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第21話 ダンスパーティーの始まり

 ダンスパーティーに参加するすることが決まってから、錬金工房の三人と幼馴染のティルは何かと大忙しであった。

 まず、リオとティルも参加するからには、新たにタキシードを用意する必要があるのだ。彼らは第二次成長期の真っただ中であり、身長や肩幅が大きく変化する時期だ。当然着る物もそれに合わせて少し大き目で購入しておくのだが、今回ばかりはそういう訳にもいかない。なぜなら、今回は女性を伴って参加することになっているのだ。エスコートする男が、ダボダボした服では格好がつかない。

 リオは、個人的に対応した仕事で、ちょこちょこ貯めていた秘蔵のへそくりを使用し、それなりのタキシードを用意した。購入にあたっては店員から『美少年! 美少年よ! この前は美女が二人! 今日は美少年! 私オカシク、ナッテ、シマイソウ』と既にオカシクなっている人が対応してくれたのだが、何故か『少しで良いから! コレ着てみて下さい!』と、最初にドレスを持って来られたり、何故か燕尾服を着せられたりと、大変な目に合わされてしまった。だが、その苦労も『割引とオマケ』が付いたことで、最終的にはホクホク顔で帰ることが出来た。オマケとして貰ったのは片眼鏡(モノクル)だ。店員が『美少年に燕尾服と片眼鏡! 極み! 極みですわ!』と、言っていたが理解出来なかった。

 ちなみに、ティルはと言うと、同じ日の別の時間、同じ店で、同じ店員から購入したのだが、普通に薦められて、普通に購入したのだった。

 

 イクミは、後で少し冷静に考えてみたらダンスパーティーは”初めて”だった。踊りというと、学校で行ったキャンプファイヤでマイムマイムくらいしか踊ったことが無い。このままでは、ダンスパーティーで壁の花になるしか無くなってしまう。

 そこで、シャロンに教わることにした。さすがに男性陣から教えを受けるのは、気が引けたのだ。

 シャロンは踊りも完ぺきであり、一人でステップをして見せて貰っただけなのに、イクミは目を釘付けにされてしまった。

 基礎の後は、シャロンに男性役をやってもらいながらのレッスンだ。女性が見てても惚れ惚れするシャロンの容姿を至近距離で見せられ続けるのである。普通の趣向を持っているイクミでも、目覚めてはイケナイ物に危うく目覚めてしまいそうなほどだ。

 

 そして、彼ら四人はダンスパーティー当日を無事(?)に迎えることが出来たのだった。

 

 

 ◆

 

 

 夕焼けの朱に染められたレナス城下町は、王立魔術学園のダンスパーティーに便乗した露天が軒を連ね、ちょっとしたお祭り状態であった。

 学園に招待されている人達は、皆思い思いの一張羅に身を包み、正門から豪奢なエントランスホールを経て、会場となっている食堂まで続く広い廊下に敷かれたレッドカーペットの上を進んでいく。

 学園祭というシャロンの言葉とは、少し重みが違う雰囲気を味わいつつ、イクミは三人と共に学園の正門をくぐった。

 シャロンが三人の前を一人で歩いていこうとすると、途端に周囲を男性陣に囲まれてしまっていた。その金色の絹糸のような髪を一つにまとめ上げ、普段はその長い髪に隠された滑らかな(うなじ)を露わにしている。相も変わらず、自己主張の激しいプロポーションを収めるドレスは、赤い一枚布で作られたスレンダーラインのドレスだ。彼女の官能的な魅力を余すことなく引き出している。そんな彼女を見たら、(たちま)ち男が群がるのも仕方が無いという物だ。

 その状況に困った顔を浮かべるシャロンに、救いの手を差し伸べたのは、なんとティルであった。

 ティルは、焦ったような顔を浮かべると、意を決したようにシャロンと男たちの間に割って入っていく。

 

「か、彼女は! き、今日は俺がエスコートしてるんだぜ! お、お引き取り、ねが、願おう!!」

 

 ティルは叫ぶように告げ、シャロンの手を強引に取って人垣を抜けると、早足にレッドカーペットを進んで行ってしまった。

 

「ティル君、カッコイイです!」

「ティル……ここで男を見せましたか。”根性無し”は返上ですかね」

 

 イクミは、リオに微笑みかけて先を促した。

 

「私達も行きましょう」

 

 リオは、少し考えて眼鏡を掛け直すような仕草をする。が、片眼鏡の為、空振ってしまった。恥ずかしそうに空中を彷徨わせた手で頭を掻くと、意を決したように、でも少しおどけた用に、深く会釈をするとイクミに告げた。

 

「私達も参りましょう姫様(・・)。遅れ馳せながら、この不肖(ふしょう)リオがココより先のエスコートを務めさせて頂きたいと思います」

 

 リオは、台詞を終えると真っ赤な顔を起こして、白い布手袋をつけた左手を差し出した。

 イクミは、少し恥ずかしく感じたが、笑顔を浮かべると、その左手に”そっ”と手を乗せて、軽く会釈をする。

 

「こちらこそ、よろしくお願いします。リオ()

 

 イクミは、差し出された左手から、リオの左肘に手を移した。

 少しギョッとした様子のリオを見て、イクミは悪戯な笑顔を浮かべて、告げる。

 

「さっ、行きましょう。リオ様」

「は、はい!」

 

 こうして、四人のダンスパーティーは幕を開けるのであった。

 

 

 ◆

 

 

 リオは、イクミをエスコートしつつ、学園の中を進んで行った。

 以前、イクミを連れて来た時とは雰囲気も随分と変わった光景に、不思議と気分が高揚して行く。

 ステンドグラスから差し込む光で彩られていたエントランスホールは、日暮れと共に姿を変え、現在ではコレでもかと大きなシャンデリアの蝋燭(ろうそく)一本一本に火が灯され、その豪華さを更に引きたてている。

 シャンデリアの蝋燭は、工房に以前発注が掛かった物で『赤ではない色の炎を出す蝋燭』という物であった。このシャンデリアに使用されている蝋燭が灯す光は、青であり、蝋燭に細工をした”仕掛け”により時折、火花のような(きらめ)きを放つのである。

 廊下も隅々まで綺麗に掃除され、おそらく学園の生徒が作成した優秀作品であろうか、廊下の壁に飾られている。それらにも、魔法的な効果が使用されているようで、見る角度によって絵が変わったり、色が変わってみえたりするのだ。

 それらに楽しませて貰いながら、イクミと共にダンス会場である食堂に辿り着くと、既に結構な数の人が集まっていた。

 それぞれに知り合いを見つけては、固まって挨拶や格好、世間話に花を咲かせている。

 イクミが感嘆の声を上げた。

 

「うわぁ~凄い数の人ですね。いつも、こんな感じなんですか?」

「ええ。今回は開始までの残り時間を考えると、少し多いかもしれませんが、大体これくらいですね」

 

 学園の食堂は、総勢一○○○名弱の生徒を一斉に集めて椅子に座らせても、かなりの余裕がある作りである。現在、リオが見渡した限りでも一二○○名前後の人が集まっている。数が合わないようなイメージも受けるが、現在裏方を行っている生徒もいるのだ。ダンスパーティー自体は二日間に渡って行われていて、今裏方を行っている生徒は明日参加し、そして今日参加している生徒は明日は裏方を行うという形だ。

 ダンスパーティーの招待チケットは生徒一人あたり最大でも四名までであり、実際に誘わない生徒も出てくる為、毎年一五○○から一六○○名くらいで収まるのである。

 

 視線を動かすと、壁際の柱の陰に、リオは親友と先生の姿を発見した。

 イクミと共に二人と合流する為、近づいて行くと、ティルもリオ達に気付いたのか、軽く手を上げて応えていた。程無く、二人は合流を果たした。

 

「いや、参ったぜ。 シャロンさんの人気は、俺の予想の遥か上を行っていたぜ」

「まさか、こんなことになるとは……ティル少年には迷惑を掛けたな。だが、先ほどの正門での啖呵は中々格好良かったぞ! 女冥利に尽きるという物だ」

「ティルは男を上げましたね。僕はまだまだですけど」

「ふふふ、私のエスコートを立派にして下さったじゃないですか。凄く紳士的でしたよ? 私の歩調に自然と合わせてくれたりとか満点です」

 

 四人はパーティーの開始まで、雑談をしながら過ごすことにした。

 本当なら、ティルとリオの共通の友人でも見つけて挨拶をするのが、普通なのだろうが、シャロンという『色んな意味で台風の目』を連れて歩く危険を冒す勇気が、二人には無かったのである。

 

 しばらくすると、先ほどより人の数が一.五倍くらいに増えたところで、ステージ上の吹奏楽隊が音楽を奏で始める。ダンスパーティーの始まりを告げる音楽が鳴り響いた。


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