魔戒なる王
『魔戒なる王』
彼が現れたのは一世紀以上前のこと。
人外の姿をした神の如き力を持つ怪物であり、人の意思を嘲笑う怨敵。
王が降りた大地は瘴気に覆われ人が暮らすことは不可能となった。元々いた国民は魔人へと変容し、黒い大地で徘徊している。
そして、勇者たちが「魔王」を討伐しようと動き出した。
伝説の勇者様なら魔王だって倒してくれる、そう信じられていた。だが、帰ってきたのは勇者の頭蓋。
リッチが運んできたその骨は紛れもなく勇者本人のもの。
民は怯えた。国は黙った。
人は、魔王には勝てない。そう断言できる結果が帰ってきたのだ。
なら人類ができる行動は一つだけ。
泣いて、狂って、絶望すること。
――――――ところが。
一人だけ、命知らずの大馬鹿者がいた。ソイツは救世主でも、ましてや勇者でもない。
蛮族、狂戦士、異端者。
彼を形容する言葉はいくらでもある。
だが、人は彼をこう呼んだ。…………ただの「騎士」と。
◇◇◇
「だ、誰か助けてくれぇ‼」
魔人たちに連れ去られ、黒の王国へと連行されてしまった青年。
剣も、力も持たない彼にとってここは地獄以外の何物でもない。
ただ、死ぬしかないのだ。
本来なら。
「……」
《それ》は、空から降ってきた。
少し汚れた鉄の鎧。フルプレートアーマーとも呼ばれる装備を纏った者。
「え…………?」
片手剣と盾を構え、魔人・魔物へ襲い掛かるバーサーカー。
一応の分類は片手剣となっているが、彼の振るう剣は大剣だった。常人なら両手で持つことさえもままならないであろう大きさと重さ。
そんな怪物を片手で扱う彼もまた、怪物だった。
「騎士……?」
『キシャぁあああああ⁉』
騎士はリッチが召喚するゴブリンたちを圧倒し、死骸の山を建設していく。
人が可能である限界の動きを行い傷つく身体。しかし騎士は止まらない。
彼には一つだけ、《力》があった。
それは【超回復】。文字通りどれだけ傷つくことがあっても次の瞬間には立ち上がる、生きたゾンビの権能だ。
「……」
その時、騎士の剣が光った。戦技【赤血の剣獅子】。
赤光を纏う剣はゴブリン、オーガ、コボルト、グールの血で更に赤く染まっていく。
彼の生命力と血液を媒介として顕現させる【死神の加護】。彼自身は納得もしていないが、彼の戦いを天界から観ていた【死神】は彼を気に入り加護を与えた。
それが彼の戦闘技法へと昇華されている。
そして、赤が更なる光を見せた時。
戦技【赤牙斬撃】
大振りに振るわれた斬撃は空気を裂き、血の斬撃を呼び出す。
本来剣が届かない領域すら両断したその技は、まさに人外の剣技。神の御業とも思えるその一閃は軍団を切り裂き、その先にいたリッチをも容易く両断した。
「う…………ぁ……」
連れ去られた青年はただ見ていることしか出来なかった。動けるはずもない。
(本当だったんだ……騎士は、人を超えているって噂……!)
周りの敵は消えた。
「……」
騎士は青年にそれを差し出す。
「えっ、これって……転移の宝石⁉」
最上級の冒険者たちが保有するダンジョン攻略の命綱。そんなものを差し出す簡単に騎士に青年は畏怖を超え、尊敬すら覚える。
「あ、あのっ……ありがとうございます!」
「……」
感謝する青年。さっさと行け、と手を振る騎士。
「あ――――――」
青年が何か言いかけたが、騎士は転移を強制発動させる。
行き先は人間の王都。
安全な場所といえばあそこしかない……一応は配慮していたのだ。
「……ハァ……」
心の臓を抑えながら、騎士は膝をつく。
先程の戦闘で無理をしたわけでもない。病を持っているわけでもない。
瘴気に侵され限界なワケでもない。
ただ、緊張が解けたのだ。
そう……この男、とんでもないコミュ障だ。
元々人と話せなかったのが長く「黒の王国」にいたせいで更に悪化し、人の前に立つだけで緊張してしまう。
連れていかれる青年を見て教会の屋根から飛び降りたのはいいものの、励ますことなど出来るはずもない。
故に助け、帰すことしか出来なかった。
「………………」
もう少し、人と話すことを覚えるべきだ。
彼は溜息を吐きながら、剣を握る。
「……行くか」
彼が向かう先は、魔戒なる王の住まう魔城。
孤独な戦いのその先に。
【ステイタス】(最大値999)
名前:不明
年齢:21
異名:騎士、狂戦士、異端者
筋力:870 ー剣を振るための腕ー
敏捷:700 ー回避のための脚力ー
耐久:EX ー才能と不屈の闘志ー
技量:910 ー才能を超えた実戦ー
信仰:000 ー神に対する信仰なしー
魔力:000 ー生来の才能なしー
合計値:EX
――――――測定不能。




