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第41話 危機回避と心遣い

 ティルに協力して貰いイクミを説得すると、なんとか仕事をさせて貰う許可が下りた。”ポイズンビフロッグの解毒剤”が完成したその後は、問答無用で休ませられるという条件が付いたのは致し方ないことだろうと、リオは考えていた。

 身体については右手をいつ怪我したのか分からなかったが、酷い裂傷があるらしく、しばらくは右手を使わずに生活するように医者から指示を受けた。リオは、いくら思い出してもティルが切りつけられた所までの記憶しか思い出せなかった。ということは、きっとティルの血を見て気絶でもしてしまったんだろう。と自分に納得出来る理由を付けて、疑問を心の棚の中に仕舞いこむ。

 しかし、あの多勢に無勢で、更にティルと自分が欠けた布陣で突破したアクセルとユリアは、本当に凄い冒険者だと改めて評価を高くしていた。

 イクミには工房への道すがらアクセルとユリアのことを説明した。リオが少し驚いたのは、しっかりと布で顔を隠し寡黙に振舞っていたユリアを一瞬で女性だとイクミが見破ったことだ。やはり女性には生まれながらに特殊な技能が備わっているのだろうか。

 リオは工房に辿りつくと、工房の前に置かれた黒板に書いた文字を消し『営業中』と書き換え、久しぶりに感じる工房の扉をゆっくりと開いた。

 部屋の中は、急いで冒険の準備をした所為で、気持ち散らかっているように感じた。それらをそのままにして、リオは早速錬金術の準備に取り掛かることにした。

 アクセルとユリアは、思い思いにテーブルの椅子などに腰掛けて実験器具等を珍しそうに眺めては、ティルに色々と質問をしている。

 イクミは手早く台所で作業を始めると、茶器を軽く洗浄し、全員分のお茶を用意していた。『魔道具:冷蔵庫』を開けて中を物色していたところを見るに、おそらくお茶受けは果実ゼリーだろう。

 それぞれの行動をなんとなく眺めてから、リオは目を閉じて精神集中を行う。

 ”ポイズンビフロッグの解毒剤”は、薬草を中和剤として使用し、”ポイズンビフロッグの肝臓”が持つ解毒作用のみを抽出するのだ。本来であれば、薬草を浸けこんで作成した中和液に肝臓を二日浸し、更にそれを冷暗所で乾燥させること一日、乾燥した肝臓を擂鉢(すりばち)で粉々にした物が解毒剤として使用される。作成した物は、乾燥させたと言っても日持ちする物では無く、持っても八日程度であり、作成される数も少ない為、基本的に町に出回る量は総じて多くは無い。”ポイズンビフロッグ”に遭遇するから必要なのであって、遭遇しなければ基本的には必要にならない薬、というのも生産数が多くならない要因の一つなのであろう。

 リオは、地獄のカマドの脇にある通常の(かま)に薬草を投げ入れる。リオは『合成』をする際に必要な言霊を呟く。一見、魔術師が行う魔術の詠唱と酷似しているが、少し違う。これは、素材その物に語りかけることで、素材その物と会話を成立させる為の物だ。錬金術の基本概念には、『会話』と『調和』が含まれている。錬金術が最終的に目指す頂きにあるのは『万物の声を聞き万物を統べること』である。リオの語りかけに応えるように薬草を投げ入れた窯から淡く緑の輝きが零れている。

 緑の輝きが一層強くなった所で”ポイズンビフロッグの肝臓”を窯の中に投入する。すると、先ほどまで緑の輝きを放っていた窯から紫の光が発生した。それを確認したリオは、すかさず脇に置いてあった大きな木の棒で、かき混ぜ始めた。最初は勢い良く、少しづつゆっくりと勢いを弱めていく、次第に先ほどまで紫の色だった光の輝きが、白色へと変化していった。

 

「出来ました」

 

 リオが一言完成を告げて、光の収まった窯の中に手を入れる。その手には、拳より一回り大きい白い石のような物が握られていた。

 

「リオ、それが解毒剤なのか?」

「そうですよ、ティル。これを擂鉢で粉状にしてあげれば、解毒剤として飲むことが出来るようになります」

 

 リオの手元の解毒剤の量を見たアクセルが驚きの声を上げた。

 

「こんなに量が多いのか!? 俺が前に調剤師のところで見たすり潰す前の解毒薬は、赤ん坊の拳ぐらいの大きさしかなかったぞ!?」

「そうなんですか? たぶんですけど、工程の途中で大分目減りしてしまうんじゃないですか? 薬草液に浸けた時に有効成分が薬草液に出てしまったりとか」

「錬金術って反則的だな……」

 

 アクセルの乾燥に苦笑いで応えると、棚から擂鉢と擂粉木(すりこぎ)持って来て床に座り込んで、すりつぶし始めた。見た目は石のように見えた解毒剤も、実際は中がスポンジ状になっている為、直ぐに粉々になる。それでも、より細かい方が効きが良いので念入りに擂粉木で粉々にしていくリオ。一〇分程作業をして、擂鉢の中には細かくてキレイな白い粉が出来ていた。

 

「はぁ~……すり潰すと案外少なくなるのな」

「中はスポンジ状でしたからね。お陰で潰しやすくて良いんですが、元々の大きさが大きいだけに少し期待外れですよね」

 

 アクセルの反応が、以前作成した時の自分の感想と同じだった事に内心ニヤケつつ、小さな瓶に粉を移していく。瓶の口ギリギリまで入れるが、擂鉢の中にはまだ少し残っている。リオは、小瓶を二度、三度と軽く音を出す感じで叩くと、粉が圧縮されて小瓶に若干の余裕が出来た。残りの粉を小瓶に入れ、コルクで蓋を閉めたら完成だ。

 

「これで持って行けます。皆さんありがとうございました!」

「良いってことよ!」

「……うん」

「ニシシ。んじゃ~ビグルス兄ちゃんとこに持ってこうぜ! 時間的には余裕はあまり無いからな!」

 

 ティルの言葉に急いで用意を始めたリオを、アクセルが止める。

 

「ちょっと待てリオ、少し確認しておくことがある」

「え? 急がないとマズイですよ?」

「たしかに急がないとマズイんだろう。けどな、一度冒険者ギルドに戻って『盗賊もどき』の一件を確認してからじゃないと、危ないと思うんだよ」

「?」

「おいおい、忘れたのか? 盗賊もどきが出て来た時、お前が言ったんじゃないか。 何か他の目的を持ってるって」

「それと今回の件に何か関係があるんですか?」

「呆れたな……依頼主のことを信用し過ぎだろ……」

「なんたってリオは、超が付くほどの『お人好し』だからな!」

「ティル~冷やかさないでくださいよ~」

 

 アクセルはリオとティルのやり取りを聞いて溜息を吐きだした。

 

「つまりだな……今回の”ポイズンビフロッグ解毒剤調達”って依頼その物が、リオかティル、もしかしたらイクミを狙った犯行だった可能性があるってことだ。もちろん、俺とユリアの可能性もあるけどな」

「ん~……でも、人に恨まれるような覚えも無いですけど……」

「世の中には逆恨みって言葉もあるように、人の気持ちってのはよく分からない物だ。俺も前に経験あるぜ……魔物の討伐依頼で依頼より多く倒して帰ったら、『生態系が崩れる』なんて学者達に怒られたりよ」

「……やり過ぎは良く無いです」

「まぁ~何にしても好意を悪く取るヤツもいるし、何より『人のリンゴは大きく見える』なんて言葉もあるんだ。自分の知らないところで、妬みや嫉妬を受けることだってあるだろ?」

 

 イクミは脇で聞きながら『人のリンゴは大きく見える』って『人の家の芝生は青く見える』のことかな? 通訳者さん翻訳がストレート過ぎますよ! 等と考えていた。

 

 リオは、アクセルの忠告に今一納得が出来ない様子だが、実際『盗賊もどき』が何かしらの目的を持って襲ってきたことは、確かだと思われた。

 依頼者を信用したい気持ちもあるが、仲間の命、そして自分の命も関わったことなのだ。確認したい気持ちが無い訳では無かった。

 

「分かりました。とりあえず、冒険者ギルドに向かいましょう」

「よし、捕縛してあるリーダー格の男をちょっと、拷も、ゴ、ゴホン。詳しく聞いてみれば、何でも話してくれるだろうよ」

 

 アクセルの口ごもった事に殆ど予想が出来ていたリオだったが、イクミもいる手前、その心遣いが少し暖かく感じた。


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