表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/43

第32話 リオとティルの戦闘

 一度それぞれ準備もあるということで、解散し手早く準備を済ませ再度、冒険者ギルドに集合することとなった。

 リオは工房に戻ると、エーテル溶液の小瓶数本、高純度の油小瓶数本、『魔道具:風呂』を作った時に思いつきで作成した『湧泉の水筒』というエーテル溶液と魔力で飲み水を沸かすことが出来る水筒の試作品、工作用のナイフ、シャロンが作り置きしている傷薬数個、小さな水桶、他にも旅に必要な武器や道具を大きなカバンに押し込めて行く。

 火元の確認をすると、各部屋の窓の戸締りを確認し、工房の扉に鍵を掛ける。扉の脇にある黒板に『しばらく店をお休みにしま』まで書き記したが、消して再度『五日間店をお休みにします』と書きなおし冒険者ギルドに向かった。

 冒険者ギルドまでの間に、必要な食糧等を買い込んで行く。水を持って行く必要が無いと言うのは、それだけで随分と持って行く物が減ることを意味している。

 リオが冒険者ギルドに到着すると、すでにティルとアクセルが荷車と一頭のホーンブルの雄を用意して待っていた。普通であれば馬車を使うところだが、目的地が沼地ということもあり、水場にも強いホーンブルによる牛車を選んだのだ。ホーンブルの雄は、走る速度こそ馬には及ばないが、その足元の強さは馬の比では無い。そして、馬に比べて重い物でも引くことが出来るので、近場ではよく使われる手段だ。

 リオが、ティルの手際の良さに感心していると、大きな荷物を背負ったユリアーヌスがリオとは反対側の道から現れた。先ほどと同じ真っ黒な装備で固められた腰には短刀が二本差してあり、背中にも細く一二○センチ位の曲刀を背負っている。

 準備が整ったことをそれぞれ確認すると、荷車に荷物を載せて早速出発となった。

 若い冒険者四人組が、町の外に向かっていることを確認した酒場の冒険者達から、野次のような激励を受けて四人は町を出た。

 

 町の外と言っても、いきなり魔物や獣に襲われる訳では無い。他の町に続く街道に関しては、余程飢えたりしない限り、魔物も獣も人間を襲うようなことは無いのだ。人間を襲ったところで、魔物や獣側はそれほど大きな見返りがある訳ではない。人間より近くの動物でも襲った方が安全に食事ができる。ということで、レナス周辺地域では、魔物による人的被害というのは冒険者を除いて、かなり少ない。それに比べて、家畜の被害は、毎年かなりの数になってしまう。ギルドに来る依頼も、家畜の放牧地周辺の魔物掃討などが主なのだ。そんな話をアクセルから聞きながら、リオとティルは戦闘に備えて道具の確認を行っていた。

 しばらく進むと牛車は街道から外れた獣道のようなところを走り出した。周囲は身の丈程もある草や背の低い木が生い茂り、見通しは悪く、道も悪い。先ほどの街道をそのまま進むと、東の森を大きく逸れてしまい、沼地にはたどり着けない為、()むなくこの道を進んでいるのだ。

 すでに街道から外れて三○分程が経ち『東の森』の入り口に差しかかった頃、少し開けたところに出た。すると、牛車を引いていたホーンブルの脚が突然止まる。ユリアーヌスが手綱でホーンブルに進むよう催促するが、一向に進む気配を示さない。リオが周囲の雰囲気が変わったような感覚を感じて、殆ど無意識の内に右手で一番小さな爆弾を握っていた。ホーンブルが何かに怯えるように一歩後ろに下がる。

 ユリアーヌスが手綱をリオに渡して荷車から降りると、短くて細い曲刀を二本抜いて構えた。アクセルも同様に地面に降りて、ショートソードを右手に持ち、左手にバックラーを構えている。

 前方の大きな木の根元から湧き出すように魔物が現れた。”イシフラシ”と呼ばれる魔物だ。見た目は、目も手足も無く、頭部と思われる個所からは二本の触角が伸びており、ヌルヌルとした質感の体表を持っている、大きさは人間の膝くらいまでの高さだ。主食は石と骨であり、外敵が現れた時はその石を口から飛ばして攻撃する。その石もヌルヌルとした粘着質を持っていて、それを受けた者はしばらくの間、動きを制限されてしまう。他の魔物と居合わせた場合は、真っ先に倒してしまわないと危ない魔物だ。それが三匹同時に現れたのである。

 ”イシフラシ”の姿を確認するや否やユリアーヌスが駆けだしていた。

 まだ日は高いが、鬱蒼と草木が生い茂り、暗く見通しの悪い場所を放たれた矢の如き速度で接敵する。

 いつ振り上げたのかも、振り下ろしたのかもリオには理解出来ないスピードで”イシフラシ”を屠ると、ユリアーヌスは次の獲物に向かって駆けだしていた。

 アクセルも負けてはいない、”イシフラシ”が放った粘着液塗れの石を剣で叩き落とすと、攻撃直後で動きが止まった”イシフラシ”を一刀両断した。

 ユリアーヌスが二体、アクセルが一体を片づけ、リオとティルは荷車から降りる間も無く、戦闘が終了してしまった。

 

「お二人とも強いんですね!」

「ホント! ホント! 俺、魔術の詠唱する時間も無かったぜ!」

 

 リオとティルの言葉を聞いたアクセルが苦笑いを浮かべる。

 

「この”イシフラシ”は初心者冒険者が最初に遭遇する壁ってとこだな。俺とユリアーヌスくらいのランクになれば、こんなのは朝飯前って感じだよ」

 

 ユリアーヌスはというと興味無さ気に牛車に戻ってくると、リオから手綱を受け取っていた。早く出発するぞ。と言わんばかりである。

 それにリオは待ったを掛けた。

 

「あの”イシフラシ”から素材を取りたいので、少し時間を貰っても良いですか?」

「俺は別に構わないぜ」

「オレの方も大丈夫だ」

 

 ユリアーヌスも頷いて了承を返している。

 リオは牛車から降りると、工作用の薄い金属の板でも切れるナイフを取り出して”イシフラシ”を捌いていく。家事を普段からこなすリオにとっては、魚を捌くことも、クラウンチキンを捌くことも全く抵抗が無い。瞬く間に”イシフラシ”を三体とも解体すると、石が詰まった内臓を取り出して、近くの木から大きめの葉で包んで牛車に戻った。

 リオが手に持っている物を見て、ティルが疑問の声を上げる。

 

「リオ、そんなの何に使うんだ?」

「コレはね、ちょっと重いけど有効な武器になるんですよ。まぁ~後で見せてあげますから」

 

 リオが乗り込むのを確認すると、ユリアーヌスは牛車を進めた。最初の難関である『東の森』を進んで行く。まだ日が高い所為もあるのか、先ほどの”イシフラシ”と何度か遭遇することがあるだけで、他の肉食獣や魔物に遭遇することは無かった。

 ティルがなんとも拍子抜けと言った感じで、手元の紋章が刻まれた杖をクルクル回して遊んでいると、周囲の木々が騒がしくなり出した。一斉に小動物たちが我先にと逃げ出したからだ。

 只ならぬ雰囲気に四人の感覚が鋭くなっていく。

 突如ユリアーヌスが、いつの間にか手に持っていた拳大の石を前方の木々の間に向かって二連続で投擲した。

 少し先で矢継ぎ早に獣の悲鳴が聞こえてきた。それと同じくして、リオ達の目の前に大きな狼が一頭姿を現した。レナスの酪農家を一番悩ませる魔物”ヘクトグレイウルフ”である。その名前の由来は灰色の体毛と体高が一○○センチ以上の大型であるところからきている。体胴長も二○○センチほどもあり、かなり大型だ。

 ユリアーヌスが顔を覆い隠す布の内側で、不敵に微笑んだようにリオは感じでいた。

 アクセルとユリアーヌスが牛車から躍り出ると、”ヘクトグレイウルフ”と距離を取って対峙する。リオも牛車から降りるとリオはカバンを漁り始めた。ティルは牛車の上で魔術の準備を始めていた。”ヘクトグレイウルフ”はと言うと、口から(よだれ)を滴らせながらも、襲いかかることは無く臨戦態勢を取ったまま動かない。

 その様子に何かを察したアクセルが突如声を上げた。

 

「リオ! ティル! 奴らの狙いはホーンブルだ! 仲間が近くにいるぞ!」

 

 アクセルの声が合図になったかのように、一頭目とは反対側から二頭の”ヘクトグレイウルフ”が飛び出してきた。

 

「まずい! 魔術の詠唱が間に合わないぜ!」

 

 ”ヘクトグレイウルフ”の一頭がホーンブルに迫る。

 一頭目をユリアーヌスに任せたアクセルが戻るも、この短時間では相手が出来るのは一頭までが限界だ。

 残りの一頭が、あと数歩でホーンブルに肉薄しようという、その時――

 ”ヘクトグレイウルフ”の動きが緩慢になり、足を(もつ)れさせて転倒した。

 その後ろ脚には、粘液で濡れていた。

 

「さっきの”イシフラシの貯石臓”は、こうやって使うんですよ! ティル!」

 

 リオがティルに指示を出そうとした、瞬間。

 ティルの手元には、先端を鋭く尖らせた全長四○センチ程度の氷結晶が出来ていた。

 

「こんだけの時間があれば、基礎でも威力のデカイ魔術が組めるんだ~ぜっ!」

 

 ティルが手元に発生させた氷を”ヘクトグレイウルフ”に投げ飛ばす。

 その刃物を思わせる鋭利な先端が、”ヘクトグレイウルフ”の喉元に突き刺さる。

 悲鳴にもならない空気が抜けるような声を発して”ヘクトグレイウルフ”は絶命した。

 それを見届けたリオが、ユリアーヌスとアクセルを見やると既に戦いは勝利で終わっていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ