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第15話 世界の話(1)

 朝礼会議を終了した三人は、それぞれの作業に分かれた。

 イクミは各部屋の掃除、リオは洗濯物、シャロンは鍛冶屋の親父(とくいさき)からの依頼を片付ける。

 ちなみに鍛冶屋の親父からの依頼というのは、金属の精製である。

 本来、金属と言うのは剛性が重要視されるが、こと武器に関しては柔らかさについても重要な要素なのだ。

 剣や斧と言われる武器は、切るというより”殴りつける”要素が強い。その為、重くて頑丈だ。

 それに対してサーベルやレイピアと言った武器は、”斬る”や”突く”に重点が置かれて軽く、しなやかなのである。

 鍛冶屋の親父からは、そのサーベルやレイピアを製造する為の、柔らかい金属を頼まれていた。

 ここで、この錬金工房で一番の設備費用が掛かっている魔道具・地獄のカマドを使用する。

 魔道具・地獄のカマドは、名前自体は底冷えのするような物が付けられているが、利便性は折り紙つきである。

 どういう物かというと、炎神(イフリート)水女神(ウンディーネ)の加護を与えたカマドで、”水女神の紋章”に標準エーテル溶液数滴と”炎神の紋章”にキレイな油を捧げ魔力を流し込む、すると外部への熱の流出を完全に防ぐと共に、カマド内の熱を最大三千度まで高めることが出来る道具なのだ。

 このカマドを作ったのは、シャロンの直接の師匠であるアモス=トリンドルである。現役当時は錬金術の始祖に匹敵する錬金術師と言われていたが、現在は術師を辞めて諸国漫遊を満喫している。

 魔道具自体もアモスが世界で初めて作成したのである。アモスは優秀な錬金術師であり、同時に優秀な魔術師でもあったのだ。

 数々の魔道具を作ったが、どれもこれも錬金術を行う為の補助具ばかりであり、生活用品としての魔道具は一切作っていなかった。

 魔道具の作成方法については、マニュアルを作って出版したので、一部の魔術師が作ってはいる。だが、どれも品質が悪く、消耗品の使用率も高いので高級インテリアとして貴族が購入する程度であった。

 以前、リオとティルが作成した魔力カンテラも、光源としての質は標準であり、魔力の燃費が凄く悪いが、”消耗品を使用しない”という点に特化させたのだ。そういう意味では、画期的であるが、一般受けはしないのである。

 余談であるが、魔力カンテラを学園に提出したティルの評価はS、A、B、C、D、E、Fの内でAの評価であった。学園で一番の成績の子(魔方陣の形変更による発動力の違いの検証)はSだった。

 

 シャロンが作業をしている工房で、気が散ってしまいそうな内容の話をするのも悪いと思ったリオはイクミを連れて町に出た。

 洋服屋の向かいにある飲食店で個室を借り、そこで話をすることにしたのだ。

 この飲食店は昼間は普通の飲食店だが、夜になると酒場に変わる店なのだ。そうなると個室の需要も必然的に高まるのである。個室と言っても、大きくは無く、四人掛けのテーブルを囲むように薄い壁に囲まれていて、申し訳程度の引き戸があるだけだ。

 リオはイクミの向かい側の席に着くと、持ってきた小さい黒板と石灰、紙とペン、インクをテーブルの上に並べて話を開始した。

 

 まずは、リオの住む世界についての説明である。

 イクミがリオ達の世界に来て四日という日数が経過しているが、町の中で見た物や、普段の生活の中で感じられる物には限りがあるのだ。

 リオは現在のレナス王国の状況、現王の名前、即位してから何年目であるとか、現在は他国と戦争状態には無いなど、思いつく限り知っていることを簡単に説明した。

 周辺の国や大きな町、主に交流がある村、馬車での移動時間など、町の門の外の治安状況、盗賊、山賊、魔物についてなど、様々な説明を時々黒板を使い簡単な絵も(まじ)えて行った。

 イクミはそれらをリオが持ってきた紙に、キレイだけどどこか女の子らしい文字で書いていく。

 そこで初めて分かったのだが、イクミが書く文字は見たことも無いのに読むことが出来るのである。

 

「イクミ、僕はその字を見たことが無いのだけど読むことが出来るんです……不思議だ……ちょっと実験したいんだけど良いですか?」

「はい。良いですよ?」

「『サマーライス』って書いて貰えます?」

 

 イクミは言われた通り『サマーライス』と紙に書くと、リオに向けて見せる。

 

「全然違う文字……だけど読むことが出来ます……」

「ん~……もう一度書いても良いですか?」

 

 イクミは今度『さまーらいす』と紙に書き、リオに向けて見せた。

 

「ん? 形が随分違いますね……だけどサマーライスと読める……」

「……もう一度書きます。確認して下さい」

 

 イクミは今度は『夏米』と書いた。

 

「これは? 随分細かい文字ですが……『深緑』ライスですか。 これもサマーライスなのですか?」

「私の国では『サマー』は主に『夏』と言い、こちらで言うところの『深緑』にあたります。続いて『米』は『ライス』とも言うのです」

 

 イクミが『夏』と『米』を指差して説明を補足する。

 リオは、今の説明から一つの仮説を立てた。

 

「もしかしたら、何かしらの強制力が働いている?……人の感覚とは曖昧な物ですから、何かが僕達の感覚に介入し、お互いに認識できる物へ強制的に翻訳などを行っているのでしょうか……」

「そうなりますと……メートルなどの単位が同一なのは?」

 

 リオは腕を組んで少し考えると、眼鏡を抑えて説明を始めた。

 

「あくまで先ほどと同じように仮説ですが、十メートルという長さを見た時に、僕の見ている十メートルと、イクミが見ている十メートルは物理的には違うのだけど論理的に改ざんされて”十メートル”に置き換わっているのかもしれません」

「?」

 

 イクミは今一理解できないのか首を傾げた。

 

「つまりですね。 目に見える物が全てでは無いということですね。 そこに何もなくても、”頭”がそこにあると感じれば、その”頭”にはあるとしか認識出来ないのと同じです」

「つまり、幻を見せられて、それを現実と認識しているということですか?」

 

 リオは我が意を得たりと、眼鏡を抑えゆっくり頷いた。

 

「僕の世界では、国によって言語が異なる国があります。そういうところでは、両国の言葉が理解出来る人間を、間に介して”通訳”して貰うんです。僕とイクミの間には、目には見えず、認識も出来ないけど、かなり高い能力を持った同時通訳者がいると考えれば良いのかもしれません」

「私の世界でも、言語が違う国では”通訳”を付けたりしますので理解できます。そうなると、別の言語でも対応できるのか気になりますね」

「そうですね……イクミの母国語以外の国の言葉で、何か書けませんか?」

「良いですよ。 そしたら先ほどと同じ『サマーライス』を書きます」

 

 イクミは『summer rice』と書く。

 

「たしかに最初や二番目に書いた『サマーライス』とは違う形ですけど、ちゃんと『サマーライス』と読めますね」

「ということは、私がしっかりと認識している物は、その通りに変換されるみたいですね。三番目に書いた『夏米』は、『サマーライス』を無理矢理に”当て字”した物なので」


リオは少し首を傾げる。


「あてじ?」

「他国の言葉などを無理矢理、母国の文字で表すことです」

「なるほど……ということは、逆にかなりの高性能な通訳者のようですね。 認識が出来なくても近しい言葉に変換してくれるようですし、先ほどの『夏米』も僕には『深緑』ライスと読めました」

 

 文化や周辺の情勢説明から随分と脱線してしまった。

 だが、リオは一つの大きな疑問に仮説を得ることが出来たのだった。


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