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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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聖女を追放した国は、まだ何も知らない 〜元カルト二世の私が、神を必要とさせるまで〜

作者: 白昼夢
掲載日:2026/01/30

聖女を追放した国は、まだ何も知らない

〜元カルト二世の私が、神を必要とさせるまで〜





 白亜の神殿に、冷ややかな声が響く。


「聖女エリシア。貴様を聖女の座から追放し、この国から追放する」


 断罪台の上に立つ私を見下ろすのは、かつての婚約者である王太子。そして、その傍らで慈悲深い表情を浮かべる公爵令嬢リュシエンヌ。

 彼女は転生者でも悪女でもない。ただ、この国の秩序と道徳を体現する、非の打ち所のない「正解」だった。


「……承知いたしました」


 私は静かに頭を下げた。


 周囲の貴族たちは、私を「私利私欲に走った偽物」と蔑みの目で見ている。民衆の中には泣いている者もいたが、彼らは決して声を上げない。

 人は「正しい側」にいたい生き物だ。

 そして今、この国における正義は王太子とリュシエンヌにある。


(いいのよ。物語としては、ここでハッピーエンドだものね)


 偽りの聖女が去り、真の理想が国を導く。

 だが、彼らは知らない。

 「正しさ」だけでは、人は救えないということを。

信仰とは「救い」ではなく「依存」である

 


[国境近くの寒村]



 泥をすすり、流行病に怯えるその村で、私は一人の母親に出会った。

 息の絶え絶えな子供を抱き、泥にまみれて祈る女。


「神様……助けてください……なんでもしますから……」


 その姿に、私は前世の記憶を重ねる。


 信仰に狂い、全財産を献金し、最後には私に「お前の祈りが足りないから救われないんだ」と吐き捨てた母の顔。


 ――ああ、懐かしい。

 この、絶望に焼き付いた飢餓感。これこそが「神」の苗床だ。


「大丈夫。神様は、あなたの苦しみを見ていらっしゃいますよ」


 私は慈愛に満ちた笑みを浮かべ、子供の胸に手を当てた。

 聖女としての魔力を、あえて「光の粒子」として視覚化させ、ゆっくりと、演劇的に流し込む。


「……ああ……!」


 子供の顔色が劇的に良くなる。


 だが、ここで「はい、治りましたよ」と離してはいけない。

 私は母親の手を握り、彼女の目を見つめた。瞳孔が開くのを待ち、低い、安心感を与える周波数で囁く。


「あなたがずっと一人で頑張ってきたことを、私は知っています。もう、一人で背負わなくていいのですよ」


 母親の目から、堰を切ったように涙が溢れた。

 彼女が縋り付いたのは、神ではない。


 私という「個」への、絶対的な依存の始まりだった。



[蝕まれる王国]



 数ヶ月後。


 王都では、リュシエンヌが「正しい」統治を行っていた。

 彼女は公平に、効率的に、制度に則って民を救おうとした。

 だが、治らない病、不当な格差、理不尽な死――。

 「正しさ」というシステムからこぼれ落ちた人々は、心の拠り所を失っていた。


 一方で、国境の村は変貌を遂げていた。


 村人たちは私に差し出すために、なけなしの食料を、労働力を、そして「忠誠」を競い合うように捧げている。

 私は、彼らにささやかな奇跡を与え続ける。

 同時に、**「外の世界がいかに汚れているか」「私を信じる者だけが選ばれた民であるか」**を、説法の中に混ぜ込んで。


「エリシア様……あなた様だけが、私たちの光です」


 跪く村人たちの目は、かつての私の母と同じ、狂信的な輝きを放っていた。



[救済の終着点]



 ある日、王都からの調査員が村を訪れた。

 そこにあるのは、貧しいはずなのに、不気味なほど統制され、幸福そうに笑う異様な集団。

 調査員は、玉座のような椅子に座る私を見て、戦慄した。


「エリシア……何を……何をしたんだ!? この村の人間は、まるでお前に魂を抜かれたようだ!」


 私は優雅に立ち上がり、首を傾げた。


「失礼な。私はただ、彼らが欲しがっているものを与えただけですよ」


「欲しがっているものだと?」


「ええ。**『自分を救ってくれる、絶対的な誰か』**です」


 私は調査員の耳元で囁く。


「リュシエンヌ様は立派な方だわ。でも、彼女は民に『自立』を求めるでしょう? それは弱者にとって、死ねと言われるより残酷なことなのよ」


 調査員の顔が青ざめる。


 村の入り口には、王都から逃れてきた新たな「信者」たちが列をなしていた。


「神が人を救うのではない。救われたい人間が、神を必要とするの」


 私は、彼らの望む聖女を演じ続ける。


 この国すべてが、私の足元に跪き、依存し、思考を止めるその日まで。

 ――さあ、祈りなさい。

 その絶望が、私の力になるのだから。





あとがき

 最後までお読みいただき、ありがとうございます。

 「救済とは何か」というテーマで、一風変わった聖女の物語を書いてみました。

 もし「この先の展開が気になる」「この聖女の行く末を見てみたい」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援をいただけますと大変励みになります。





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― 新着の感想 ―
追放されて正解だったのか失敗だったのか悩めかしいですね。 強いて言うなら昨今の宗教詐欺は何の力もなく詐欺による搾取ですが彼女は力がある分、違うかなと思ってしまった。 面白い作品でした。
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