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第17話 イクミの食文化

 飲食店を出ると、すでに太陽が傾きかけていた。あと二時間もすれば、太陽が隠れてしまうだろう。

 リオとイクミは、先の会話通り八百屋でショウガを購入すると、パン屋にも寄って小麦粉と重曹、ハチミツを購入して工房に帰ることにした。

 

「ただいまです」

「ただいま戻りました」

 

 工房に二人が帰ると、中では眩い光沢を放つ金属塊(インゴット)を完成させ、愛おしそうに撫でては悦に浸るシャロンの姿があった。

 珍しく髪を一つに縛って、作業で汗を掻いたのか頬には数本垂れた髪がへばりついていた。

 二人が帰ったことに、随分遅れて気付いたのか”ハッ”とした表情で『お、おかえり』と返してきた。

 

「シャロンさん、お昼大丈夫でしたか? 私達、外で済ませてしまったので……」

「ん? そんなことは全然問題無いぞ! 果物だけしか食べてないけどな」

「先生、せめてパンくらいは自分で用意して食べて下さいよ……」

「私はリオちゃんが用意してくれたご飯じゃないと食べたくなぁ~い☆」

「いえ……先生……そういうの結構ですから」

 

 しょんぼりするシャロンを放っておいて、ホットケーキとクッキーの準備をするイクミ。

 シャロンが果物しか食べていないということで、早く出来上がるホットケーキから作業を始めているようだ。

 小麦粉、甘味料、重曹をよく混ぜた物に、ホーンブルミルクとクラウンチキンの卵を加えて更に混ぜる。

 弱火で温めたフライパンに、バターを一切れ落として溶かすと、先ほどのホットケーキの元をフライパンに広げて焼いていく。

 すると、香ばしい香りと共に、記事の表面に泡が出てくる。 何度か、焼き面を確認すると、フライパンを振ってホットケーキをひっくり返した。

 きつね色に程良く火の通った表面、さらに香ばしい匂いが工房を満たしていく。

 

 先ほどまでしょんぼりしていたシャロンも、今では台所が良く見えるテーブルの席に膝立ちで座って、キラキラした瞳でイクミの手元を見ている。尻尾が生えていたら元気よく左右に振っていることであろう。

 イクミが一枚焼きあげると、白い皿に乗せ、更にその上にバターを一切れとハチミツをたっぷりかけた。

 フォークとナイフを添えてシャロンの席の前に置いてあげる。

 シャロンは『食べて良いの?食べての良いの?』と言いたげに、皿の上とイクミの笑顔を交互に見ている。大型犬のように『よし』の言葉を待っているようだ。

 

「どうぞ、召し上がって下さい」

 

 イクミの言葉を聞くや否や、ナイフとフォークで一口より若干大きいようなサイズに切りだし、口の周りにハチミツが付くのも厭わず、大きな口で頬張った。

 すると、シャロンの目からは感動の涙が溢れ出していた。

 

「美味い……美味いぞイクミ! 結婚してくれ! なんで私は男に生まれなかったのかと、今更ながらに全力で後悔しているぞ!」

「ふふふ、ありがとうございます」

 

 シャロンはテーブルマナーも何の其の、野獣のようにホットケーキを食べていた。

 続いて、リオの分のホットケーキも焼き上げる。リオも待ちきれないとばかりに、口を付けると『美味しいです!何よりも優先して良かったです!』と言って、すぐに平らげてしまった。

 イクミも自分の分を食べると、砂糖を甘味料に変えてるので、故郷の味とは言えないかもしれないが、とても近い味に満足するのだった。

 

 ◆

 

 晩御飯の前にホットケーキなんて食べてしまった物だから、当然のように晩御飯は食べられなくなってしまった。

 イクミにお茶を入れて貰って、それを飲みながら今日の話で立てた仮説をシャロンと相談したりしながら、その日は一日を終えた。

 そこから数日間は、イクミの世界の食文化の再現が彼らのブームになって行った。

 一番リオとシャロンを驚かせたのは、アモーレ豚から作られている接着剤が、イクミの世界ではゼラチンという物だったことだった。

 しかも、そのゼラチンを使用して作られたゼリーという食べ物は、まるで食べられる水晶のように見た目もキレイであり、その食感が素晴らしかった。ツルっとした食感は、今までの食材では体感することが無く、しかもイクミが言うところでは、このゼリーという物はコラーゲンという物が含まれていて、美容にも効果があるらしいということだ。それを聞いて以来、シャロンがゼリーを簡単に作る為にと、イクミの話を元にして『魔道具 冷蔵庫』を作成したりと、大変な目にあうリオだった。

 そこで作成した『魔道具 冷蔵庫』がイクミに聞いていた通り、かなり便利な代物で、『低濃度エーテル溶液』を恒久的に使用する難点はあるが、物を低温で保存できる機能は、錬金術でも大きな効果があった、冬場にしか精製できない物でも精製することが出来るようになったのだ。

 その代わり、イクミは毎日のようにゼリーを作らさせることになってしまうのだった。


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