第29話 パーティーの終わりと……
ステージ上では、前回に引き続き今回も優勝を果たしたリーガスに対して、トロフィーの授与行われていた。ちなみに、このトロフィーは錬金工房に作成依頼が来た物だった。対応したのはシャロンだったが、リオも少し手伝わされたので、なんとなく見覚えがある。
美男コンテストが終了した。しかし、『無事に』という訳にはいかなかった。美男コンテストが終わったというのに、美女コンテストが終了するまでの間は、美男専用席で経過を見ていてくれ、というのだ。
リオとティルは『また、あの席に座るのか……』と、少し涙が出そうになっていた。
仕方なく、係員に先導されるまま、美男専用席に戻ると、リーガスの席だけ、更に豪華な装飾を施されていた。タキシードの上からドレスを着ているような、そんなセンスの欠片も感じさせないが、豪華さだけは伝わる。そんな装飾だった。
リオとティルが『ホントに優勝出来なくて良かった……』と、大きな溜息を吐いていると、隣のビグルスは『あの席は……僕が座るべき席なのに!』とボソボソと呟いている、あんな席でも需要はある、ということをリオとティルは一つ勉強するのだった。
少しの時間を挟んで、美女コンテストの開票作業が終わったと、司会の青年より知らされた。
「大変お待たせ致しました! 美女コンテストの開票結果が出ましたので、美女席の五名に再度、ステージで並んで頂きましょう!」
イクミ達五名が、係員に先導されてステージ上に上がっていく。
横一列に整列した五名の表情は、それぞれ色々な感情が出ていた。自分が優勝することを疑わない者、興味が無い者、恥ずかしそうな者、既に諦めている者、楽しそうな者。色々な表情をした美女五名を前にして、司会の青年が進行を開始する。
「それでは、美女コンテストの結果発表に参ります! 投票総数1737名! 無効票47票! ちなみに無効票には、先ほどと同様に『私がステージに上がらないなんて有り得ません!』や『イクミは俺の妹!』などの票がありました。 今回は、前回のリオ=アストラーデの時と違い、しっかりと女性と認識した上での票ですので、後者の票はイクミ=タチバナの得票とさせて頂いております! それでは栄えある美女コンテスト優勝者は――」
ステージ脇からドラムロールが鳴り響く。リオは『さっきより勢いが無いような気がする……疲れたのかな?』などと考えていた。
司会の青年が長い長い貯めを酸欠の為、大きな呼吸音と共に終了して、優勝者の名前を告げる。
「――イクミ=タチバナ! 錬金工房に住む黒髪の美少女が、今年の美女コンテスト優勝の座に輝きました!!! おめでとうございまっす!!!」
会場からは大きな拍手と共に、声援が送られていた。
リオとティルは、顔を見合わせるとお互いに驚いた表情をしていた。
「優勝するかもと思ってましたけど、本当に優勝しちゃいましたね!」
「あの歌を聴けば、そりゃ優勝するぜ。シャロンさんも良かったけど、途中から司会と係員のショーになってたからな。しかし、こりゃ~ちょっと大変かもな……」
「ん? 何がですか?」
「だってさ、あの歌聞いただろ? しかも、これで優勝したってことは、見た目も歌も評価されたってことだぜ? ちょっとした騒ぎになるかもなぁ」
「たしかに……例年優勝者には、結構人が群がりますからね……」
「いや……例年の比じゃないだろ……下手すると、見世物屋から勧誘が来るかも」
「まさか……そんな……」
リオとティルが、視線をステージ上に移すと、既にトロフィーの授与を終えたイクミの周りには老若男女問わず、色々な人が群がっていた。イクミは恥ずかしそうにしながらも、丁寧に対応していた。
「な?」
「そうですね……」
色々なことに覚悟して対応しなければならない。リオは、一人考えていた。
「それでは、今年の美男美女コンテストは終了となります! 皆さま、長い間お付き合い頂きまして、ありがとうございました!!」
司会の青年がコンテストの終了を告げると、今年のダンスパーティーもメインイベントが終了した事と同義であり、思い思いに帰り支度する者も現れ始めていた。
リオとティルも、美男専用席から足早に離れると、イクミとシャロンの元に合流し、イクミに集まる群衆を抜けて、会場の隅まで逃げるように進むと、ようやく落ち着いた。
「改めまして、イクミ。優勝おめでとうございます」
「まさか優勝するなんてな! 驚いたぜ!」
「素晴らしい歌だったぞ。今度、工房で歌ってくれ」
「ありがとうございます。歌を歌うのは良いのですが、目立ってしまいましたね……」
恥ずかしそうに目を伏せるイクミを見て、シャロンが思いだしたように口を開いた。
「そう言えば、イクミは目立つのが嫌いだと言っていたな。しかし、歌っている姿は中々様になっていたぞ?」
「私は、こちらの世界では目立つことはしないように、していたのです。元々、居ないはずの人間ですし、ただ……ステージ上には強制的に連れていかれてしまいましたし……何かしなければイケないとなったら、思わず歌ってしまいました」
「あの歌は、やはり其方の世界の歌だったのだな」
「はい。あちらの友人とよく歌っていた歌です」
「まぁ~これで、イクミのことも色々な人に認知されたからな。色々と逆に動きやすくなったかもしれないぞ?」
笑顔でそう告げたシャロンは、表情を変えて『だが』と付けくわえた。
「出掛ける時は、今まで以上に注意が必要だな。美女コンテストの優勝者というだけで、寄ってくる男は今までの比では無い。気を付けなければいけないな」
神妙な面持ちで、四人で話をしていると、ステージ上から威厳漂う声が響いて来た。
「本日は、当学園ダンスパーティーにご来場頂き誠にありがとうございました。私、学園長よりこのダンスパーティーの閉会の挨拶をさせて頂きます――」
低いが良く通る声で、開会の挨拶同様に短い挨拶を話す学園長。
「――先ほどのコンテストを見ていると、盛大に盛り上がって頂けたのかと思います。それでは、以上で今年の王立魔術学園ダンスパーティーを終了致します。本日は、お越し頂きましてありがとうございました」
学園長が、軽く会釈をしてステージから退くと、代わりに先ほどの司会の青年がステージ上に上がっていた。
「帰りに馬車の手配が必要な方は、お近くの係員までお声かけ下さい! ――」
ステージ上で声を張り上げている司会の青年を見ていたリオは視線をイクミ達三人の方に移した。
「それじゃあ、帰りましょうか」
「そうだな、遅くなると職人通りの方まで人で溢れてしまうからな」
「このトロフィーは持って行ってしまって良いのですか?」
「それは毎年違うデザインの作ってるみたいだから、貰っちゃって良いんだぜ」
四人はそのような会話をしながら家路につくのであった。
その様子を遠くから見つめる一人の男性。ビグルスである。
(……美男コンテストでは、組織票の為、遅れを取ったが……住んでいるところは分かっているんだ、黒髪の妖精イクミ……君のことは、すぐに迎えに行くからね……)
ビグルスは四人の女性を侍らせながら、夜の闇へと消えていくのであった。