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第18話 根性無し

 イクミがリオ達のところに来てから二週間程が経過したある日のこと。イクミとシャロンが日用品の買い出しに出かけていて、工房でリオは一人錬金術に関する本を猫足のソファに座りつつ呼んでいると、バタンと勢い良く工房の扉が開け放たれた。扉の鈴が、勢いよく開けられたことを叱りつけるかのように、大きくその音を鳴らそうとするが、床に落ちた鈴は少し大きめで悲しげな音を一つ立てると程無くして沈黙する、いつのも彼が錬金工房に飛び込んで来たのだ。

 だが、いつもと違ったのは彼が泣いているのでは無く、嬉々とした表情をしている。

 リオは、慣れた手つきで床に落ちた鈴を拾い、扉に戻しつつティルに訪問の旨を伺うことにする。

 

「今日はどうしたの? 表情を見る感じだと、頼み事とかではなさそうだけど?」

 

 その言葉を聞いたティルは、悪戯好きな子供のような表情を浮かべ、学園の制服にある内ポケットを探るとキレイな手の平サイズの紙を取り出した。

 

「コレなんだと思う!?」

「?」

 

 リオは、首を傾げて少し考えるが、すぐに首を横に振って、思い当たらないことを主張した。

 

「これは学園のダンスパーティーの招待状だ!」

「あぁ~そういえば、そういう時期ですか」

 

 興味が無さ過ぎて忘れてました。と言わんばかりな反応をするリオに、大きくため息を返すティル。

 

「おいおい……このティル様が、美女二人に囲まれて暮らしている癖に、一段も大人の階段を登れない根性無しな親友に、大人への第一歩である”デート”へ誘う為の必殺アイテムを授けようというのに、その反応はあんまりじゃないですかね? 大親友のリオ殿?」

 

 ティルの言葉に絶句するリオは、色々な感情が混ざって混沌とした表情をさせつつも、色に関しては赤一色に変化させていく。

 

「ちょっ! ちょっと待って! 根性無しはあんまりだ! それに……お、大人の階段って……」

 

 言葉の恥ずかしさからか、最初の勢いは何処へやら、徐々に言葉に勢いが失われ、尻すぼみになっていくリオの言葉に、ヤラシイ顔をしたティルが追い打ちを掛ける。

 

「美女と、一緒に、一つ屋根の下、過ごす、日々の、中で、異性を、意識、したことが、無いとは……言わせないんだぜ! このムッツリすけべ!!!!」

「ムッツリ違う!」

「すけべは否定しないのか!?」

「すけべも違う!」

 

 相変わらず、ニタニタ笑顔が留まる事を知らないティルは、手に持ったダンスパーティーのチケットをヒラヒラさせながら、リオに強烈な一撃を突き付ける。

 

「男に生まれた癖に……女の子一人デートに誘わずして、何が男か!!! そんな男に根性無しと言って何が悪い!!」

 

 リオは、嘗て無い衝撃を受けて思わず両膝を付く、そして上半身を支えられないかのように前に倒れると、咄嗟に両手を床に付いて身体を支える。

 

「そ、そうだったのですか……男に生まれた以上は、女の子一人デートに誘えない男は根性無し……ぼ、僕は……今まで何を……」

 

 ティルは膝を付くと、リオの左肩に手をやり、優しく声を掛けた。リオは、薄ら涙を浮かべた顔をティルに向ける。

 

「ここにダンスパーティーのチケットがある。シャロンさんとイクミを誘うと良い……大丈夫、今ならまだ”根性無し”を返上できるさ……」

 

 リオはチケットを持つティルの手を両手で力一杯握りしめた。

 

「ありがとう! 本当にありがとう!! これで僕は”根性無し”のレッテルを剥がすことが出来るんだね!?」

 

 ティルもウンウンと涙を浮かべながら何度も頷き返していた。

 しかし、ここで少し冷静になったリオが一つの言葉に疑問を抱いた。

 

「? なんでイクミと先生なんだ? 普通ダンスパーティーは二人で行く物ですよね?」

 

 それを聞いたティルは、凍りついたような笑顔を貼り付けながら、冷や汗をかき始めた。

 

「な、なんのことかな? ダンスパーティーに二人を誘うことだって、、ぜ、全然普通だろ?」

「……なんか怪しいな…………ティル……僕は、親友という間に”嘘”は無い物だと思っているんだ……今なら”まだ”親友でいられると思うんだけど……どう思いますか?」

 

 ティルは凍りついたまま、引き攣ったような笑顔を浮かべるという離れ業をしながら、滝の様な冷や汗を掻いていた。

 すると、次の瞬間。ロンダートからバク宙を決めると、そのまま土下座の格好に収まり、額を床に擦りつける。

 

「申し訳ありませんでした! シャロンさんをダンスパーティーに誘う勇気が無いので、リオを出しにして連れて来て貰う算段でした!」

「ティル……それは、根性無しを通り越して、最低ですよ……そして、先生みたいのがタイプなんですか……」

 

 リオは、未だに額を床に擦りつけているティルを生温かい眼で見つめていた。

 しばらく、そのまま放置しとくのも一興かと考えるが、さすがに居た堪れないので、大きくタメ息を吐き出した。

 

「先生とイクミを誘ってダンスパーティーに参加すれば良いんですね?」

 

 物凄い勢いで軽く額をすりむいている顔を上げたティルは、涙を溜めに溜めて大きな声を上げた。

 

「こ、心の友よぉぉおおお!」


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