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第2話 錬金術の力

 リオは現在自分の置かれている状態を、冷静且つ的確に分析しようと、脳内演算能力を全力投入していた。

 しかし、リオも色々な意味で初めての体験の為、自分で感じている以上に脳内はパニックに陥っていた。

 それこそ『昨日の晩御飯は何だったっけ?』から『今の政治体制についての批評』まで様々なことが頭の中を駆け巡っていた。

 混乱する頭の中で、唯一発生した建設的な考えを実行に移すことにした。

 

(とりあえず女の子を起こしてみなきゃ!)

 

 力無く倒れ掛かっている女の子の肩を揺すって声を掛けてみる。

 

「君! 大丈夫!?」

 

 しかし、女の子は目を覚まさない。仕方が無いので、呼吸を確認して生死の判別をする。

 リオは女の子の下から這い出ると、自分が纏っていたローブを脱いで女の子に被せてあげた。

 視界から自分を惑わせる最大の要因であった物を隠すことで、少しずつ冷静さを取り戻していく、リオはティルに状況の確認と今後の行動について話をすべく話しかけた。

 

「ティル、とりあえず実験は中止!」

 

 ティルはというと、自習室の壁を背にして座り込んで目を丸くしている。その足は、魔方陣と少女から少しでも離れることを望むかのうように床を蹴っては空を切っている。

 声を掛けられたことにも気付かず、自分の描いた魔方陣とリオにローブを掛けられた少女を、交互に見やって怯えている。

 

「ティル! しっかりして!」

 

 やっと声を掛けられたことに気付いたティルは、目をリオに向けて首が()ぎれんばかりに頷いた。

 

「とりあえず実験は中止。 これについては後日やり直すことにしよう。 この女の子だけど怪我は無さそうだ。 気絶しているだけだとは思うけど、色々なことを踏まえて先生の所に連れて行こうと思う。 錬金術と魔術の実験中で起きた事だし、先生なら何か知っているかもしれない」

「お、おう! ここの片付けは俺がやっておくから! リオは早く先生の所に女の子を連れて行け!」

「うん! ここは頼んだよ!」

 

 リオは女の子を背負うと、先生の工房まで走り出した。

 途中、学園の生徒や町の顔馴染みから何やら声を掛けられていたようだが、リオの耳には自分の鼓動以外聞き取ることは出来なかった。

 先生の工房に到着して、いつものティル宜しく扉を跳ね開けると、シャロンが錬金術の書物を開きながら目を丸くして驚いていた。

 

「どうしたんだリオ? 君らしくないな、そんなに急いで扉を開けるなんて……ん? その背中の子はどうした?」

「ゼェ……ゼェ……こ、この子のことで……せ、先生に相談があります!」

「とりあえず落ち付け。 水でも飲んで息を整えるんだ。 ほら……さっき作った蒸留水が冷やしてある。 飲め」

 

 リオは女の子を工房の猫足ソファに寝かせると。 シャロンからフラスコに入ったままの蒸留水を受け取った。 コップに移さない辺りがシャロンらしい大雑把な性格を表している。

 リオは一気に蒸留水ををあおると、息を整える為に深呼吸を何度か繰り返し息を整えていく。

 

「あ、ありがとう……ご、ございます……」

「それで? 何があったんだ? たしか今日はトラブルメーカー・ティルの自由研究という名の厄介事を片づける日じゃなかったか?」

 

 シャロンのティルに対する批評を聞いて、苦笑いしつつも説明の為に考えを軽く纏める。

 

「凄い言われようですね……えぇ、今日ティルと学園の自習室で先に説明しました、魔力カンテラの実験をしていました。 その準備中に魔方陣が暴走して、この女の子が光の中から現れた為、実験は中止し女の子の容体も気になるので、結果の原因を確認するには先生の知恵を借りなければ無理だと思い、急ぎ連れて帰って来ました」

「魔方陣が暴走? ティルが描いた魔方陣が暴走するとは考えにくいが……何か他の要因があるんだろう?」

「えぇ……ティルが描いた魔方陣は教科書通りのキレイな物だったので、魔方陣その物に原因があるとは考えられません。 原因は恐らく”何かの羽根”です」

「”何かの羽根”? どういうことだ?」

「ティルと学園の門の前で待ち合わせをしていた時に、空から舞い降りて来た一枚の羽根です。 錬金の材料になるかも……と、懐に入れておいた羽根が、実験中に魔方陣の上に落ちてしまったのです。 魔方陣と羽根が接触した時に、魔方陣の暴走が起きました」

 

 シャロンはメガネを掛け直しながらブツブツと何か呟き出す。 シャロンのいつもの癖である。

 考えが纏まったのか、シャロンは顔を上げると自分の考えを話しだした。

 

「予測の域を出ないけど、その羽根に何かしらの効果があったのだろう。 それが魔方陣と反応して、あの女の子を”呼び出した”もしくは”作り出した”というところだろうな」

「作り出した?」

「まだ話していなかったけれど”ホムンクルス”っていう錬金術で作る人間があるんだよ、ただ世界的に成功させたのは大昔の錬金術の始祖と言われる人だけで眉唾も良いとこなんだけどな。 物好きな錬金術師は”ホムンクルス”のみの研究をしてる人もいるよ」

 

 リオは眉を顰めて、少し俯くと心のモヤモヤした気持ちを吐露した。

 

「それは……いろいろ問題がありそうな研究ですね。 神をも恐れぬ行為って感じがします」

「そうだな。 ただ今回の事例は恐らくもう一つの可能性である”呼び出した”だ」

 

 シャロンはメガネを掛け直して断言した。

 

「それは何故ですか?」

「錬金術の始祖が行った”ホムンクルス”の精製は小さなフラスコの中に出来た小さな人間だったそうだ。 しかもフラスコは密封を保たなくてはならず、フラスコから外へ出すと苦しみだしてすぐに死んでしまったそうだ。 この子は空気に触れているし、しかも我々と同じ等身大だ。 書物で掛かれている”ホムンクルス”とは別物と考えた方が良い。 それに今回、魔方陣を使用しているだろう? 本来、魔方陣というのは異界の神の力を使って事象を引き起こす切欠になっている。 その羽根の効果でどこかの異界の女の子を召喚してしまった……というのが予想されるな」

「ということは……この女の子は神様とか悪魔かもしれないのですか!?」

 

 リオは驚愕し、先ほどまで背負っていた黒髪が美しい眠れる少女を見やり俯いた。

 

「その可能性もある。 もしかしたら我々とは違う世界の”唯の人間”かもしれない。 それはこの子が目を覚まさないことには解けない問題だな」

「目を覚ましても言葉が通じない可能性も相当に高いですよ?」

「そうだな……その時はこの工房で面倒見ながら言葉を覚えて貰うしかないな……どう転んでも錬金術で発生したことなんだ責任は取らねばな」

 

 シャロンもまさか冗談で言った、弟子の失敗の尻拭きをすることになるとは思っていなかったが、何かと優秀な弟子の久しぶりの問題発生に少しワクワクしているのだった。

 それこそ入門当初は何かと失敗が続いて、混ぜてはいけない薬品を混ぜて爆発させてみたり、貴重な素材を間違って捨ててしまったり等ということがあったが、それも最近ではかなり数を減らしていて、出来の良い弟子に鼻が高くもなるが、少し寂しさも感じているシャロンだった。

 

「ん……?」

 

 リオとシャロンの会話が終わったとほぼ同時に、黒髪の女の子が目を覚ました。

 現在の状況が把握出来ないのか、周囲を見渡しては首を傾げている。

 今着ている服の下が裸だと分かると、裾を正して胸元を隠し頬を朱く染めながら、自分の近くに立っている二人の人物を見据えて、言葉を口にした。

 

「ここはどこ? あなた達はどなた?」


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