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第23話 コンテスト

 吹奏楽隊の奏でる清らかな調べも終焉を迎える。そして、それはリオとイクミのダンスが終わることを意味している。

 最後の音が、楽しい時間の終わりを告げた。二人は気恥ずかしそうに顔を見合わせては、顔を赤くしながらも、しっかりと結んだ手を離すことは無かった。リオはイクミの手を取り、二人を待つシャロンとティルのところに向かおうと、足を向けた。

 すると、会場内からは惜しみない拍手が送られた。もちろん、二人以外にも踊っていた人達はいた。それでも、二人は何故かとても恥ずかしくなって、逃げるようにシャロン達の元へ向かうのだった。

 

 見事なダンスを披露した者たちへの拍手が鳴り響く中に、少し周囲とは違った雰囲気を出す一人の男性がいた。彼は細身の体ながらも、鍛えられていることを感じさせる佇まいをしており、美麗と言っても差支えがない顔をしていた。彼の周囲には、彼を慕う女性四人が囲い、それぞれに彼の隣に立つ為に牽制し合っている。しかし、彼が見つめる先には、先ほど見事なダンスを披露した黒髪の少女がいた。

 

 (美しい。まるで妖精の様だ。あのような子供には勿体無い。私の物にしたい……どんな手を使っても!)

 

 彼が浮かべたイヤラシイ微笑に、彼を囲んでいた四人は何を勘違いしたのか、頬を赤らめて溜息をつくのだった。

 

 

 リオとイクミが、恥ずかしそうに真っ赤にした顔を俯かせて、シャロン達と合流する。

 すると早速リオには、シャロンとティルからの冷やかしが待っていた。

 

「リオちゃ~ん。ちゃんと踊れましたねぇ~。姫様(・・)の相手を無事に果たすことが出来てよかったですねぇ~」

「ホント、ホント! 姫様(・・)に何か粗相をしちゃったらギロチン台で鈴の音を聞くことになるぜぇ~って心配しちゃったぜ!」

 

 リオがイクミをダンスに誘った時に使用した『姫様』をネタに散々からかわれることになってしまった。

 リオへの冷やかしが、ある程度遊ばれた後、落ち付いてくると、ダンスを踊ることを控えて、食事や談笑をすることにした。

 シャロン曰く『今日は、家に帰ってもご飯なんて作らないからな!今の内に、お腹いっぱい食べておくぞ!』と普段も碌に作らないから、冗談なのか本気なのか分からない発言をしていた。しかし、その後一瞬いなくなったかと思えば、テンコ盛りにされた皿を持って現れて、『本気だったのか……』と三人に溜息を吐かせていた。

 さすがに、シャロンが持っているテンコ盛りの皿を見た周囲の男性達は、あの状況で踊りに誘う訳にはいかない。といった感じで、狙っているのか分からないが良い『男避け』になっているようだ。

 シャロンとは違って、イクミには多数の男性達が誘いに来たが、イクミとしては元の世界でナンパなど日常茶飯事だったということで、やんわり、それでいて飄々(ひょうひょう)と断り続けていた。

 リオとティルは、共通の友人や知人が代わる代わる現れては、やれ『あの黒髪の美少女は誰だ!?』やら『相変わらず色んな意味で企画外れだな、お前の先生』と、色々と積もる話に花を咲かせることになった。

 この王立魔術学園には、リオも通っていたことがある為、ティルの同級生の中には共通の知り合いが何人かいるのだ。

 

「懐かしい顔にも何人か会えました。何度かティルの手伝いで、学園には来ることはありますけど、この広い敷地の中じゃ滅多に顔を合わせることもありませんからね」

「あぁ、あいつらには、今日リオが来ることを話したんだけどさ、早く会いたいって五月蠅かったんだぜ?」

 

 リオは手に持った果実ジュースが入ったグラスを傾けて、グラスに移り込んだ自分を見つめると、少し悪戯っぽい顔をした。

 

「途中で辞めてしまった僕に付き合ってくれるのは、変わり者のティルだけかと思ってましたよ」

「お前なぁ~、学園辞めたくらいで友達辞めるような奴は、最初から友達じゃなかった奴らだぜ。家まで上がり込むのは確かに”変わり者”の俺くらいかもしれないけどな」

 

 リオとティルは顔を見合わせると、ニシシとお互いに笑い合うのだった。

 

 

 ダンスパーティーの時間も三分の二が過ぎた頃、ステージ上に一人の青年が姿を見せていた。

 少し芝居がかった仕草で、お辞儀をすると、今までの雰囲気を一気に変えてしまうような、おどけた様子で司会を始める。

 

「レディース、ア~ンド、ジェントルメン! ボーイズ! アンド、ガールズ! 諸君! 今宵は王立魔術学園ダンスパーティーにご出席頂きありがとうぅございぃます!」

 

 芝居がかっているのは、仕草だけでなく、台詞回しまで芝居がかっていた。

 彼が登場して司会を始めてから、会場全体の雰囲気は、今までとは違う軽くポップなノリへと変わっていた。

 

「これより! 毎年恒例! 王立魔術学園ダンスパーティー来場者全員参加による! 美男美女コンテストの開催だ!」

 

 リオは、自分の耳を疑った。確かに、このダンスパーティーでは美男美女コンテストが毎年恒例で行われている。しかし、”全員参加”というのは、リオの記憶では初めてだった。

 

「ちょ、ちょっとティル? 全員参加って?」

「ん? 聞いた通りだろ? さすがに全員でステージに出て、自己紹介することは無いだろうから、きっと――」

「今回は! 先ほども言った通り全員参加! しかし! さすがに全員で自己紹介して貰う訳にはいかない! そこで! ダンスで会場を沸かせてくれた人たちから、選りすぐりの美男美女を! こちら運営側の独断と偏見で選ばせて頂きました!!!」

「――ってことらしいぜ」

「分かりました……全て理解しました。 そして、このままだと――」

「まずは男子の部だ! 前年の優勝者~リーガス=アレドロ! 最初の曲で観客を沸かせた美女の相手役~学園生のティル=ガーラント! 二曲目では、黒髪の美少女と共に観客に溜息の嵐を起こした~元学園生のリオ=アストラーデ! 開始前から女性達に囲まれている~ビグルス=カンピオレ! その甘いマスクは、女性の毒か!? スーヌト=スピータジオ! 以上の五名へ投票を行って頂きます! 今回は男性女性関係無く! どちらにも投票して頂きますので! よろしくお願い致しぃまっす!

「――ってことになるんですよね」

「ってか俺が美男って、あきらかにシャロンさん効果だぜ……ステージ上がりたくねぇ……」

 

 そんなことを二人が話していると、係の人と思わしき人が、迎えにやって来た。ささやかな抵抗も空しく、ステージ上に担ぎあげられてしまった。

 

 ((なんでこんなことに……))

 

 リオとティルは、ゲンナリした様子でステージ上に立たされていた。

 

 (前回に引き続き今回も優勝は頂く! そうすりゃ、さらにモテモテだ!)

 (こんな物で優勝したら、もっと女性達に囲まれてしまうじゃないか……罪なオ・ト・コ!)

 (あの子供も選ばれたのか……ここで私が優勝すれば、あの妖精にもアピールになるな……とりあえずは正攻法で行くか)

 

 それぞれの思惑が渦巻く美男美女コンテストにリオとティルは巻き込まれていくのであった。


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