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第20話 結果報告と買出し

「――という訳で、先生とイクミをダンスパーティーに招待することが出来ましたよ。根性無しの親友ティル殿」

 

 現在、リオは酒屋を営むティルの実家の二階にある、彼の自室で昨夜の作戦結果の報告を行っている。

 ティルに『根性無し』と言われたことを柄にも無く、根に持っているような態度を取ってはいるが、実際は別に気にもしていない。いわゆるネタという奴である。

 その辺りは長年の付き合いというところで、『嫌味風の冗談を言われた』と認識しているティルは、そこには特に思うところも無く、『シャロンをダンスパーティーに連れ出すことに成功しました!軍曹殿!』と脳内変換されているのである。

 ちなみに、レナス王国は王政だが、しっかりと国が保有する軍隊を持っている。その階級制度については、定期的に行われる避難訓練などで耳にすることも多く、ティルが聞いたことがある階級は『二等兵』『一等兵』『上等兵』『兵長』『伍長』『軍曹』までである。実際は、その上にも多くの階級が存在するが、一般の人が聞く事はあまり無い。

 リオの報告にご満悦のティルは、もし可視化できるのならば、彼はお花畑の中を何故か裾が無駄に長い装飾の多いピンクのドレスを着て、走り回り、花に止まった蝶に話しかけては微笑みを浮かべて話しかける様子が見えただろう。

 

「聞いていますか? ティル?」

 

 リオの呼びかけにハッとした顔と共に現実へ戻ってきたティルは『こうしちゃ居られない!』とばかりに、衣装ダンスをひっくり返し始めた。一張羅だと思われる服を出しては、『ダメだ!』という言葉と共に床へ投げ捨てていく。一人運動会を始めてしまった。

 

「お~い。ティ~ル~。目の前にいるのに、何故か迷子になった気分だよ僕は……」

 

 リオの呼びかけに反応したのか、いきなりティルが振り向くと、リオの両肩を掴んで涙を浮かべ始めた。

 

「心の友よ! この感謝は一生忘れないぜ! いや! むしろ忘れることなど、出来ようはずも無いぜ!」

 

 何故か芝居がかった台詞を、声高に発し始めたティル。

 それに付いて行くことが出来ないながらも、凄く感謝されていることには、なんとなく理解できるリオ。

 リオは、暴走するティルの対応をしながら、階下から『ドスッドスッ』と恐怖の女帝が来訪を告げるカウントダウンの音に、一気に体温が下がるのを実感していた。

 程無くして、女帝は来訪した。部屋の状態を一瞥した後、何物にも抗うことが出来ない眼光をティルに向ける。完全に『蛇に睨まれた蛙』、いや、むしろ『ドラゴンに睨まれた子羊』と言った状態であった。

 

「コラッ! ティルッ! あんたウルサイよッ! 商売の邪魔するんだったら、外に出てなッ!!」

 

 恐怖の女帝(ティル母)は、独特の(なま)り混じりの言葉でティルを叱りつけると、大岩のようなゲンコツを一撃浴びせる。頭から煙を出して床に沈むティル。その様子を『ガタガタ』と震えながら青褪めた顔で見守るリオ。

 

「この散らかした服を晩御飯までに片さないとッ! 今夜は晩御飯抜きだからねッ!」

 

 先ほどのダメージの所為か、反応を返せないティルに苛立ちを覚えた女帝は、再度確認を取る。

 

「返事はッ!?」

 

 その一言に込められた怒気に対し、条件反射的に反応したティルは、飛び起きると土下座の形に収まっていた。

 

「「すぐに片付けます! 静かにしてます! 申し訳ありませんでした!」」

 

 隣で同時に発せられた声にティルが顔を上げると、何故かリオまで同じように土下座で謝っていた。

 

 

 

 リオは、散らかされた服を一つ一つ丁寧に畳んでは、ティルに手渡していく。ティルは渡された服を選別して、衣装ダンスの中に片付けるという構図だ。

 普段から家事を行っているリオの手際は流石で、”あっ”という間に服は畳まれてキレイに積まれて行く。むしろ、衣装ダンスに片付けているだけの、ティルの方が遅いくらいである。

 

「相変わらずティルの母さんは……怖いですね……」

「うん……たぶん、ドラゴンにもゲンコツで勝てるぜ……」

「僕、何もしてないのに……思わず謝ってました……」

「俺が散らかしたのに、手伝わせちゃってゴメンな……」

 

 ティルの謝罪に、リオは微笑みを浮かべて首を横に振る。

 

「ティルのお陰で『厄介事』に巻き込まれるのは慣れてますから。それより、何をあんなに衣装をひっくり返して焦ってたの?」

 

 リオの疑問に『あはは』と笑いながら、頭を掻くと少し悩んだ顔をしながら答えた。

 

「いやさ、ダンスパーティーに何着て行こうかなぁ~って思ってさ」

「それは見てて分かりましたけど、学園でやるパーティーなんですから、ティルは制服でも良いじゃないですか? 僕はタキシードで行きますけど」

「お前なぁ~……シャロンさんが、どんな格好で来るのかは、普段一緒に住んで暮らしてるリオの方が想像しやすいだろ? まして学園の関係者だけとは言え、外部の人も大勢来るんだ。俺のライバルは大勢いるんだぜ? そこに制服で『一曲お願いします』なんて言っても、傍目には子供の戯言に付き合うセクシーな大人にしか見えないだろう?」

 

 リオは、その豊富な演算能力で、ティルが言う情景を想像して、納得したように大きく頷いた。

 

「そうですね。先生のことですから、大きな布一枚で出来たような、胸元を大げさなくらいに見せたドレスを、着てくるに違いありませんね。でも、そんな先生の格好に、釣り合う格好というのは難しいと思いますけど……」

「だから悩んでるんだぜ……」

「あまり悩んでも仕方ないですから、とりあえず制服が却下なのは分かりましたんで、僕と同じようにタキシードで行くのが無難じゃないですか?」

「やっぱり、そこに落ち付くよな……」

 

 大きな目標の達成と共に、大きな妥協を一度に体験することになったティルであった。

 

 

 ◆

 

 

 商店街にあるドレスを専門に扱う店に、シャロンとイクミは来ていた。

 イクミはというと、リオからデートのお誘いかと思われた物が、実は『家族』での参加希望だったという事実に落胆もした。しかし、初めてのダンスパーティーということで、それはそれで楽しみということも有り、気持ちは前向きに切り替わっていた。

 シャロンは、未だに『リオの根性無しぶり』に、イクミへの謝罪の気持ちが抑えられず。他のことでも使うことになるかもしれない。という二つの理由により、少し高めのお店で、イクミにドレスをプレゼントすることにしたのだった。

 

「しかし、女の子をデートに誘うのに、親同伴とは……なんとも情けない弟子だ……」

「ん~……女の子をデートに誘うというよりは『家族で参加したかった』ということだと思いますよ」

「そうか……だとしても、まだまだ『子供』ということか」

「ふふふ、可愛いじゃありませんか」

 

 リオについての話が区切りをついたところで、話はダンスパーティーの内容に移っていった。

 

「ダンスパーティーと言っても、どういった物になんですか?」

「ん? なぁに、学園が開催する物だ、あまり格式張ったものじゃなくて、学園の食堂の中央を空けて、周りに立食用のテーブルが並んでてな。奥のステージで学園の生徒の演奏が行われる感じだ。あとは毎年恒例の美男・美女コンテストとか、有志で何か芸を行う者がいたりと、色々だ。結局最後は、どんちゃん騒ぎになってしまってな。ダンスパーティーという名の学園祭だよ」

「美男・美女コンテストですか……シャロンさんが出場したらコンテストにもなりませんね」

「そんなことないぞ。何より私も歳だからな、イクミが出たら敵わないさ」

「私は、そういうのには出ませんよ。目立つの苦手なので」

「勿体無い」

 

 そんな話をしながら選ばれたドレスは、イクミの物は店員の女性が力強く押す水色を基調としたショートラインのドレスである。

 イクミとしては、少し子供ッポイと感じていたが、店員の女性曰く『あなたは自分の魅力が分かっていない。あなは永遠の”妹”です!』とよく分からない事を力説されてしまい。結局、イクミが折れる形になったのだ。

 シャロンのドレスは、スレンダーラインのドレスで、赤い布一枚から作られた物だ。『これでもか!』とシャロンのセクシーラインと胸の谷間を強調するドレス姿を見た店員は『お姉さまと呼ばせて下さい!』と、イクミの時と同じように意味の分からないことを口走っていた。

 何故か気分を良くしている店員に二割も値引きをして貰ったので、二人も気持ち良く購入することができた。

 帰り際には、店員に『またお越しくださいませ! 本当に! 本当にお願いします! 買い物なんてしなくても良いので、ただ来るだけでも結構ですから!』と見送りの言葉を貰い。『随分と力強いリピーター獲得方法だな』などと、話しながら店を後にするのだった。


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