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第36話 覚悟

 一頻り騒いだ夜が明けて、レナス城下町に向けて四人は行動を開始した。

 夜に何度か魔物の襲撃を受けたが”ヘクトグレイウルフ”以下の魔物ばかりであり、大した時間を掛けずに済んでいた。現在の行程も途中で何度か魔物に襲われたが、すでに目的を達成し、用意してきた道具を出し惜しみする必要の無くなったリオは、行きに作った道具を使い切る勢いで使用し、昨夜から数えればユリアーヌスに次ぐ撃破数を計上していた。

 今回の旅で得た素材を使って、シャロンから新しい『合成』のレシピを教えて貰おうと、少し笑みすら浮かべて敵を屠るリオを見て、ティルが少し怯えていたことを当人は気付いていない。リオが使用する道具は、主に”フライファングの実”のような爆弾なのだ。すでに持ってきた袋を素材でパンパンにしたリオは、素材の回収を求めていない上に、リオが回収しなければ他のメンバーも必要無いと言うことで、倒した後の”状態”に気を付ける必要が無い。ということで、リオは惜しげも無く爆弾を放ち、魔物の頭部や胴体を爆裂させて倒していくのである。しかも、薄ら笑みを浮かべて……例えリオが帰った後の”楽しみ”に笑みを浮かべているのだとしても、その心情を察することが出来ないティルは『敵を爆死させて笑みを浮かべる親友』にしか見えていないのだ。

 行きとは違い、蹂躙するように『東の森』を抜けた牛車は、程無くして街道に出た。

 牛車とは速度の違う、馬車が脇を通り抜けていく。おそらく商人の馬車なのであろうと、リオは考えていた。背の低い屋根がついた馬車の中は、果物や調度品のような物があり、それらがリオの目に一瞬写っていたからだ。

 何度か同じような馬車に追い越されながら街道を進んで行くと、日が一番高くなった、『白葉』の季節としては正午に当たる時間帯だ。リオ達は、街道の脇に牛車を止めて昼食を取ることにした。

 森の中を進んでいる時は、周囲に魔物がいた為に料理らしい料理を準備することが出来なかったが、街道まで出てしまえば魔物が襲ってくることは、かなり少ない。リオは『東の森』で採取していた木の実や、出掛ける前に購入しておいた食材を使用して昼食を振舞うことにした。

 干し肉で出汁を取ったスープを作り、各自が持参したお(わん)に装って配っていく。出汁を取る為に使用した干し肉に、果物を絞った果汁と調味料を加えて作ったドレッシングを掛ける。それを周囲に自生している植物の大きな葉を洗って皿代わりにして盛り付けた。そして、持参した少し硬めのパンを軽く焚火で炙り、ナイフも火で炙ってバターを切る。ナイフの熱によって溶けたバターをパンに塗って一人一人に手渡していく。材料も道具も揃っていない為、大した物が出来ませんでしたけど……と一言添えて、全員に配り終えると、四人の前には、野営で作る料理としては十分贅沢と言える物が並んでいた。

 

「リオって凄いな……」

 

 アクセルが感嘆したように呟く、それに同意してユリアーヌスもコクリと頷いていた。

 

「リオは、料理だけじゃなくて、家事全般なんでもこなせるんだぜ!」

「そうなのか!? 男じゃなかったら嫁に貰いたいくらいだな!」

 

 アクセルが驚愕したように声を上げた。

 

「……私もコレは出来ません、……なんだか少しショックを受けています……」

 

 ユリアーヌスも小さな声で、感嘆と悲観の声を上げていた。小さい声なのは、やはりまだ恥ずかしいからだろうか。昨夜は、あんなに声を張り上げていたのに……とリオは思ったが思ったことは口には出さず、自重の言葉を口にすることにした。

 

「皆さん大げさですね。まともな設備とか調味料があれば、もう少しマシな物も出来るんですけど、こんな物しか出来なくて、むしろ申し訳ないくらいです」

「謙遜しなくて良いけどさ! とりあえず食べようぜ! 折角の料理が冷めちまうよ! ってか俺、腹ペコペコだし!」

 

 ティルが口の隅からはみ出した(よだれ)(ぬぐ)いながら先を促し、それを見たユリアーヌスが『クスッ』と小さく笑い声を上げると、ティルが顔を赤くして俯いた。

 それを見て、リオも笑いが込み上げてきていた。

 

「ククッ、それじゃあ、食事にしましょうか。スープは御代り(おかわり)出来ますから、欲しい人は言ってくださいね」

「おし! それじゃ~頂きますだぜ!」

「頂きま~す」

「……頂きます」

「どうぞ」

 

 全員がそれぞれ口を付けると、そこからは瞬く間に料理が胃袋に吸い込まれていった。

 スープを二回も御代りしたアクセルが、ゲップゲップしながら草むらに寝転がって感想を口にした。

 

「はぁ~……グプッ……もう腹一杯だ。食えねぇ~……ってか、マジ美味かった最高だわ。なんで俺、女のに生まれなかったのかね。そうすりゃ、リオの嫁になれたのによ~……女のユリアが羨ましいわ」

「アクセル兄ちゃん、いきなり愛称で呼び始めたし……ユリアかぁ~たしかに女の子らしくて良いな! 俺もう呼ばせてもらうぜ!」

「ちゃんとユリアーヌスさんに聞かないとダメですよ。僕もユリアさんって呼ばせて貰って良いですか?」

 

 ユリアーヌスは少し俯くと小さな声で応えた。

 

「……ユリアで良い……」

 

 その声は、心なしか嬉しそうな色を感じさせる物だった。

 

「でも、リオはダメだぜ! なんせ相手決まってるもんな!」

「ほぉ! その歳で相手がいるのか!? なんだ!? 相手はどうな人!? カワイイ!? 美人!?」

 

 ティルの発言にアクセルが凄い勢いで喰いつく、ユリアもティルの言葉に興味津津と言った雰囲気を醸し出している。

 リオがティルの口を塞ごうと手を伸ばすが、それから逃れるようにティルが走り回る。

 

「ニシシッ、リオの相手は~! イクミ=タチバナ~! だぜ!」

「ちょ! ティル! 僕達は別に!!!!」

「へぇ~……って、今年のミス魔学のイクミ=タチバナ!? 歌って奏でて踊れる黒髪美少女って有名だぞ!? 見たこと無いけど!」

「……? 誰?」

 

 いつの間にか『歌える』だけじゃなくて『踊れる』まで付いた噂に少し驚きつつも、リオは誤解を解こうと声を張る。

 

「だから違いますって!!! 彼女とは別に……何も……!」

「へぇ~……何も? じゃあ、イクミにそう言っておくぜ!」

「ティル!!!!」

 

 今も尚、逃げ回るティルを必死で追いかけるリオ。

 それを脇目にアクセルがユリアに『イクミ=タチバナについて』講義をしていた。

 リオがティルを捕まえて、ティルが『ゴメンゴメン』と謝り、その場はとりあえず落ち着きを見せた。

 昼食の片づけを済ませ、再度出発した。

 牛車の上では、未だにリオがティルに説教をしており、それをアクセルが『まぁ~まぁ~』と(なだ)め、ユリアがホーンブルの手綱を握っていた。

 しばらく進み、あと一時間も進めばレナス城下町に入れるというところで、ホーンブルが急に立ち止った。

 急に止まった牛車に、リオとティルは転がる。アクセルはバックラーを左手に持つと、牛車から躍り出た。

 リオが、ぶつけた肘を(さす)りながら身を起こすと、牛車の前に身なりからして盗賊らしき男が七人も道を塞ぐように立っていた。

 アクセルが一歩前に出て声を張る。

 

「あんたら、どういう了見で道塞いでんだ?」

 

 真ん中に立っていた男が汚い髭面を歪ませたかと思うと、黄色と黒に彩られた歯を見せながら笑い声を上げる。

 

「お前、バカじゃねぇのか!? 俺たちゃ見た通りの盗賊だよ! 了見ってのはよ~追剥(おいはぎ)だ! 世間知らずのお坊ちゃん様よ!!!」

 

 リオは周囲を見渡す。周囲にはリオ達と盗賊以外に人はいないし、草木ばかりで他には何も見当たらない。それを確認すると、リオが盗賊に問いただした。

 

「本当の目的は何ですか?」

 

 リオの言葉に、笑い声を上げる盗賊達。

 

「本当の目的ってなんだぁ? 俺たちゃお前たちを殺して、持ってる物奪うだけだぜ!」

「そうですか? 見たところ周囲には僕達以外に草や木しかありません。馬車を隠すようなところも無い。僕達の見た目は、自分で言うのもなんですが、金の無い駆け出しの冒険者四人組ですよね?僕達の前には、商人の馬車と思われる人達が何組も通ったはずですし、僕達もこの目で見て確認しています。周囲を見渡しても、死体も無ければ商人が使っていた馬車も見当たらない。ということは、貴方達は商人の馬車を見逃しているということです。この先は一時間も進めば、城下町に入ってしまう。割と往来のある街道の、こんな所で騒げば、既に周辺警戒をしている騎士達が駆けつけているでしょう。つまり、ここで騒ぎを起こしたのは始めてということです。ということは、貴方達は”ただの盗賊”では無く、”盗賊を偽装した他の目的を持った人達”ということになります」

 

 リオが捲し立てるように推理を披露していく、途端に真ん中に立っていた男と周囲の男達の笑いが収まり、目つきが変わっていく。

 

「随分、頭が回るガキがいるな……そうかお前が……まぁ~俺達が盗賊だろうが、他の何かだろうが、ここで死ぬお前達には関係の無いことだがな!」

 

 真ん中の男が腰にぶら下げた曲刀を抜き放つと、周囲の六人も同様に抜き放つ。

 

「アクセル兄ちゃん、人を殺したことは?」

「盗賊の掃討依頼なんて、冒険者には日常茶飯事だ。胸を張って言えるわけじゃないが、そういうことだ」

「ユリアさんもですか?」

「……うん」

 

 まだ人を殺したことが無い、リオとティル。このリオ達が住む国周辺は、魔物や獣が人の命を奪い、昔は国の間で戦争も多く、疫病が流行れば掛かっただけで殺されてしまうようなこともあった為、今でも人の命が安く扱われる傾向がある。戦争があればリオもティルも戦場に駆り出されるような年ごろだ。そして、冒険者を目指して魔術学園に通っているティルも、通っていたリオも少なからず、そういうこともあると、どこかで決心していたこともある。リオとティルは、覚悟を決めた。アクセルとユリアに頷いて応える。

 アクセルが声を張り上げて、盗賊を名乗る男に脅しを掛ける。

 

「人様の命を奪おうってんだ! 代償を受ける覚悟は出来てるんだろうな!?」

 

 アクセルの声と共に、ユリアが短刀を二本抜いて構える。

 ティルは魔方陣を描き出す。

 リオは、袋から爆弾を取り出す。

 

 リオとティルの始めての対人戦が幕を開けるのだった。


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