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第3話 新たな同居人

 裾を正して胸元を隠し頬を朱く染めながらソファに座り直し、自分の近くに立っているリオとシャロンを見据えて、今一番確認が必要なことを口にした。


「ここはどこ? あなた達はどなた? あ……日本語通じないかな? フー・アー・ユー?」


 リオはその少女の顔を改めて今、話しかけられるまでまともに見ていなかったことに気付いた。

 少女は透き通るような白い肌に肩まで伸ばしたストレートの黒い髪、唇は健康的なピンクで艶があり、瞳は夜空を宝石にしたような色をしていた。

 背負っていた時背中に感じた柔らかな温もりを思い出したリオは顔が徐々に赤くなるのを感じながら少女を直視出来ずに目を逸らしていた。

 その様子を一部始終見ていたシャロンがニヤリとヤラシイ笑みを浮かべていたが何も無い空中に視線を泳がせている可愛い愛弟子はそんな先生の『玩具見つけた!』的な表情に気付くことは出来るはずも無かった。

 シャロンが黒髪の少女に目を移すと首を傾げながら先ほどの質問の返答を待っている様子だった。


「今の感じだと言葉は通じるみたいだね? ここは私の工房……自宅兼仕事場だね。 そして私はシャロン、シャロン=マクレガーだ。 年齢は秘密(・・)だ」


 シャロンはウィンクをしてみせる。

 黒髪の少女は一つお辞儀をすると今度は未だに顔を背けているリオに移した。

 目線を合わせないリオを不思議に思ったのか頭に【?】を浮かべながら首を傾げる姿は世の男性を悶えさせること間違いなしだ。

 少女はリオが目を合わせないことで声を掛けることにした。


「日本語話せるんですね。 あなたのお名前は?」


 リオは自分が呼ばれていると理解したのか一瞬ビクッとした後まるで油の切れたブリキ人形のように顔を動かし少女を見やると真っ赤な顔で自己紹介を始めた。


「ぼ、僕はリオ、リオ=アストラーデ! 十四歳です! シャロン先生に錬金術を教えて貰っています!」


 一気に捲し立てるように自己紹介を言いきったリオはオーバーヒートした機械の様に顔から湯気を出しているように更に真っ赤になっていた。

 恐らく軽く酸欠も起こしていると思われる。

 そんなリオの様子をみていた黒髪の少女は『クスッ』と口元に手をやりおかしそうに笑ったあと、自己紹介を始める。


「自己紹介が遅れ失礼しました。 私は橘 郁美(タチバナ イクミ)、貴方達の言い方だとイクミ=タチバナ? 十五歳の中学三年生です。 ここは日本ではないのですか?」


 イクミと名乗る少女は自身が言う十五歳という年齢よりも随分と幼く見えた。 それこそリオの十四歳と同じか一つ下位にリオとシャロンは考えていたので少し驚いていた。

 日本人特有の幼く見える顔というのも一因ではあるが、更にイクミは日本人の中でも童顔の部類に入っていた。

 化粧を全くしていなかった部分も大きいのだろう。


「チュウガクサンネンセイ? ニホン?」

「あぁ……中学三年生って言うのは学生の学年を表しています。 日本というのは私がいた国のことです。 ここは見た所日本ではなさそうなので……」

「ここはウィンブロード大陸のレナス王国城下町だよ。 っていうか……イクミさんだっけ? 随分落ち着いてるね?」

「ウィンブロード大陸……レナス王国……全然知らない地名……。 ん~……たしかに落ち付いてるかもしれません……元々ココではないどこかへと何かどうしようもない力で飛ばされたい!って強く思っていたので……本当に飛ばされちゃうとは思わなかったですけど」


 イクミは自分でも今の異常な状態にも関わらず冷静に取り乱すことも無く対処している自分に驚いていた。

 色々なアニメや小説などを読んでいたイクミは”私ならこうする”や”最初取り乱して暴走するキャラは既に死亡フラグを抱えている”と考えていたのも大きかった。

 それに加えて異邦人が目の前にいるにも関わらず母国語で話が通じることが冷静になれる要因だと判断していた。


「あなたは何故ここに来たのか原因分かるかな?」

 シャロンの問いかけにイクミは考え込むが思い当たる理由も見つからず首を横に振った。

 自分が記憶している日本での最後の記憶を思い返してみる。


「学校が終わって友達と雑貨屋に寄り道してから夕飯のおかずの材料を買って、家に帰って夕飯を作って食べて、お風呂に入って湯船に浸かってたら寝ちゃって……そこからの記憶が無いです……」

「オフロ? ユブネ? 色々知らない単語があるけど、話しぶりからすると日常的な行動のようだしイクミさんの方から”こちら”に来たという線は考えにくいわね」


 イクミが何かに気付いたように顔をハッとさせて顔を少しずつ朱く染めていく。

 意を決したように小さな声で呟く。


「わ、私……見つけて頂いた時って……ふ、服は? この服は私が普段着ている物じゃないし……」


 その言葉を聞いたリオの顔がみるみる朱く染まっていく。


「ーーーッ! ぼ、僕は何も見てません!」


 リオの言葉を聞いたイクミも顔を真っ赤に染めて俯く。

 その様子を見ていたシャロンが愛弟子に助け船を出すことにした。


「まぁ~アレだ。 不可抗力という奴だ。 気にするな」


 色々と思うところもあるが気を取り直したイクミは当面の心配を聞くことにする。


「あの……私これからどうなるのでしょう……私の家には帰れるのでしょうか?」


 それを聞いたシャロンは申し訳なさそうに顔を俯くと現状分かっている範囲の説明を始めた。


「申し訳ないが現在、君がココに呼ばれた理由がハッキリしていないんだ。 というのも私の愛弟子であるリオが行った実験で魔方陣から突如として君が現れたんだ。 先の話だとイクミさん側からコチラに干渉した様な物は見受けられないから……その魔方陣とリオが拾ったという”何かの羽根”が要因として考えられるが、君を送り返す方法については皆目見当も付かない。 お詫びと言っては何だが君のここでの暮らしについては私が保証する。 この工房を自宅のように使ってくれても構わないし、食事についても用意する」


 今の自分の状況を一番理解している人が同じ女性ということと外で一人で生きて行くには中学三年生程度の知識しか持っていない自分には酷過ぎると考えシャロンの申し出を受けることにした。


「ご厚意に甘えさせて頂きます。 何もせずに置いて頂く訳にもいきませんので雑用なりなんなり手伝わせてください」

「しかし、コチラの手違いでイクミさんを呼び出してしまった手前気を使って貰わなくても……」

「大丈夫です。 それに私の国の言葉で”働かざる者、食うべからず”という言葉があります。 お気になさらないで下さい」


 こうして新たにイクミがリオとシャロンの錬金工房へ住むことになった。

 その経緯を殆ど言葉を発せずに見ていたリオは色々見てしまった手前、少し気まずいと思いつつ美少女との生活に若干の期待を実らせているのだった。


(少し落ち着いたら町を案内して、皆に紹介してあげよう。 ここの暮らしが少しでも楽しい物になるように)


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