人の時間だ。リオとティルには少し外して貰おうかな」

 

 アクセルのこの発言には二つの意味があった。一つは言葉通り、子供にはあまり見せたくないことだからだ。そして、もう一つは盗賊もどきの為である。今の盗賊もどきの状態を伺うに、明らかにリオを恐れている。それもそうだろう、何をされたか分からないとはいえ、盗賊の仲間達が次々と”見えない攻撃”でダルマにされ、しかも命まで(むし)り取られたのだ。その惨劇の始まりは、魔術師を行動不能にした後、すぐに起こったのだ。誰が起こしたことなのかは、馬鹿でも分かる。

 リオが視界から消えたのを確認した盗賊もどきが、少しずつ落ち着きを取り戻していくと、『殺さない』『死なない程度に済ませる』『途中で止めてくれても良い』という約束を取り付けて、牢獄の中に足を運ぶアクセルとギルド職員一人、ユリアともう一人の職員は牢獄の外で留守番だ。

 

「さて、呼吸も落ち着いてきたようだし? 質問に答えて貰おうかな?」

 

 アクセルが指の関節を鳴らしながら、ゆっくりと盗賊もどきに近づいていく。すると、アクセルが手を出すまでもなく盗賊もどきが口を開いた。

 

「な、何でも話す! だから、俺を死神から守ってくれ!」

 

 アクセルとしては、なんとも拍子抜けである。こっちとしてはヤル気満々だったにも関わらず、敵がさっさと白旗を掲げてしまったのだ。

 大きな溜息を吐きだしたあと、盗賊もどきに問いかける。

 

「んで? 俺達を襲ってきた目的は?」

「ちゃんと死神から守ってくれるんだよな!?」

「わぁ~かったって! それで俺達を襲った目的は何なんだよ!?」

「お、オレたちは……た、頼まれたんだ……金くれてよ…………メガネのガキ一人殺せば良いって……ついでに周りのヤツも殺してくれば、その分も払うって……頭の回るガキだから気付かれるなよって言われた……」

「目的はリオか……誰に頼まれたんだ?」

「名前は分からねぇ……ほ、本当だ! なんだかキレイな服を着た、貴族風の男だった。お前らを襲った後、夜中にアーリア教会の後ろで落ちあう約束だったんだ。その時に金を貰えるはずだった」

「襲った後の夜中、今夜か……あと二時間くらいか……他に何か知ってる事は無いか?」

「……他には何も無かったと思う…………あ……去り際に小声で『コレで彼女は僕の物だ』って言うのを聞いたヤツがいた」

「! リオの先生かイクミちゃんも狙われてる可能性があるのか!」

 

 アクセルは、ギルド職員に済んだ旨を伝えると牢獄から出る。ギルド職員もそれに続いて牢獄から出て来た。話を聞いていたユリアが頷いてアクセルに応える。二人は、奥に居たリオとティルに合流すると、足早に冒険者ギルドを後にした。


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