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第19話 お誘い

 ティルが帰って一時間程が経った頃、シャロンとイクミが日用品を籠いっぱいに詰め込んで帰宅した。

 ちなみに、午前中に出掛けて帰宅するまで約六時間である。移動手段が徒歩しかない状態で、細身の二人のどこにそんな体力があるのかと、リオの思考は奪われしまう。

 ダンスパーティーの件については、晩御飯の時にでもサラッと話してしまうのが一番だろうと考えた。チケットは胸ポケットに折りたたんで入れてある。

 

 なんだろうか、ただ『学園のダンスパーティーに一緒に行こう』と誘うだけなのに、ティルが『デート』などと言う単語を使う物だから、変に意識してしまう。

 いつも通り猫足のソファに腰かけて、読みかけの本を読んでいるだけなのに、先ほどからやけに落ち付かない。何度も足を組みかえたり、解いたり、メガネを拭いてみたり、本の(しおり)を何度も差し替えてみたり。とにかく落ち付かない。

 そしてリオは、落ち付かない理由が分かっているのに、問題を先送りにしたくて堪らないという、なんとも非生産的だと分かっているのに、行動出来ない。論理的矛盾に苦しみ続けることになるのだった。

 

 体感時間的に二日は経過したような二時間が過ぎて、やっと晩御飯の時間になった。

 今日の献立は、イクミが市場で行商人から買ってきた『醤油』と『味噌』という変わった調味料を使った食品が並んでいた。

 まずは『醤油』と『ショウガ』を使ったアモーレ豚の肉を炒めた『ショウガ焼き』というステーキ。

 次に、ホワイトラジィと、表面が紫で中が白っぽい野菜のオウバーンジを使用した『浅漬け』。

 そして、『味噌』を使用した。赤茶色いスープに、細長く切ったホワイトラジィが入った『味噌汁』というスープ。

 その脇には、サマーライスがある。

 

「今日は、『純』和風にしました。みなさんのお口に合えば良いのですけど、『味噌』や『醤油』は始めてだと少し味わいに違和感があるのもしれません」

「イクミが作る物に間違いはない! この私がホワイトラジィを好物にする程だぞ! なんの心配もないさ!」

「そうですよ。それにこの『ショウガ焼き』というステーキ……香りが素晴らしいです! 早く食べたい!」

 

「それでは、頂きましょうか」

「「「いただきます」」」

 

 相も変わらずシャロンとリオは凄い早さで食べ始め、イクミは少し涙を浮かべながら味噌汁を啜っていた。

 途中、シャロンが『朝漬けというのに晩御飯に出すのか?それでは浸け過ぎではないのか?』という疑問を口にし、イクミが『朝に浸けるのではなく、浅く浸けるのですよ』と説明をしたら、少し顔を赤くしてから、恥ずかしさを紛らわす為に、リオへ八つ当たりを始めた。

 このままの流れで『ダンスパーティへ行きましょう!』などと言えば、シャロンは断りそうだし、冷やかされて話その物がオジャンになりかねない。

 リオは途中から、シャロンの機嫌を取ることに終始してしまった。

 晩御飯も食べ終わり、シャロンの機嫌も治ったところで、前もって『魔道具 冷蔵庫』の奥に仕込んでおいた。リオ特性『果物ゼリー』(なかなか固まらず苦戦した)をデザートとして二人に出して、最後のご機嫌取りである。

 イクミからも好評を得て、シャロンもゼリーと果物の甘さに表情が(とろ)けたのを確認すると、リオは遂に話を切り出すことにした。

 

「実は、今日ティルが昼間、ココに来たんですが良い物をくれたんです」

「ん? なんだ?」

 

 リオは(おもむろ)に胸ポケットからチケットを取りだして、二人に見せる。

 

「が、学園で毎年『白葉』の季節の初めに開かれる。ダ、ダンスパーティーです!! 良かったら一緒に! と思いまして……」

 

 徐々に声が小さくなるリオとは裏腹に、イクミの顔はどんどん輝くような、憧れの物に出逢ったような顔へと変化していく。

 そして、その様子をニヤニヤ顔をしながら、頬杖をついて見ているシャロンという構図である。

 

「その二枚(・・)のチケットで二人で行ってきなよ。 良いねぇ~若者は~青春だねぇ~」

 

 (やはり……冷やかされましたか……ん?二枚(・・)?)

 

 ゆっくりと視線を自分の手元に落とすと、リオは驚愕した。

 

 (二枚しか無い!)

 

 慌てて、自分の胸ポケットを探ると、ポケットの淵に引っかかっていた『もう一枚のチケット』を取りだして、一言付け加える。

 

「えっと……先生と三人で」

 

 すると、その言葉を聞いたイクミは輝く笑顔がピシッと一瞬止まり、次の瞬間には少し引き攣った笑顔に変わっていた。しかし、リオはそれには気付くことは無かった。

 そんな弟子を少し呆れた表情で見守るシャロンは『そっち方面の教育が足りなかったか……イクミ……スマン』と心の中、全力で謝罪することになった。

 

「えっと……私も……か? 二人で行った方が良いんじゃないか? 若い者同士仲良くな」

 

 引き攣った笑顔のシャロンからのイクミを気遣う発言だったが、リオとしては『親友ティルの頼み』がある為、その事に気付けるベクトルを持ち合わせていない。

 

「いえ! (・・)は三人で行きたいんです!」

「そ……そうか……」

 

 更に笑顔を引きつらせたシャロンは『打つ手を失った……スマン……イクミ』と再度、心の中で全力謝罪することになるのだった。

 

「ダンスパーティー楽しみですね(リオ君の……バカ……)」

「そうだ、イクミ! 後で、ダンスパーティー用のドレスを買いに行こう!(今回のダメ弟子の謝罪も兼ねて)」

「後でティルにお礼言わないと(上手く行った報告も兼ねて)」

 

 引き攣った笑顔を浮かべるシャロンとイクミ、安堵の笑顔を浮かべるリオ、彼らの笑い声(一部乾いた)が夜のレナスに響くのであった。


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