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第13話 リオの魔術

 リオは自分の親が凄く苦手だった。

 物心ついた時から、リオの親達は幼児虐待を繰り返していた。

 理由も無く繰り返される暴力。

 暴力を振るわれることが、普通に感じ始めたある日、家の扉を叩く者がいた。

 それは一人の男性を連れた町兵達だった。

 扉が開かれたと同時に、なだれ込む兵達。

 兵達はリオの両親を拘束すると、縄を掛けて外に連れ出して行った。

 リオは涙を流していた。 それは、親が連れて行かれてしまった事が原因なのか、親の暴力から解放されるかもしれない期待の為なのか、リオには分からなかった。

 兵が連れて来た男性は、リオを優しく抱きしめると、手をかざして治癒魔法をかけていく。

 生傷や打撲だらけだった身体が少しずつ治っていく。 その時リオには、その男性が神様とか精霊とかそういった者に見えていた。

 男性はリオを優しく抱き上げると『君はコレから僕と一緒に暮らすんですよ。 今まで妹夫婦がすまなことをしましたね』と言った。

 その男性は、リオを養子として預かると、自分の名字を与えてくれた。

 リオが後から聞いた話だと、実の親達は真面目に働くこともせず、方々に借金をしては踏み倒し、最後では強盗まで行っていたらしい。

 町兵が気を利かせて、子供の引き取り手として実の親の兄弟である『ダリル=アストラーデ』を呼んでいたのだ。

 町兵はダリルと振興があったらしい。 というのもダリルは、優れた魔術師であり、魔物の討伐が行われる時には、兵からの依頼を受けて同行し、時には共に戦い、時には治療を施していたのだ。

 それから『リオ=アストラーデ』として、ダリルとの生活が始まる。

 

 ダリルは何かと優しかった、そして愛のある叱責を初めて体験した。

 ダリルは何があっても手を上げることは無かった。

 リオが徐々に笑顔を取り戻し、他人とも普通の子供のように会話が出来るようになった六歳のある日、ダリルの仕事の都合で、生まれ育った町から出て、レナス城がある城下町へ家を移すことになった。

 その時、同行する旅団の一向の中に、錬金術を学んでいる師弟がいた。

 若き日のシャロン=マクレガーと、その師匠である。

 旅団の中には、子供がリオしかいなく、すぐ近い年齢がシャロンだけであった。

 シャロンはリオを可愛がり、リオもシャロンに懐いていた。

 シャロンとその師匠は、しばらくレナス城下町に留まるということで、今後も仲良くしていこうと話していた。

 レナス城下町での暮らしも一年が経った頃、リオはダリルの勧めで職人通りの近くにある王立魔術学園への入学決まった。 日頃からダリルの魔術を身近に見ていた事もあって、高い適正をしめしていた。

 そして、学園に入学して二年が経ったある日、事件が起こる。

 レナス城下町付近に魔物の大群が押し寄せているという、『白葉』の季節で食べ物が不足した為、山から下りてきた強力な魔物に追いやられた魔物が森から出て来たのだ。

 

 町兵からダリルへ協力要請がきた。

 ダリルは快く承諾し『すぐに戻ってきますよ』と、リオに告げるとローブと杖を片手に町兵と共に家を出て行った。

 魔物の討伐にダリルが同行することは、よくあったのだが、その時だけはリオは嫌な予感を感じていた。

 しばらくすると、兵士たちの勝鬨(かちどき)が聞こえてきた。 それが聞こえてきてもリオの嫌な予感は収まらなかった。

 リオが町の外に向かって走っていくと、城門から木の板に乗せられた重症のダリルの姿があった。

 ダリルへと駆け寄ると、ダリルがリオに『ドジをしてしまいました。 私の魔術では、この傷は癒せません』と告げる。

 リオは溢れ出る涙を抑えることが出来なかった。

 以前、親が連れていかれた時とは違う、自分の大切な人と二度と会えなくなってしまうかもしれないことから出てくる涙だとハッキリ分かった。

 リオはダリルから教わり、学園で磨いてきた自身の最大魔力でダリルへと治癒をかける。

 ダリルの傷口が塞がっていく。

 一番大きな傷が塞がったことに安心すると、塞がった傷が再度一気に開きダリルが苦しそうな声を上げる。

 ダリルが優しい笑顔をリオに向けると『ありがとう……リオとの生活の日々は私にとって掛替えの無い物でしたよ…… 僕の家にある物を売ってお金に換えて……れ、錬金術の師弟のところに行きなさ……い。 か、彼らなら、あなたを助けてくれます』と、最後の力を振り絞るように言葉を紡ぐ。

 ダリルが震える手でリオの頭を一撫ですると、その手が力無く地へ落ちる。

 ダリルは笑顔だった。

 リオは”父”の手を握ると、苦しそうに声を上げる。 


 『何が、魔術ですか! 大切な人、一人救えずに何が魔術師ですか! 僕は何の為に魔術を……父さん……僕は……もう……自分の魔術を信じることができません……』


 リオの叫びが、レナスの空へと響くのであった。

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